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印刷技術は出尽くしたか?どこに向かう、将来の印刷

印刷はこれからどうなるという問に対して、印刷がなくなるという話は聞いたことがない。もしそれを論ずるとすると、何十年以上など相当先のことをいろいろ考えなければならない。それ以前のところでは、恐らく今の延長で印刷は発展しつづけるのだろうが、そこにはどのようなブレークスルーがあるのかが見え難くなっている。印刷技術は出尽くしたのだろうか?

印刷の定義は過去にいろいろされた。メインは大量複製手段としてのもので、そのことは「21世紀に、印刷を問う」にも書いた。この大量複製の派生にモノの加工としての印刷がある。これは日本の大手印刷業の一大特色になっていて、LSIのマスクなど微細加工にまで及び、今後もナノテクなどのブレークスルーに関係して発展して行くと考えられる。

要するに技術的な意味での印刷は、紙の印刷と、派生の加工技術が発展したものとに、袂を分かつ時がきたのかもしれない。では情報媒体としての印刷はどうなるのであろうか。人間が文字を発明して以来永きにわたって情報が「モノ」でもあった時代が続いた。手書き、彫刻、木版、活版印刷などなど、紙への印刷も「モノ」として計られる一面をもっていた。しかし電子メディアの登場で情報はモノでなくてもよいようになった。ここでも印刷は「モノ離れ」した情報と袂を分かつようになった。

紙の印刷の行く先は孤立化への道だろうか? いや印刷物を作っている人は「モノ」を作っている気持ちはなく、コンテンツに形を与えているとすでに思うようになっているだろう。それはプリプレスのデジタル化DTP化によって、自分たちの作業の内容がフィルムや刷版よりも、テキスト・図形・画像といったコンテンツの方に近いことに気がつくようになったからである。

以前から「印刷あり、文化あり」というような標語があったが、印刷業がまだコンテンツ産業といえるものでもないことは、そのコンテンツの意味を考えた処理がいつでもされているわけではないことからも明らかだ。しかし過去の印刷のノウハウのうち「モノ離れ」した部分が寄り添うところはコンテンツしかないのかもしれない。コンテンツこそ文化を形成している要素である。

そもそも人間は遺伝子だけではできているのではなく、生れ落ちてからの人工的な環境が人間を育てている。遺伝子と対になるものとして、体外の言葉や生活習慣など文化的な要素(ミーム)があって初めて人間は形成されるし、そのミームも遺伝子と同じように継承・進化する。遺伝子の変化はなかなか起こらないが、文化の遺伝子であるミームはもっと速く変化する。そこにメディアが関係する。
印刷が文化を背負ってきたような言い方がされるのは、例えば幼児が絵本から得る情報が大きかったことからもわかる。しかしそこにTVが入ってきて…どうなったのだろうか? 何が違うかは何十年間観察を続けないとわからない。印刷文化が支えてきたミームをどんな媒体でもいいから良い形で未来に継承するのが、「モノ離れ」後の印刷(及び元印刷)の使命になるのではないだろうか。

関連情報:これからバイオ,ナノテク,AIなど科学・技術が加速的に進歩して,印刷の周りにも新たな状況が生まれようとしている。10年あるいは50年後,グラフィックアーツの姿はどのようになっているのだろうかを考えるシンポジウム「2050年に印刷はどうなる?」が、2001年9月18日(火)に開催されます。

2001/08/24 00:00:00


公益社団法人日本印刷技術協会