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Acrobatをベースに競うCTPワークフロー

CTPワークフローとは

 イメージセッタの時にはあまり意識されなかったワークフローであるが,制作データがすべてデジタル化されるCTPでは,データの流れや処理,校正チェックなど,ワークフローの組み立てが重要になっている。

 ワークフローという言葉は,WfMC(国際ワークフロー標準化団体)の定義によると,「ビジネス全体や一部の自動化」であり,「ドキュメントや情報やタスクが,手続き規則に従って担当者から担当者に引き継がれる」ことを指している。

 JDFは,プリプレスのAPJTと印刷・後加工へのインタフェイスであるCIP3を統合して,オープンな指示書(ジョブチケット)によって,印刷工程全体の自動処理を実現しようとするものである。ハイデルベルグのMetaDimentionは,このJDFとPDFというオープンフォーマットを前提にした,RIPベースのワークフロー製品といえる。

 一般的にCTPワークフローでは,DTPによって制作された完成ページデータを受け取り,データチェック,面付けなどの前処理を行う。それに続く,プルーフ出力や検版・プレートセッタのための出力RIP処理などに関するワークフローは,各システムごとに工夫がされている。実際のCTPワークフロー製品は,アドビ社のPostScript,PDF,ExtremeなどAcrobatの技術をCTPベンダーが利用して,自社のCTP出力機との接続や,他社システムとの接続インタフェイスを提供している。

 ここでは,ワークフローの流れに従って行われる処理と,そこで利用されるデータフォーマットと,その特徴を中心に,CTPワークフローを整理してみる。

RIP処理/インタープリット

 はじめに,PostScript/PDFのRIP処理における内部的な流れと,中間的に生成されるデータフォーマット,そして各社のワークフロー製品が採用している中間フォーマットについて概観してみよう。

 DTPで作成されたPostScriptデータは,RIP内部で3ステップの処理がされるが,CTPワークフローでは各段階で生成される中間・最終データを取り出して,面付け,データチェック,プルーフ出力,置き版保存などに使用している。従って,CTPワークフロー製品を理解するためには,RIP内で行われている処理,特にそこで生成されるデータの内容とエキスポートされるファイル形式について,理解しておく必要がある。

 RIPの第1段階はインタープリット(翻訳)である。PostScriptの記述から,紙面上に部品を配置すべき位置を割り出し,文字コードに関してはRIPに読み込まれているフォントデータと突き合わせを行い(この突き合わせが失敗すると文字化けが起こる),画像以外の部品(オブジェクト)のアウトラインや位置(座標)を設定している。

 インタープリット部分を,アドビ社がPDF生成用にアプリケーション化した製品がDistillerであった。また,サードベンダーが新たな機能を追加して,自社製品を開発できるように,ライセンス方式で外販しているソフトウエアコードがノーマライザーである。これらの基本機能は同じである。

 インタープリット後の線画はアウトラインになるため,出力機の解像度にはまだ拘束されていない。インタープリット後に中間データとして取り出されたものが,PDFそのもの,DS/TrueFlowのPolishedPDFなどである。

 フォントの扱いは3種類ある。
 1つ目は文字コードのみを保持させて,最終的な字形を出力時のRIPに搭載されたフォントによって,生成する方法である。しかし,これでは文字化けの危険性があるため,印刷用途では使用されない。オフィス文書などで一般的に使用されるPDFはこれである。

 2つ目は書体の埋め込み(フォントエンベッド)で,ページデータ内にそのページで使用されるフォントデータのみを読み込む。そのため,「文字コード+フォントデータ」という形式ではあるが,文字化けの心配はほとんどなく,再編集時に文字サイズ変更や,改行などを行うことも可能である。フォントエンベッドPDFがこれで,Acrobat4(PDF1.3)以降,日本語でも可能になった形式である。適応するRIPはPostScript3(CPSI-3011,CPSIとも外販用PostScriptソフトウエアコードの商品名)である。フォントエンベッドPDFは,CMYK変換された画像と組み合わせて,PrintPeadyPDF(印刷出力用PDF)に使用されている。

 3つ目はフォントをアウトライン化,つまり文字をアウトライン線画に展開する方法である。この場合は出力解像度には拘束されない。しかし,文字が線画化されているので,組版を訂正するような再編集ではできない。TrueFlowのOutlinePDFはこの形式である。また,レナトスJOBのうち,POM形式も独自フォーマットであり,文字もほかの線画とともにアウトライン形式になっている。

印刷用のPDF作成

 印刷用のPDFにするためには,ノーマライズの後に,フォントのエンベッドまたはアウトライン化,画像のCMYK変換,線画と画像の境界線処理,InRIP Trappingパラメータの埋め込み,CMM埋め込み,サムネイル生成,プリフライトなどの処理が行われる。細部は各システム製品によって多少の違いがあるが,これらの製版処理が加えられ,印刷用途に合わせてデータの信頼性なども確保したPDFが,PrintRreadyPDFなどと呼ばれている。

 一連の処理を,富士フイルムのCelebraNT Extremeではstabillizerが,CreoScitexのPrinergyではRifinerが行っていて,ジョブチケットで連続処理が実行される。DS/TrueFlowのPolishedProPDF(仮称)もこれである。

RIP処理/レンダリング

 インタープリットの次の段階はレンダリングである。ベジェやスプラインによる線画は,短い線分のランレングスやショートベクタに変換される。ここでは出力機の解像度に合わせた処理が行われる。しかし,画像はピクセルのままである。

