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紙メディアをめぐる問題

シンポジウム「2050年に紙はどうなる?」(7月25日開催)から,日本製紙 研究開発本部 開発企画部 技術調査役の種田英孝氏の講演を紹介する。

紙の使用内訳

2000年の紙の総生産量は3213万トン。使用内訳は,情報媒体(新聞・雑誌)としての出版用紙が約半分弱を占める。
プリントアウトや伝票という形で作業上で使われる紙としての役割が189万トン。そのほかに主要な用途として,流通を担う工業用の段ボールが,情報媒体としての紙の役割と同じくらいの1381万トンを占める。われわれの身近な紙であるティッシュペーパーやトイレットペーパーなど家庭用紙は意外と少なく,171万トン,包装用は104万トンになっている。

情報メディアをめぐる問題

(1)マスコミに対するミニコミ(双方向メディア)の発達
印刷技術も含めて大量に効率よく複製して配るというのがマスコミの考え方であり,紙の生産技術の発達も,いかに大量に速く安く作るかという観点からいろいろな改良が加えられてきたが,最近の傾向として,双方向的に,小規模で発信するミニコミ形態のものが起きている。とくに,電子メディア,インターネットの発達にともなって双方向に情報を発信する傾向が出ている。
(2)流通システム(書籍の返本・断裁の増加)
書籍が大量に出版されるなかで,約40%が返本され断裁されるという問題も大きく取り上げられている。
(3)情報の利用(検索・加工の必要性)
今までマスコミのなかでの情報とは,一義的に読者が読むものであったが,現在はその情報をいかに使うかという観点から,情報の利用性が大きく見直されてきている。情報を効率よく活用するための検索機能を持つこと,情報加工がしやすいことが求められている。紙媒体に印刷されたものは検索がしにくく,またその情報をさらに何かに使おうとすれば,コピーを取ることはできても,加工という面では大変利用しにくいメディアだということが分かる。

技術的な課題:現在の動き

紙と電子メディアは,あえていえばライバルという立場を前提として,現在の動きを技術的な視点に絞って考えた。

(1)電子媒体の紙への展開
e-ink,e-paper,リライタブルシート,携帯型モニターなど,紙の代わりに使うための研究開発が盛んに行われている。
(2)環境問題への関心の高まり 森林資源は地球上では有限であり,そのなかで際限なく紙を消費していっていいのだろうかということから関心が高まっている。
地球温暖化が昨今いわれているが,化石燃料がどんどん消費されて地球が温暖化していくことを何とかしなくてはいけないという一般的な環境問題の高まりもあるのかもしれない。
(3)紙の消費量
紙の消費が増えていくのと同時に,ゴミが大量発生し,東京都で発生するゴミの半分は紙ゴミである。オフィスでも,プリントアウトした紙をちらっと見てすぐに回収紙として出すなど,消費され続けることが果たしていいのかという実感のなかでこのような問題が出てきているのだろう。

製紙会社側から見た環境問題

世界で消費される木材の消費量の1998年のデータを見ると,紙を作るために使われている木材は,全体から見ると約13%にすぎず,ほかの大部分はエネルギー源,あるいは建築用資材として使われている。紙の原料の56%は古紙で,リサイクルを推進して紙として再生している。チップのかなりの部分が人工林材という形で,二次的に植えた木を育て,それを伐採してパルプにしているものである。

パルプあるいは紙を作るとき,どうしてもエネルギーが必要になる。KP(クラフトパルプ)で新聞用紙を作る場合,1d当たり約8000Mcalが必要になる。クラフトパルプの特徴として,木材のなかからセルロース部分を取り出すとき,余分な部分を燃料として回収し再利用しているので,実際に必要な化石燃料は,かなり少ない。
DIP(再生紙から出てくるパルプ)を使うと,必要なエネルギー量は約4000Mcalで半分程度だが,化石燃料はクラフトパルプよりかなり多く必要とする。古紙の回収を推進し再生パルプを使おうとすると,むしろ化石燃料が多く必要とされる。
新しい木からできたパルプで紙を作る場合は,その木のいらない部分を有効利用することにより,むしろ化石燃料の使用を抑えられるということがわかる。

エネルギー,化石燃料の使用の問題等を含め,最適な資源活用の推進のために,日本の製紙会社では主に海外で植林を進めている。日本の国土の狭さや,人件費の高さなど,いろいろな問題があるからだが,山というより,農業あるいは畑の感覚で植林することで,植えた木を伐採するときにもコストを抑えることができるし,植林時にも手が掛からない。

森のリサイクル

紙は,もともと自然に生えていた木材から採ってきたものなので,燃やしてしまえば二酸化炭素として排出される。しかし,その二酸化炭素は,再び木のなかで固定化されて戻ってくる。人間が生きていく上では,どうしてもある程度のエネルギーは必要だが,やはり化石燃料は有限であることを考慮しなくてはならない。それに比べ,森が二酸化炭素を固定するのは無限に存在する太陽エネルギーによるもので,森の吸収した二酸化炭素と太陽エネルギーを有効に活用していこうというのが森のリサイクルである。

2050年に向けての開発課題

紙メディアに関しては,中国やインドなど,現在紙をあまり使っていない国々,しかも人口の多い国々の紙需要が増加したらどうなるかということについて,もっとグローバルな視点で対応していく必要があるだろう。
また,エネルギー回収を含む有効利用の確立が必要だ。紙をゴミとして処分するのではなく,そこからエネルギーを取り出し有効に利用していく。太陽エネルギーを使った大きなリサイクル環境を作っていくのが,紙メディアの環境問題にとって大きな取り組みになるだろう。この課題を解決できれば,紙メディアの現状で一番の問題とされる環境,資源問題は,かなりクリアされるのではないだろうか。
一方,ライバルである電子メディアについては,資源問題で紙をたたくより,ヒューマンインタフェースの改善に最優先で取り組んでほしい。
エネルギーも含めた総合的な優位性についてみてみると,紙関係は現在すでに装置や運用面からも,しっかりとしたシステムが構築できているが,電子メディアは,はたして今後どうなるのかがポイントではないだろうか。

報告記事をご覧ください。

2001/08/23 00:00:00


公益社団法人日本印刷技術協会