本記事は、アーカイブに保存されている過去の記事です。最新の情報は、公益社団法人日本印刷技術協会(JAGAT)サイトをご確認ください。

紙の文化・産業のピークは10年後?

シンポジウム「2050年に紙はどうなる?」から,大日本印刷(株)研究開発・事業化推進本部 次長 北山拓夫氏の講演を紹介する。
15世紀にグーテンベルクが活版印刷を発明して約6世紀たつが,印刷業界は,デジタル革命およびIT革命により,最大の変革期を迎えている。北山氏は,「しかしながら,印刷媒体の中心は依然として紙であり,印刷とは切っても切り離せない関係にある。これからの印刷を模索する意味でも紙を考えるのはいい契機になるのではないか」と切り出し,イギリスの印刷研究機関PIRA Internationalの2010年予測データの紹介とRay Kurzweilの21世紀予測データを踏まえ,2010年以降の技術革新はどのような方向にあるのかを説明した。

PIRA(Printing Industry Research Association)による2010年予測

技術変革へのドライビング・フォース

PIRAは,主に4点のドライビング・フォースが,これから先の印刷業界,あるいはその他の業界に大きな影響を与えていくのではないかと予測している。それは,コンピュータ・パワーの指数関数的発展の継続,情報通信技術,双方向デジタルテレビ,そして,「紙が残るか」ということで大きな影響を与えるディスプレイ技術(有機ELやeペーパー,eインクなど)の4つである。

印刷方式別マーケットシェア予測

印刷業界が使う産業用プリンタ,あるいは事務機器(オフィスや一般ユーザが使うデスクトップタイプ)の2つを合わせて,デジタル印刷機のシェアは,2010年に現在の9%から20%に倍増するだろう。それに対し,既存の印刷方式,オフセットは約5%,グラビアは3%の減少が予想される。消費者ニーズの多様化・パーソナル化に係る小ロットオンデマンド品目に対応していくという意味でもデジタル印刷機の開発・導入は進めざるを得ない状況にあると言える。

デジタル印刷の将来スペック,シェア

「スピード」に関しては,今,カラーで約120m/min。単色でmax150m/min。2010年には,それぞれ720,540m/minになるとされている。個人的には少し疑問を抱いているが,この2分の1くらいのスピードは実現可能ではないかと見ている。「利用プロセス」は,インクジェット方式がかなりのシェアを占めるようになると予測されている。

各メディアの変化予測

新聞生産動向は,インターネット技術の進展状況により,大きく伸びが変化する。新聞業界はe-コマースで,ある程度収入を得るようになる。また,新聞業界にもデジタルプリントが導入されるようになることが予測されている。

雑誌動向は,紙の低斤量化が進む。用紙の種類に関しては,コート紙からメカニカルパルプを使用したアンコート紙に移行する。ページ数は徐々に減少。また,一般誌は減少するが,B to Bに関わる雑誌は増加すると言われている。
海外の印刷会社は出版社と一体になっているところが多いことも起因していると思われるが,雑誌に関しては,実に10年間で印刷による収入が95%から50%に減ってしまうと予測している。それに対し,インターネット(広告)から得られる収入は,4%から約20%に,Eコマースに関する収入が1%から30%に急増すると予測されている。

日本の場合,書籍に関しては非常に厳しい状況にあるが,海外では,順調に伸びていくという考え方が大勢を占めている。小説,フィクションは現状の割合で増加し,デジタル印刷機による書籍製造が増えていくだろうと予想されている。タイトルの数は非常に増加し,小ロット多品種の傾向がさらに助長される。売上に関してはわずかながら増加。受注単価は非常に下がると予測している。

全体的に見ると,印刷に関しては2010年までは安泰。すなわち,紙に関しても全体的には安定した伸びが期待できる。2050年を想定するに当たっては,このあとの40年に大変革が起きると個人的には考えている。

