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ワープロから電子組版へ(1)−印刷100年の変革

今まで事務用文書作成機として和文タイプライタが普及していたが、加筆訂正や編集機 能などに不便さがあった。そこでOAの一環として、1978年に登場したのが日本語ワード プロセッサ(以下ワープロという)東芝の「JW-10」である(写真)。


当時の機能は幼稚なものであったが、日本語入力に「仮名漢字変換方式」を採用したことが大きな特徴である。

入力結果がモニタ画面で見られ加筆訂正が容易であること、加えてプリンタからハード コピー(印刷物)が得られることなどが大きな魅力で、いろいろな方面にインパクトを与 えた。メーカー側では「もう印刷はいらない」などというPRを行なっていたが、印刷業界 では印字品質や文字サイズ、編集機能などに難があり、印刷物の代替としては使いものに ならなかった。

ワープロに用いられた文字はデジタルフォントであるが、初期のものは画面表示やプリ ンタ出力に16×16ドットフォントが使われた。16ドットフォントでは印字品質が貧弱で、 とうてい印刷物との比較にはならなかった。

文字(フォント)は5号(10.5ポイント)明朝体である。この5号がワープロの標準に 使われたのは、和文タイプライタでの本文の標準が5号活字を使っていたからである。今 でもワープロソフトのデフォルト文字サイズに、10.5ポイントが設定されているのは面白 い現象である。

しかしその後ドット密度は24ドット、32ドット、60ドットなどと文字品質は向上した が、ドットフォントであるかぎり拡大・縮小に限界がある。今ではアウトラインフォント が搭載されるようになったが、文字品質はプリンタの解像度に制約されることになる。

その後ワープロは東芝に続き、富士通「OASYS」、NEC「文豪」、シャープ「書院」、キヤノ ン「キャノワード」などが登場し、ハード/ソフトのグレードアップと低価格化が進み、 普及に拍車をかけた。しかしこれらはワープロ専用機であって、現在のようなパソコンの アプリケーションとしての汎用ワープロソフトではない。

しかし印刷業界ではこのワープロを印刷物作成のツールとしてではなく、電算写植や電 子組版の入力機として活用するようになった。専用システムの漢字入力装置で苦労してい たユーザーにとって、ワープロがもつ便利な文字入力機能や編集機能は魅力的であった。

ところがワープロデータを、専用システムに取り込むためにはデータコンバートが必要 になる。そこでソフトハウスが各専用システム対応のコンバートソフトを開発し、販売す るという新ビジネスが生まれた。

ワープロを入力機として使うといっても、初期の頃の仮名漢字変換方式は、単漢字変換 で一字一字変換するというレベルであった。したがって入力能率は、漢字キーボードと大 差ない程度であった。むしろベテランの漢字入力オペレータの方が正しく、速く入力でき たくらいである。

仮名漢字変換は、まず漢字を読めないと仮名で入力ができない。読めない文字は区点コ ード入力する。当時の変換レベルは低いため、入力速度は漢字キー入力の方が生産性は高 いということもあった。ただし漢字キーボードは、約3000字もあるキーの配列を覚えてい ないと打てないという欠陥がある。しかし原稿の文字とキートップの文字を見て入力する わけであるから、原稿に誤字がない限り読めなくても入力はできるわけである。

その後ワープロの仮名漢字変換辞書が充実し熟語変換、文節変換、連文節変換などとレ ベルアップし変換効率が向上してきた。その結果、ブラインドタッチ入力も可能になり入 力速度が向上してきた。ところが入力変換ミスも多くなってきた。印刷所は原稿通りに入 力するのが原則であるが、最近ではワープロの仮名漢字変換の誤植、つまり同音異義語の 間違いが多いと指摘されている。

これはオペレータの正しい漢字、熟語の識別能力の欠如から起こる現象であるが、今で は自主的に内校正しゲラ出校する印刷所は少ない。どうせ直しが多いから内校正をしても 無駄、という意識があるからだ。直しに関する意識改革は、印刷所側だけではなく、発注 者側にも求められることである(つづく)。

他連載記事参照

2001/09/15 00:00:00


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