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DTP制作能力向上のために

1994年にスタートしたDTPエキスパート認証試験は,2001年8月の第16期試験でまる8年を経過した。この間,受験者数も増えたが受験者層も大きく変化した。

もともとこの試験は,管理や営業も含んだ広い意味での印刷・出版関連の各分野で一定の経験を積み,その上で仕事としてDTPに取り組んでいる人を対象に,DTP作業における各分野の間のコミュニケーションの土台を提供しようという趣旨で始めたものである。そのため,最初の1〜2年は,デザイナーも含めてDTPの第一線で活躍している人々が力試しの意味で受験するケースが多かった。

その後,DTPの広がりにつれて試験の認知度も高まり,3〜4年目頃から印刷営業・技術営業の受験者が増えた。いわば営業ツールとしての位置付けである。一方,認知度の高まりは指定校制度の拡充にも繋がり,4〜5年目からは学生受験者の割合が漸増して今日に至っている。こちらは就職のための資格試験という受け止め方である。主催者側としてはDTPエキスパート認証制度の趣旨は今も変わらないと考えているが,受験者層の変化に伴い,特に実技課題の位置付けが変化してきたことは否定できない。

実技課題の意味

DTPエキスパート認証試験は筆記試験と実技課題制作との二本立てである。もともと実際の仕事に必要な知識を筆記試験によって確認するというのがこの試験の主な目的であった。ただ,それだけでは本当にDTPの仕事に携わっているかどうかわからないので,それを確認するために実技課題を提出してもらうことにしたのである。実技課題によって筆記試験の裏付けを取るといえばよいだろうか。いずれにしろ,受験者は実技ができることを前提としていた。

ところが上記のように,回を追うごとに営業担当者や学生受験者など,実際にDTPの仕事には携わっていない人々の受験が増加してきた。そのため,筆記試験と実技課題制作とが全く同等の意味を帯びるようになり,実技課題制作においても,筆記試験と同様の受験勉強が必要だと考えられるようになった。実技課題で合格するにはどのように制作すればよいか,そのノウハウが求められるようになったのである。

実技課題の試験結果に対する問い合わせで多いのは「どこが悪くて不合格だったのか?」,あるいは指定講座からの「受験者Aと受験者Bの点数の差はどういう意味があるのか?」というものである。要するに合格基準や採点方法がよくわからないということだ。しかし,課題の採点方法と採点基準は「課題制作の手引き」に書かれているとおりで,後は単に具体的な項目を設定してそれぞれ加点・減点を行っているにすぎない。
別段秘密はないのだが,かといって「これとこれが何点,ここは何点,これだけできれば合格,ここができていなければマイナス何点で不合格」というようなことまで明らかにしてしまうと,そもそも試験を行う意味がなくなってしまう。主催者側から合格のノウハウを提供するわけにはいかないというのはどんな試験でも同じだろう。

六角形の表示

採点は3段階以上に分けて行っている。作品と制作ガイドのそれぞれについていくつかの採点項目を設け,項目ごとにプラス何点マイナス何点と設定して,結果的に80点以上を合格とする。ここで不合格になったものは次の段階に回し,前段階の減点を減らせないか,他の項目で加点できないかをチェックする。これを何度か繰り返して最終結果を出すのである。繰り返し見るのは前の段階で不合格になったものである。

いったん合格になったものは再度チェックして減点するようなことはしない。最後まで迷ったもの,あるいはぎりぎりの点数で不合格になったものは,優秀作品やユニークな作品と合わせて合否判定会議に諮って最終決定を仰ぐ。以上が採点の大まかな手順である。ほぼ3週間を掛けて一人ひとりじっくりチェックしている。むろん,実技課題の採点は筆記試験の結果とは全く無関係に行う。

採点の過程では「他の項目は可も不可もない。しかし組版処理が悪いので3点減点で不合格」とか,「制作ガイドは1点マイナスだが作品で2点加点して結果的に合格」といったコメントを一人ひとり付けている。このコメントを受験者一人ひとりに何らかの形で伝えられれば,どこが悪いのか,なぜこの点数なのかという疑問に答えられる。そこで今回から,図のような六角形で項目ごとの点数を表示して受験者に通知することにした。

コメントそのものではないが,どの項目で不合格になったということはわかると思う。各項目の内容は次のとおりである。

1. 作品

提出作品そのもの(出力物)については,(1)全体のレイアウト,(2)文字組版処理,(3)画像処理と配色の3つの項目を立てた。

(1)レイアウト パーツの配置方法(縦横の並びなど),バランスなど通常の意味でのレイアウトのほか,トンボや塗り足しなどの製版・印刷に必要な要素もチェックする。また,校正ができるかどうかという意味では出力品質も採点対象となる。

(2)組版 文字どおり組版処理の適否である。書体の選択,全半角の統一,和欧混植,禁則,ジャスティフィケーションなどのほか,表組も含めたタブ,インデント設定などもチェックする。

(3)画像/色 写真やイラストについて,トリミングや画像処理の適否,さらに紙面全体の配色も対象となる。

2. 制作ガイド

制作ガイドについては,(1)設計,(2)要素,(3)指定の3つの項目を立てた。

(1)設計

レイアウトの設計。何をどこにどのように置くかの指示である。全体のレイアウト図と各パーツの具体的な配置はもちろん必要だが,それに加えて文字組みのスタイル設定もこの項目に含む。

(2)要素

写真・イラストは当然ながら,ノンブルや柱,ロゴなど紙面上のすべての要素をもれなく取り上げて必要な処理を指定しているかどうか。

(1)指定

(1)(2)に関する指定が的確に表現されているかどうか。言い換えれば,制作ガイドが正確で読みやすく,わかりやすく作られているかどうかということである。(1)設計では,全体レイアウト図があるかどうか,スタイルシートの内容まできちんと書いているかどうか,(2)要素では,例えば表を使うなどして,必要要素とその処理が一目でわかるように書いているかどうかなどである。

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しかし,基本的には「本当に自分で作っているかどうか」「実際の仕事をこなせるレベルかどうか」「この制作ガイドでこの作品が作れるかどうか」がポイントである。六角形の項目もあくまでも目安である。自分の考えで設計し,きちんと丁寧に作れば,まずは問題ないはずである。
(DTPエキスパート認証・登録事務局)

2001/09/01 00:00:00


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