シンポジウム「2050年に紙はどうなる?」から,王子製紙(株)研究開発本部 新技術研究所 上級研究員 林 滋雄 氏の講演を紹介する。
「電子機器の市場が伸びれば情報用紙の市場も伸びている。情報用紙の将来を見るには,電子機器の将来がどうなっていくのかを考えないといけない」。情報用紙と電子機器とが密接に関係していることを前置きとして講演を始めた。
将来のキーワードは「情報伝達の変化」だと林氏は言う。インターネット普及により民間へのコンピュータ/通信機器/プリンタが普及するので,今まで情報は印刷メディアによって伝わってきたが,これからは電子情報やデジタル情報に変化するだろう。また,情報が,静止画像から動画や音楽情報へ変わっていくので,電子機器もそれに対応してコンピュータは性能アップする。そして,携帯電話がコンピュータ化し,ディスプレイもそれに対応して小型化,動画対応し,消費電力を小さくする。さらに「読みやすいペーパーライクディスプレイが必要だ」との声もあるという。
インターネットが普及すると,新聞と本の流通にどのような影響を及ぼすのか。新聞はデジタル情報をそのままインターネットで流して読者のパソコンに配信すればそれで済むし,本は,インターネット上のオンライン書店で,1冊500円ほどでデジタルコンテンツとしてパソコン上に配信している。1冊の注文でも紙に印刷して届けてくれるプリントオンデマンドというサービスもある。商品の形の変化にともない,生産方法も流通も変わり,社会が変化してくるだろう。
ディスプレイは長文を読むのは不適だが資料の保存には便利である。そこで,ディスプレイと紙の良さを合わせ持った新しいツールが提案された。それは,長文を読むための薄型/軽量/フレキシブルディスプレイである。
一方,懸念点は,新聞の場合は,広告が今までどおりとれるのか,ということがある。
一般ユーザにとっては,電子媒体は健康への影響が心配である。また,読書効率はどうなのか。東大,東海大,ペンシルバニア大学が,紙メディアと液晶で読書効率がどちらがいいかを具体的数値を出しているが,総合的には紙の方がいいと言われているという。
メディアの文化の問題もある。今まで,紙メディアで作ってきた文化が変えられるのだろうか。新聞社の場合,言論機関の自由と独立を確保することが大前提で,そのためには目先の利益を追わず経営の安定化を図り,戸別配達制度や再販制度,株式保有譲渡の制限を行っている。日本の新聞社では収入のうち広告収入が40%を占めているが,新聞の広告は50%までしか載せてはいけない。あるていど言論機関の自由と独立を確保するためにはこのような歯止めがあった方がいい。インターネットという新しいビジネスの中でこれが確保できるかという懸念がある。
また,新聞には,見開きの文化がある。見開きの左側が奇数ページでマクロ情報,右側がミクロ情報である。新聞の見出しの大きな文字と奇数ページを追っていけば,だいたい新聞はながめていればわかる。電子新聞になると,自ら見ないと多分わからないだろう。
情報用紙は電子機器とともに需要を伸ばしてきたが,今後も電子機器開発の影響は受けるだろう。今後は,情報をプリントする動作から,デジタル情報を読むための新しいツールができてそれが便利であれば置き換わっていくだろう。便利なものに置き換わっていくのはしかたがないが,「しかし,新しいツールができたからといって今までの生活習慣や文化とどう折り合いをつけるのか,という見極めをつけないといけないだろう」と締めくくった。
2001/10/11 00:00:00