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ハイリスク・ノーリターンの悲しい兎、…とこれから

光ファイバかメタリックの復権か,NTTは民間を出し抜いてでも進むべきか,民間の邪魔をしながら回線のビジネスをどうするかに終始し,ぐずぐずしている間にアメリカでは華々しいネットバブルで急成長のベンチャーが続出する時代になった.

一方アメリカでは,急に拡大したネットサービスやITビジネスが,次のロードマップも描ききらないうちに安値受注競争だけが先行する深い憂鬱の時代に入り,再投資ができないで頓挫する企業が相次いだ.

ネット上の怪しい商売が林立した結果,それらが潰れるのは理解できる.しかし,ネットインフラを担っているPSIネットに続いて,アウトソーシングの雄でもあるエクソダスも破産,WEBTVのサービス停止,エクサイトも破産など,主要ITプレーヤーもビジネスモデルは,いつまでたっても確立しないで,しだいに経営の足元を危うくしている.

なぜアメリカの新ビジネスは,こうも脆いのか.最近は,ビジネスモデル特許のように,実体の裏付けのない知的財産権だけが,名目の「価値」を掲げて一人歩きすることを許した.これに危険を感じて,クリックからモルタルに移行し,倉庫を作って物流まで行うようになったAmazonはまだ生き残っている.

IT化は他産業への波及効果もあるので,バブルな価値の波及が波及を生んでいるうちに,ITの目的はどこかに飛んでしまい,錬金術だけが残り,その挙句がバブルの崩壊であったわけだが,アメリカ人はそんなことは承知の上であっただろう.

サイバービジネスの急峻な立ち上がりと,あっという間の崩壊という危険な綱渡りを承知で行うのは,いざとなればいつでもレイオフで帳尻をあわせる社会であるからだろう.笛を吹けば踊るという流動的な環境があってのベンチャービジネスである.

しかし,以前はハイリスク・ハイリターンと言っていたが,今回のバブルでは,実際はハイリスク・ノーリターンの会社も多い.その意味では笛吹けど踊らずの「亀」のようなヨーロッパや日本のほうが直接事業者の被害が少ないが,リスク回避だけでは成り立たないようになっている.

兎と亀が同じゴールを狙っているならば,着実にゴールに向かって休まず進み続けることは意味があり,兎が必勝なわけではないことはわかったが,兎よりも手前にしかゴールを描けないような現状の日本では競争にならない.身軽な兎の国はまた競争の第二ラウンドに入るだろうから,それに備えて亀でも勝てる戦略を考えておかねばならない.

■出典:通信&メディア研究会 会報VEHICLE 通巻148号 より

2001/10/18 00:00:00


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