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ISO導入の最大効果は「作業手順の明確化」

〜ISO9000運用アンケート報告(第2回)〜


ISO導入の最大効果は「作業手順の明確化」・・・しかしシステムの見直しは必要。
今回は、ISO9000を取得・導入による具体的効果と運営の問題点と対応について取り上げた。

【ISO導入による社内効果】
●8割が「作業手順の明確化」を挙げる

ISO導入後の社内効果として、「作業手順が明確になった」(78.1%)、「責任と権限がハッキリした」(59.4%)の2つが圧倒的に多い。この2つがISO導入の最大のメリットということである。これは明らかにマニュアルの成果である。ではISO導入以前はどうだったのか。手順はバラバラで、無責任な仕事をしていたのだろうか。そんな企業はないだろう。ではなぜこのような基本と思われることが最大の効果であるのか。それは曖昧さが明確になることで、事柄の追求・分析がスムーズになり、これこそが危機管理システムであることに気づいたからであろう。「トラブル内容がよく把握でき、適切な対策が取りやすくなった」「作業に対して確認する習慣ができた」(46.9%)、「ルールを守る風土ができた」(43.8%)などが続いているが、これらの理由からも判るように、職場でのトラブルを個人の問題とせず、システムとして捉え、是正措置、改善をしていくことで、その効果が実感できはじめたのではないか。

■ISO導入後社内で目に見えて効果があったことは?(複数回答)
作業手順が明確になった 50件 78.1%
責任と権限がハッキリした 38 59.4
トラブル内容がよく把握でき、適切な対策が取りやすくなった 30 46.9
作業に対して確認をする習慣が出来た 30 46.9
ルールを守る風土ができた 28 43.8
規定書、標準書作りを通して、作業の見直しが行われ、能力がワンレベルアップした 20 31.2
トラブルが社内で未然に防げるようになった 16 25.0
マニュアルができたことでアルバイト、パート職員にも作業指示が徹底した 13 20.3
経営者、中間管理者の態度が変わった 12 18.8
社員が誇りに思うようになった 6 9.3
営業マンの士気が高まった 5 7.8


【ISO導入による社外効果】
●得意先への品質管理の説明が楽になった

社内効果に対して、社外効果はどうであったか。「得意先への品質管理の説明が楽になった」(57.8%)、「ISOを取得している得意先に対しては信頼性が高まった」(51.6%)がともに5割を越えている。ISOという共通土壌による品質認識の共有化ができたことによるメリットであろう。クライアントがすでにISO9000を取得しているところにおいては、必須ツールといえるかもしれない。この共有化の具体的成果として35.9%が「他社との差別化ができた」、「受注のセールスポイントになった」、という営業上の評価効果を挙げている。上記の評価を挙げた企業を取得年月別の割合でみると、取得3年以上の企業が44.4%であるのに対して、3年未満の企業は32.6%で、3年以上の企業には「ISO稀少価値時代のメリット」を若干ではあるが受けたことが伺える回答である。「物損事故、トラブルの件数が削減」(26.6%)、「金銭的損失が減少」(17.2%)という実際の経済効果も挙がっている。「得意先からISO指導の依頼があった」(17.2%)という絶好のビジネスチャンスを得た企業もある。「入札資格になっても慌てることなかった」(12.5%)という企業は1割程度あった。

■ISO導入後社外との関係で目に見えて効果があったことは?(複数回答)
得意先への品質管理の説明が楽になった 37件 57.8%
ISOを取得している得意先に対しては信頼性が高まった 33 51.6
受注の際のセールスポイントになった 23 35.9
得意先に対して他社との差別化ができた 23 35.9
物損事故、トラブルの件数が減少した 17 26.6
外注管理がスムーズになった 14 21.9
得意先の監査が軽減された 14 21.9
得意先との受注関係がより強固になった 12 18.8
物損事故、トラブルによる金銭的損失が減少した 11 17.2
得意先からISO指導の依頼があった 6 17.2
入札資格のひとつとなっても慌てることはなかった 8 12.5
得意先の目が対等になった 5 7.8


【ISO導入後問題化したことは?】
●文書化の負荷、管理のための管理になりがち

ISO導入後問題化したこととして、「文書が多過ぎ、管理のための管理になりがち」(56.3%)を挙げている。これは94年版ISO9000sの問題点として指摘されているところでもあり、文書化にかなり苦労した一方、運用において文書規定に振りまわされたという思いが強いのかも知れない。「現場業務の負担増」(39.1%)、「維持経費の負荷」(32.8%)、「ルールの形骸化」(23.4%)など維持・継続の中での具体的課題が挙げられている。

