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動き出した印刷資材の電子調達

 社内のデジタル化を実現した企業は多い。次のステップとして目指すのは社外のデジタル化,つまり、外部とインターネットを介してビジネスを行う電子商取引である。

 NTTデータは2001年8月に,印刷資材の電子調達を行うEDIサービス「PP-Net」を2001年8月29日に開始すると発表した。PP-Netは資材を提供するサプライヤと購入するバイヤの中間で,バイヤ・サプライヤからのデータをそれぞれの宛先に振り分けて自動配信するEDIの仕組みが基本である。バイヤには大日本印刷株式会社,サプライヤとしては株式会社カミネットが参加し,最初は印刷用紙の調達から始める。印刷組合ドットコムもPP-Net利用の有力な候補になっている。

 この共同利用型EDIサービスが始まるきっかけは、大日本印刷株式会社に加えて東京都印刷工業組合の委員会「総合デジタルプロジェクト」設立にさかのぼる。昨今,多くの印刷会社において社内のデジタル化の取組みが進められた。総合デジタルプロジェクトはその次のステップとして社外との取り引きをデジタル化するため、印刷ビジネス支援型の電子市場構想を検討する委員会として2000年に設けられた。1年目はヒアリング調査を行い、2年目には実際にeビジネスを立上げることを目標に掲げ,具体的なビジネスとして印刷資材の電子調達の実現に動き出した。

 東京印刷工業組合は,資材調達からビジネス・コラボレーションまでの広範なeマーケットプレイスの実現にむけた事業会社として,印刷組合ドットコム株式会社を設立した。印刷組合ドットコムは,組合員企業と業界の健全性をファイナンスとテクノロジーの両面から醸成し,購買側主導による健全な電子市場の構築を行っていく。印刷組合ドットコムには,東京印刷工業組合の組合員である三松堂印刷、金羊社、水上印刷、大丸グラフィックスの4社が出資と人材の提供を行い,中心となって電子調達事業を軌道にのせていく。

 一方,大日本印刷は独自で,印刷資材の調達を行う電子取引市場の構築に取り組んできた。2000年末にはIBMのコンサルティングのもとに,i2テクノロジーズ社のサプライチェーン・マネジメント機能を備えた電子取引市場ソフト「TradeMatrix」を採用した。そして2001年6月,王子製紙,三菱製紙とインターネットを通じて複数のサプライヤから用紙調達を行う企業間電子取引市場「PrintMatrix」を開設した。PrintMatrixはカミネットの紙パ流通VANのシステムを接続して取り引きを行う。自社内で実績を積み上げてきた大日本印刷は,業界全体で資材購入に関する標準化を推進するという印刷組合ドットコムの方針に賛同し,パートナー企業として印刷資材の電子市場構築に参加した。

 印刷関連のeビジネスには、印刷会社がインターネット上で商品を売る場合と、印刷会社がインターネットから商品を購入する2つのケースが考えられる。前者は印刷物の受発注をWebサイト上で受け付ける電子市場で、後者は資材メーカーから資材を購入する電子調達である。印刷物の仕事をインターネット上で獲得して売上に結びつけるのは、印刷会社各社が競争する部分である。一方、電子調達はFAXや電話のようなアナログで行ってきた資材調達をデジタル化で合理化を実現する。EDIデータの標準化など業界全体で取り組む必要があるため,印刷組合ドットコムでは電子調達に焦点をあてた。

 印刷組合ドットコムの印刷ビジネス支援型の電子市場構想では,第1ステップとして,文具やパソコン,トナーなどの副資材の電子調達を実験した。電子カタログを作り,実際の購入までも実現したが,副資材は資材調達の中における割合が低いため,結果的に合理化による大きなメリットは期待できないこともあり,第2ステップも同時試行的に実験することにした。電子調達のシステム構築する中で、PP-Netの利用は有力な候補となっている。

 PP-Netでは,中長期の印刷予定に基づいた印刷用紙の発注が行われる。印刷会社側のメリットは,印刷組合ドットコムのように4社の購入量をまとめて発注することにより,購入側の立場を有利にできる点にある。また,共電話,FAXで対応していた煩雑な受発注業務の簡素化や,企業間データをPP-Netに集約するため,個別にシステムを構築する負担が軽減される。企業システム構築に実績のあるNTTデータのサポートにより,高い信頼性も期待できる。一方,資材メーカー側はこのPP-Netに参加することにより,通常4ヶ月前後かかる入金を1ヶ月に短縮し,キャッシュフローの改善が期待できる。この期間の保証についてはファイナンス会社が肩代わりをする。

 印刷組合ドットコムに出資した4社は、デジタルの調達を実現するために,実はリアルな調達の見直しが大きな課題となっている。各社で異なる調達の仕組みやルールを整えながら,あわせて電子市場の構築を目指していく。

 PP-Netは,まず業界に先駆けてEDIのシステムを確立した紙パルプ業界と手を組み,印刷用紙の電子調達を行う仕組みを提供する。今後は,フィルムやインキの業界にも働きかけてEDIデータの標準化を進めていくことを計画している。

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2001/09/12 00:00:00


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