Ray Kurzweilの21世紀予測

「スピリチュアル・マシーン」(翔泳社・2001年5月発行)という書籍の著者,Ray Kurzweilは,MIT出身でOCR関係のソフト,言語変換のソフトなどを開発し,数々のベンチャー企業を立ち上げている。彼の予測はよく当たるということで有名だが,今から100年後の2099年の世界を予測している。キーワードとして,コンピュータ技術,通信技術,ディスプレイ技術,言語変換,ナノテクノロジー・エンジニアリング,サイバネティックスを挙げ,その変遷をピックアップした。

コンピュータ技術に関しては,2009年には汎用型のパソコンが毎秒1兆回の計算をこなし,2020年近くには人間の脳と同じような機能を持つパソコンができるだろうとしている。2029年にいたっては,1000人分の人間の脳に匹敵する能力を持つようになるだろうと予測している。

通信技術に関しては,次世代は無線LANによって直接Webにアクセスできるようになり,さらに効率良い通信インフラが形成されるだろうと予想されている。2009年には,テキストの大部分は連続音声認識プログラムによって作成されるようになる。そして,最終的に各国の人々が音声間翻訳をできる翻訳電話が利用されるようになるとしている。

ディスプレイ技術は,2010年ごろには高画質ビジュアルディスプレイ搭載のパソコン,PDAや携帯端末,携帯電話まで多様化して普及するだろうとしており,eペーパーなどが通信デバイスと合体したようなデバイスも想定されていると思われる。

紙がなくなるか,なくならないというところに関連するところとしては,Ray Kurzweilは,2020年を起点に考えている。紙の書籍や文書はほとんどなくなり,勉強にはもっぱら知的シミュレーション・ソフトが使用されるようになるとしている。たしかに,汎用型のパソコンが人間の脳と同じようなレベルで機能するようになれば,このようなことは簡単にできてしまうだろう。

また,2020年にナノ・エンジニアリングによって,機械が製造,プロセス制御などに利用され始める。これにより,技術的に大きな変革期を迎える。ナノテクノロジーの普及により,原子レベルでいろいろなものを創出することが可能となり,製造業はもちろん,あらゆる産業に大変革をもたらすこととなる。

2030年ごろには,人間の脳に広帯域にアクセスするための「ダイレクト・ニューラル・パスウェイ」が完成する。これにより,今までインタフェースとして使っていた通信デバイスがいらなくなる。直接人間の脳に埋め込むような形のインタフェースが考えられ,この時代になると,コミュニケーションの大半は人間と機械の間で行われる。そして,ついには,コンピュータが人間を主張するような時代が来るだろう。

2050年あたりには,ナノテクノロジーの応用により,多種多様なものが生産されるようになり,食糧危機や物に対する生産の意識や価格などもなくなる時代が来るのではないかと予測されている。2072年ごろには,ナノテクノロジーを進展させたピコ・エンジニアリング(1兆分の1mのスケールによるテクノロジー)が実用化するのではないか。

2099年ごろには,ついに機械の知能と人間の思考の合体傾向が非常に強くなり,人間とコンピュータの違いがはっきりしなくなる。ほとんどの情報は標準の「同化知能プロトコル」を介して即座に理解できる。以上のように,現状を考えれば,到底想像できないような予測がRay Kurzweilによりなされている。科学技術のさらなる進歩により,これらの予測は,決して夢物語ではないことを個々人がもっと意識すべきではないだろうか。21世紀は,人類が「自らの知恵」により「自らの手」で究極の変革をもたらす世紀といえるのではないだろうか。

Ray Kurzweil氏の予測が現実となったとき,コミュニケーションの形はどうなってしまうのだろう? そして,印刷の姿は? 「2050年に紙はどうなる?」に続く第二弾として,来たる9月18日(火),シンポジウム「2050年に印刷はどうなる?」を開催します。奮ってご参加ください。

2001/09/05 00:00:00


公益社団法人日本印刷技術協会