内部監査員に対する負荷量についての質問では7割の人が「それほど多くない」と回答していることから「現場業務の負担増」とは、内部監査員ではなく、全体に業務が多くなっていると解釈するならば、やはりシステムが重いことが要因であるかもしれない。

組織的な問題として、「部門によって中間管理者またはリーダーの非協力」(18.8%)、「対象部門と非対象部門との意識のズレ」(17.2%)が表面化しているところもあるようだが、2000年版では品質マネージメントシステムとして、より経営者(トップ)の指導力が求められていることから、このような問題は上手に払拭していくことが大切である。「品質ISOと環境ISOとの共通化が遅れている」(18.8%)は事務局の問題であるが、今後この2つのISO取得は増えるであろうから、事務局としては重要な課題である。前出の「維持経費の負担増」にも大いに関係してくることである。

■ISO導入後問題化したことは?(複数回答)
文書が多すぎ、管理のための管理になりがち 36 件 56.3%
現場業務の負担増 25 39.1
維持経費の負担 21 32.8
ルールの形骸化 15 23.4
部門間の温度差に不満が出る 14 21.9
標準書が現場で活用されない 12 18.8
部門によって中間管理職またはリーダーの非協力 12 18.8
品質ISOと環境ISOとの共通化が遅れている 12 18.8
取得対象部門と対象外部門の意識のズレ 11 17.2
企画デザイン・営業を含めた結果、なじまず不満が出る 6 9.3
マニュアル、基準書等を事務局主体で制作したことから現場との乖離が
表面化した
6 9.3
各部門の自己都合の優先 5 7.8
取得対象部門と対象外部門との二重システムに困った 5 7.8
取得対象部門と対象外部門がうまく得意先に伝わらず、クレームの上塗
りになった
1 1.6


【問題点についてどのよな対策を実施(あるいは予定)したか?】
●忍耐強く学習を継続するのが一番

問題点の解決として、「現場への継続的学習を行なう」(45.3%)をトップに、「事務局や内部品質監査員が各現場を回り理解を求めた」(25.0%)、「経営者自ら積極的活動をする」(21.9%)、「企画デザイン・営業部門への理解を求め、これからは現場より前工程部門のシステム化を認識してもらう」(10.9%)といった「説得・教育型」対策が多く、「経営トップからの強い指示」(17.2%)や「幹部社員・役員への協力要請」(10.9%)、「例外は認めない」(3.1%)などの「強権発動型」は少ない。ISOは強いリーダーシップによるトップダウン方式であるが、それは戦略性、経営の意志が重要であるためだが、浸透・運用にあたっては、「説得・教育型」が効果的であろう。ただ実際の現場説得の場面では、反発、非協力などを巡って議論が重ねられたようである。

「システム自体の見直し」については、意外に多く、「定期審査時期にシステムを見直し軽くした」(26.6%)、「規格変更(2000年版)に伴う更新時まで修正せず、更新時に見直す予定」(25.0%)、ともに4分の1あり、両方への複数回答は5件しかないので、なんらかの見直し、あるいは見直し予定を考えている事業所が約44%もある。取得を目指した構築期間とそれを実際の運用をした結果では、システムについての見方が違ってくるのは当然であろう。一般的にシステムを重たく作ってしまうことが多いようだ。前問の問題化のなかで最も多い「文書が多過ぎ、管理のための管理になりがち」というのもシステムを重くし過ぎた結果といえる。そのことが「問題の対応策」で、4割以上の担当者が何らかの「システムの見直し」が必要と回答しているのであろう。

■問題に対しての対応策について<実施したこと、あるいは予定>(複数回答)
現場への継続的学習を行う 29件 45.3%
定期審査時にシステムを見直し軽くした 17 26.6
事務局や内部監査員が各現場を回り理解を求めた 16 25.0
規格変更(2000年度版)に伴う更新時までは修正せず、更新時
に見直す予定
16 25.0
経営者自ら積極的活動をする 14 21.9
経営トップから全社員へ強い指示が出た 11 17.2
認証は限定部門であっても全社員でISOを意識し、得意先には
細かいことは説明しなかった
7 10.9
企画デザイン・営業部門への理解を求め、これからは現場より
前工程の部門のシステム化を認識してもらう
7 10.9
経営トップから幹部社員や役員への協力要請を依頼した 7 10.9
品質事務局を専任から兼任(または削減)とし経費節減を図る 5 7.8
積極的で優秀な若者をリーダー格にし、職場の雰囲気を変えた 5 7.8
TQCを改善の管理サイクルに位置づけ、ISOとの両輪が必要で
あることを説明した
5 7.8
物損事故などの未然防止など成功事例を作る 4 6.2
TQCはストップさせた 3 4.6
例外は認めない 2 3.1
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2001/09/06 00:00:00


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