同社がインターネットを利用して,受注を模索し始めたのが6年ほど前である。本格的に印刷関連のECに参加したのが,E=CALLの「印刷応援団」で,1999年のことである。前回,紹介した時は,ほかに「SP印刷物入札システム」に参加しており,「P-SMART」には参加したばかりであった。 現在,同社ではこの3つのサイトに加えて,「PrintPress」と,4つのサービスを利用している。これら印刷関連のサイトのほかに,商工会議所などの製造業サイトへも登録している。
同社がインターネッを利用した印刷発注に取り組んだ目的のひとつは,営業の効率化であった。同社は三重県四日市市にあり,立地環境から受注の増大を考えると,どうしても名古屋市や津市にクライアントを求めることになる。しかし,片道で1時間かかるために,例えば校正を持っていくと,それだけでかなりの時間がかかり,新規開拓の時間がとりにくい。その解決策になるのでないか。 つまり,既存の営業方法以外の販路を開拓する必要があり,その方法として印刷ECを利用することにしたのである。また,データ入稿してくれるクライアントを探すのなら,インターネットの利用を前提とした印刷ECが適していると感じた。 このほか,既存商圏では従来の営業方法をとるにしても,商圏エリアを拡大するための費用対効果を考慮すると,ECのほうに利があるのではないか。つまり,中小企業にとって,営業所を開設することに比べれば,ECのほうがはるかに低リスクで,即効性があると同社は考えた。 また,従来の営業担当者の経験に頼ったり,地域に密着した営業展開だけではなく,新しい営業方法を模索しなければならない。それは,営業経験の浅い人や未経験者でも,受注活動ができるような方法をシステム化することである。
実際の受注状況については,前回紹介した時は,受注実績がまだ数件であった。現在は,平均すると月に1〜2件程度となる。これまでで,最も大きな受注は100万円(1回)で,これは定期刊行物である。売り上げでみた場合には,ECの受注効果は集計レベルではなく,数%程度だろう。
現在利用しているサービスについては全体的に,まだそれほど見積もり依頼があるわけでなく,ECへの取り組みの点では,「実験段階にある」という印象をもっている。各サイト内の市場規模が小さいこともあり,まだ規模のメリットは働いていない。 しかしながら,これらを利用することにより,ECの課題が体感できた。つまり,ECでの営業方法や,クライアントに会わずにデータ入稿し,印刷・加工,納品までの流れを経験することで,どのような点が問題になり,どのように対応すれば良いのかが把握できた。 また,ECに取り組むためには,社内の環境整備が必要になる。この結果,社内のIT関連でのインフラ整備につながった。具体的には,営業・制作担当者への個人メールアドレスの支給,基幹システムの運用である。これによって,見積もり時間の短縮が図られた。履歴や進ちょく,在庫の閲覧サービスへの展開などである。
このほか,新人営業担当者と既存の担当者で受注格差がないことがECの特徴である。つまり,発注側でも年齢や容姿などの予断ができず,対応のみで判断するためであろう。 ただ,このように直接対面しないと,遠方などのクライアントに対して,従来のクラアントに行うような営業的フォローがしにくい。 営業担当者にとっては,おおむね既存の営業方法と比較し,新規クライアントの引き合いまでのプロセスが短縮される点で,効率が良いといえる。一方で,遠方のクライアントの場合,受注後にトラブルなく進行できるのか不安な面もある。 制作担当者にとっては,入稿されるデータの状態(アプリケーション,フォント,OSなど)がさまざまであるため,出力を行う上で,クライアントのデータとの整合性をどのように保つかが課題となっている。
今後,同社のECへのへの取り組みについては,当分は実験・検討のスタンスで臨むつもりである。そのため,現在利用しているもののほかに,単なる受発注の仲介ではなく,多様なサービスや新しいビジネスモデルを提供してくれるようなサイト,例えば「ネプリ」などに興味をもっている。「ベイツボ・ドット・コム」のような調達サイトや,「プリントパラダイス」のようなASP,また中古設備の売買サイトなどにも注目している。
これまで利用したようなサービスでは,普及するためにはまだ,さまざまな工夫が必要であろう。そういう意味では,加盟しているECサイトの市場規模の情報を金額ベースで示してほしいと願っている。それによって,利用する価値の有無を判断できるだろう。
(プリンターズサークル10月号 特集「ここまできたインターネットでの印刷受発注」より)
2001/09/27 00:00:00