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新しい形を作る人たちを見よ

塚田益男 プロフィール

2001/10/5

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「カオスからの脱出」あとがき パラダイム余話 その2

パラダイムシフトとカオス(Chaos)

最近の政治の世界では、特に小泉氏が政権を握るようになってからは構造改革という言葉が花盛りだ。私は中小印刷業の第一次構造改善計画から第四次まで、いろいろな立場で推進事業に関与してきたから、構造改善とか改革という言葉はうんざりするほど口にしてきた。しかし正直の所、この言葉は好きになれなかった。理由は創造より破壊のイメージが強いからだった。

ビッグバンもパラダイムシフトも破壊そのものだ。その破壊の中から新しいパラダイムを生もうとするものだ。そして、その構造改革とか破壊というものは、特定分野のことではなく、すべての分野におよぶものだ。政治、経済、教育、金融、労働、経営など全分野に構造改革が必要になっているので、焦点が絞れず、掛け声倒れに終ってしまう可能性がある。

社会の構造改革とはオールドパラダイム時代に作られた諸制度、諸慣習、諸法律を改廃し、ニューパラダイム時代の制度や慣習に変えようということだ。私が、長い間、パラダイム論議をいろいろな角度から行ってきたのも、それぞれの社会構造の特質を理解していなくては構造改革とか構造改善の話にならないからだった。

その反面、構造改革を口にし、実行する時には、まだニューパラダイムの社会は実現していないのだから、改革の成果については口にすることができないという矛盾を抱えている。オールドパラダイムの欠点は見えた、ニューパラダイムのトレンドだけはぼんやりだけど見えてきた、その段階で構造改革を断行するのが一番良いのだが、次ぎの構造が明確に見えないだけに、どうしても臆病になり、改革ができず、問題を抱えたまま改革を先送りするので、問題がどんどん大きくなる。このプロセスは自民党の政治姿勢でよく理解できることだが、私たちの印刷経営の中にもこの傾向は山ほどある。

いずれにしろ、オールドからニューパラダイムへのシフトは本文(注:「カオスからの脱出」2001年11月JAGAT刊)で述べたように、非連続、不可逆な革命的な変化である。明治維新の時も、第二次世界大戦の敗戦の時も、沢山の尊い人命を犠牲にしなくてはパラダイムシフトができなかった。それほど革命的、破壊的変化なのだ。そして、このオールドからニューへのパラダイムシフトは、いくら果敢な改革を断行しても、社機変革にはタイムラグ(時の遅れ)がある以上、混乱期(カオス)が生じてしまう。

このカオスは一種のブラックホールのようなもので、この中に入ったら、オールドパラダイムと同じ発想でいる以上、どんなにもがいても出れないし、すべての行動効率はマイナスの方向に働いてしまう。このカオスから出るためにはニューパラダイムの経営に変態することが必要で、その変態(メタモルフォーズ)ができた会社からニューパラダイム社会のファクター(構造因子)になっていく。

私はこの一連のプロセスに「ゆらぎ」やメタモルフォーズという自然界の諸現象と類似したものを見ている。そしてニューパラダイムの経営に変身して行く社会の先頭グループは、国の形、社会の形、会社の形、個人の行動パターンなどの新しい形を創る人たちである。そうした経営者や産業人に求められる機能こそ、他律と自律のコントロールを行うことができるホロニック機能だと思っている。

この項、続く

2001/10/08 00:00:00


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