 TIFF-IT/P1,CreoScitex Brisqueのハンドシェイク(LW/CT),ハイデルベルグのデルタリスト,CreoScitex BrisqueのExportPS,同PDF2Go,DSのRIPedPS,同RIPedPDFなどの線画データはこの形式である。CTP用とデジタルプルーフ用に,おのおのの解像度に合わせたレンダリングをする必要がある。

RIP処理/ラスタライズ・スクリーニング

 RIPの最終段階の処理であり,出力する出力機の解像度や特性に合わせたビットマップデータを作成する。プレートセッタやイメージセッタであれば,2400dpiなどの高解像線画データと画像部は,網点(スクリーニング)データを作成する。プルーフ用であれば600dpi,720dpiなど,出力機の解像度に基づいた出力データを作成する。さらに,CTPやイメージセッタなどの印刷出力では,印刷網点化(スクリーニング)を行う。これらの出力機に渡すデータは1bitTIFF形式であり,アナログの網フィルムと同じ形態のデジタルデータといえる。

 また,高解像カラー出力機用(網点DDCPなど)には,1bitや8bitのTIFF形式データを作成する。1bitTIFFでは網フィルムと同様に,文字化けなどの心配はなく,出力機の特性に合わせてスクリーニング処理されたデジタルフィルムといえる。しかし,訂正に関してはビットマップの切り貼り,つまりフィルムのストリップ修正と同様の修整しかできない。

 変化しないという意味で信頼性の高いのが1bitTIFFであり,これを中間フォーマットとしているワークフロー製品が多くなってきた。

1bitTIFFを使用したさまざまな処理

 1bitTIFFのページデータを面付けするワークフローでは,クラウゼのPrepsをベースにしたKIM(クラウゼ・インポジション・マネジャ)を中心にしたシステムが,最初の本格的なシステムであった。

 1bitTIFFはデジタルフィルムといえるが,アナログフィルムと最も違うのは,刷版焼き付けで面付けごとの調整(焼き度や位置)ができないことと,データ容量が大きいことである。  データ容量については,次世代の圧縮方式であるDR方式のISO化が進められている。これが利用できるようになると,現在主流のG4圧縮に比べて,さらに1/4〜1/5,元データに対して1/20近くまでデータ圧縮できるといわれている。DR方式の規格化に先行する形で開発されたのがシンボリック・コントロール/cubic-D(キュービックD)であり,東レ/PRIAM(プリアム)ワークフローはこの技術を使用している。

 富士フイルムのCelebraNT Plusでは,単ページの低解像度EPSとCTP出力用の1bitTIFFを生成する。そして低解像度EPSを用いて,MacintoshのDoTop面付けソフトで指示データを作成,OPIのようにデータを差し替え,面付けしてCTP出力する。低解像プリンタへの出力を行うのであれば,プリンタ用の1bitまたは8bitTIFFを同時に生成しておくことができる。また,DoTopでは,単ページPDFを面付けする新バージョンも予定されている。

 AGFAのPrintDriveシリーズ2も,ジョブ貯蔵庫としてRIPから1bitTIFFを受け取り,面付け,一部素材のみのRIP処理データと差し替えることや,訂正することなどが可能である。

 ジーティービー/Bit-Troughシリーズでは,まさにアナログフィルムをライトテーブルや殖版機で製版するような,一連のツールがラインアップされている。具体的には,1bitTIFFからプレビュー画像を作成するPreviewMaker,デスクリーニングによりプリンタ用の低解像画像を作成するProof Maker,ページ面付け・大貼りのPlatePlanner,網フィルムのストリップ修正に相当するStrip Editor,新旧版を比較検版するImageCompare,そして印刷機のインキキーコントロール用のデータを生成するCIP3Generattorである。Bit-Troughは,どのワークフロー製品で生成された1bitTIFFでも扱えるオープンなシステムである。データ容量の課題に対しては,前述のcubic-Dで高圧縮されたデータを,そのまま読み書きできるような開発も進んでいる。

 1bitTIFFを異なる解像度に変更するには,デスクリーニング処理が必要である。例えば,CTP出力用に作成した2400dpiデータを,720dpiなどの整数で割り切れない解像度に変換する場合などである。しかしデスクリーニングとは,一種の網点ボカシ処理なので,細密な線画や小さい文字の再現性は利用する前に確認したほうが良い。プルーフ出力が初めからわかっている時は,プルーフ用の低解像データも同時にレンダリングしておくのがルールである。

まとめ

 CTPワークフローではPostScriptやPDFが基本になってきた。しかし印刷のための品質保証や,ワークフローで受け渡されていくデータの信頼性を,どのように維持していくのかが重要な課題である。

 PDFワークフローでも結果が予測可能であるように考慮する必要がある。具体的には,「面付け前データをフォントエンベットしておくのか」「アウトラインにまですべきか」「RIPを完了してデジタルフィルムである1bitTIFFにまでするのか」「出力結果が予測可能であるか」「訂正処理はやりやすいのか」「訂正をデータベースに反映する必要があるのか」「出力データを印刷工場のCTPで出力する際,データ容量や大貼りはどうするのか」「印刷機の条件やインキフローへの対応として加減焼きが必要なのか」などである。その上で,自社のCTPワークフローを構築していく必要がある。

2001/08/27 00:00:00


公益社団法人日本印刷技術協会