そして,後加工工程も品目や対象ロットそれぞれの必要に応じてインライン化できるものになった。数多くの作業工程に分断されてバケツリレーのように進められてきた印刷物の生産工程は,いま,プリプレス,印刷そして後加工という大きな3つの生産ブロックに集約され,よりシームレスな生産システムになり,CIM(Computer Integrated Manufacturing )の土台ができてきた。
製品仕様は企画段階で設定され,印刷すべき内容のデータはプリプレス段階で生成され,製造指示に関する内容は仕事が流れていく中で順次作られていく。ジョブファイルは必ずしも一つのファイルである必要はない。
ジョブファイルのデータ,情報は通信ネットワークを通して各工程にある生産設備の自動コントロールシステムや工程管理機能を果たすコンピュータに送られ,それに基づいてコンピュータが必要な処理をする。
例えば,CTP用に作られたデジタルデータは,印刷機のインキコントロールシステムに送られインキ量調整機構を自動調整する。紙の発注では,受注した仕事に必要な紙について,日程管理システムが紙の在庫システムにその紙があるかないかを問い合わせる。
在庫システムは該当する紙の有無,在庫量を調べ,もし紙の発注が必要であれば調達システムに情報を流す。調達システムは,インターネットを通じて用紙発注先の受注システムに価格と必要なときまでに納品が可能かどうか問い合わせその結果を日程管理システムに報告する。
そのためには,営業マンが単なる原稿や校正の運び屋,あるいは顧客と現場のメッセンジャボーイのような業務に追い廻されている状況を改善して,新規拡大行動や顧客満足度を高めるための業務にもっと時間を割けるようにしていくことが必要である。
工程管理担当者が,営業と生産現場あるいは外注先との間で行なっている各種の情報伝達,調整に費やしている時間は,それ自体工程管理業務の生産性に関わると同時に,顧客からの問合わせへのレスポンスや工場の生産計画変更などに要求される迅速さにとっても,その改善が不可欠である。
IT化の基本は,コンピュータ to コンピュータで,データ,情報が流れてウエッブの上で統合的に利用できるようにすることである。お互いの間は通信線で繋がれていても,その両端に人間がいるのではCIMにもECにもならない。
先に述べたような紙の発注のような仕組みでなければならないし,顧客から現在の進行状況についてメールで問い合わせがきたとき,営業マンがそれを見て工務担当者にメールを転送,工務の担当者は現場の管理職に問い合わせてその結果を逆のルートを通って顧客に戻すというやり方ではダメである。顧客自らが印刷会社のウエッブを開いて,発注印刷物の進行状況をいつでも確認できるようにするのがこれからのITの使い方である。
しかし,現在,ほとんどの印刷会社ではコンピュータを使ってさまざまな業務処理を行ってはいるが,それはオフコンをベースとしたものであって,ネットワーク化されたものにはなっていないケースが非常に多く,上記のIT化には,ほど遠い状況にある。
IT化の全体系を作り上げていくための道のりは長く,その間にかなりの資金,人材の投入が必要になる。したがって,そこにいたるプロセスの各段階において,それなりのメリットを出しながら進めて行かなければ息切れしてしまう。必要なことは,到達時点のイメージを描きつつ,小さくても明らかにプラスの成果を出せる具体的課題を設定,実行することを積み重ねていくことである。
最近の例でいえば,大豆油インキやUVインキと油性インキのミックスタイプのインキを使ってVOC(芳香族炭化水素)を出さないようにするということである。しかし,これは受身の対応でそれで競争力をつけたり顧客満足を得ることはできない。
2番目は,工場から排出される廃棄物の削減である。これは,ゴミの排出の削減,リサイクルの拡大を通して企業の社会貢献をすると同時に,規模がある程度以上の印刷会社にとっては,経費削減の意味からも重要になりつつある。
従来焼却処理をしていた輪転用巻取り紙用ワンプを建材として使って処理費用を2/3程度削減する,無線綴工程で出る紙粉を水道局のろ過材として使用する,あるいは工場内で使われる刷り本結束用PPバンドを粉砕処理してメーカーに有償で引き取ってもらうなどで,相当の経費削減が可能である。
資源環境対応の3つ目の視点は,規制や顧客の費用負担を軽減する新商品を開発,提供をしていくことである。容器リサイクル法との関連で見れば,機能を損なわずに使用素材の重量を軽減したり,分別回収や家庭ゴミの有料化に対して,複合材料を同一素材に替えたり複合素材の分離が可能な設計にするなどの技術開発,製品開発は,エンドユーザーおよび顧客に対して有益な資源環境問題対応の支援をすることになる。
資源環境問題に関しては,法制化に伴う最低限の義務の履行だけではなく,社会や顧客と一緒になって積極的な対応をする企業とそうでない企業とでは,長い目で見ると大きな差がつくことになるだろう。
■出展:JAGATinfo別冊機材インデックス2001-2002より
2001/10/15 00:00:00