本記事は、アーカイブに保存されている過去の記事です。最新の情報は、公益社団法人日本印刷技術協会(JAGAT)サイトをご確認ください。

国立国会図書館の電子図書館構想

日本の電子図書館構想は,1993年に発表されたアメリカのスーパー情報ハイウェイ構想をきっかけに本格的な取り組みが始まった。2002年10月には電子図書館機能が強化された国立国会図書館関西館が開館する。電子図書館構想そのものは2002年10月以降も続くが,関西館オープンは第1段階のゴールとして,急ピッチでコンテンツ整備が進められている。

通信&メディア研究会のミーティング「デジタルアーカイブ」で国立国会図書館の中井万知子氏から伺った電子図書館構想の取り組みを紹介する。

電子図書館と関西館構想

国立国会図書館は,日本で唯一の国立図書館であり,納本制度により国内の出版物を収集し,それに対する書誌データを蓄積するなどの多様な役割がある。

国会図書館の電子図書館への取り組みは,1994年から情報処理振興事業協会(IPA)との協力事業として実施した,パイロット電子図書館プロジェクトなどの実験プロジェクトから開始された。1998年には「国立国会図書館電子図書館構想」として,今後,館が推進する電子図書館のあり方をまとめ,計画を進めていくことになった。

一方で1980年代から検討されてきた関西館構想は,関西にも国会図書館を建設することが目的であり,東京と関西という地理的に離れた図書館を結び付けるため,電子情報の活用が当初から手段として考えられ,電子図書館と結び付けて論じられることが多かった。

電子図書館では,図書館の蔵書に当たるコンテンツの構築が重要である。国会図書館では,コンテンツの種類を,(1)一次情報(資料そのもの),(2)二次情報(書誌情報),(3)一次情報および二次情報を編集し付加価値を加えたもの,(4)レファレンス系の電子情報,(5)館の刊行物,という5つのカテゴリーに分け,構築を進めている。

公開中のコンテンツ

国会図書館では,ホームページで一次情報や二次情報などを含め,既にいくつかのコンテンツを公開している。

第1のコンテンツは,二次情報のWeb-OPAC(蔵書目録検索)で,従来はCD-ROMで提供していたが,Webから利用できるようにした。1948年以降の図書210万件と1986年以降に受け入れた洋書20万件の書誌データベースを公開している。

第2は国会会議録で,衆議院と参議院と共同で国会の議事録をデータベース化した。検索結果はHTMLデータと官報の画像データを見られる。

第3は貴重書画像データベース,所蔵している江戸期以前の彩色資料で貴重なものを,画像データに書誌情報を付けてデータベース化した。

第4は電子展示会「デジタル貴重書展」で,電子画像とその解説文が作成された。絵巻物をスクロールしたり,伊能忠敬が作成した地図の画像データを地名で検索するなどの機能を提供している。

第5は国際子ども図書館の電子図書館で,2000年5月の国際子ども図書館の開館とともに公開され,絵本などのコンテンツを見ることができる。

電子図書館計画の推進

国会図書館の関西館は2002年10月に開館する予定である。東京の国会図書館の資料が関西館へ大量に移される。国立図書館は東京,関西,上野の子ども図書館の3館の体制で運営されていく。

関西館のオープンを当面の目標として,いくつかの計画が進められている。

第1はOPACの拡充である。現在公開中のものに加え,逐次刊行物の目録や,国会図書館が構築してきた論文単位による500万件の雑誌記事索引なども公開していく予定である。

検索機能と一緒にコピー請求をするというサービスの提供も検討されている。書誌情報を検索して,ヒットした雑誌記事のコピーを入手したい場合,OPACから郵送複写の申し込みをすることができるというシステムの開発を進めている。

第2は国会図書館で所蔵している明治期の図書を,電子化して公開するという,一次画像情報関連システムの開発である。

第3はネットワーク系電子出版物のシステム開発である。インターネット上で流通している電子情報を収集し,書誌情報を付けて図書館の資源として半永続的に利用できるようにする仕組みである。このシステムは,2001年秋には部分的に公開する予定である。

電子化をする資料の選択基準

国会図書館は膨大な資料を所有しているため,電子図書館の計画を作る際,電子化の範囲をある程度決める必要が出てくる。そこで,電子化を進める際に(1)文化的価値,(2)需要,(3)著作権処理,(4)予算を勘案して,資料の電子化を進める順番を決めている。当面の目標は,明治期刊行図書,戦後期の劣化図書,貴重書の3種類を電子化することである。

明治期の刊行図書の電子化については,17万冊を3年計画で行う予定である。その初年度予算が2001年度の予算要求で獲得できたため,現在電子化の準備が進められている。1867年から1912年までの明治期の図書とはいえ,自由に電子化できるわけではない。最初に著作権処理を済ませてから,電子化に着手することになる。

著作権処理を進める場合,最初に著作権調査を行う。その結果,著作権の状態は(1)著作権消滅,(2)著作権者判明,(3)著作権者不明という3つのステータスに分類される。

(1)著作権消滅とは,個人著者で没後50年が経過していたり,団体が公表して50年を経過した著作物が該当する。この場合は,許諾が必要ないので電子化の段階まで進める。

(2)著作権者判明は著作権者が没後50年を経過していないことが判明した場合である。著作権継承者と電子化や公衆送信の利用許諾契約を結ぶ。ただし,そのためには没年や著作権継承者を明らかにして,継承者の住所まで突き止めなければならない。

(3)著作権者不明は,調べてもわからないケースである。一時期活躍しても,年数が経過するとその後を追跡できないケースが多い。しかし,著作権者が判明しないからといって電子化が全くできないわけではない。著作権法の第67条に基づき,相当の努力を払っても著作権者が判明しないなど著作権者と連絡が取れない場合には,文化庁長官裁定という手段を取り,補償金を納めて電子化する方法が残されている。

著作権調査は仕様書を作成し,外部に委託している。今までのケースでは明治期の図書は,5割近くが著作権者不明となっており,著作権調査の作業はかなり時間が掛かると予想される。

著作権をクリアしたら,電子化の作業に進む。明治期の図書はマイクロフィルムになっているので,そこから画像データを作成し,書誌情報とリンクする。さらに,目次情報をテキストで入力し,目次から該当箇所のページ画像を表示できるような仕組みを開発している。

今のところ資料の電子化は古いものを対象にせざるを得ない傾向がある。関西館構想を立ち上げた当時には,利用者から請求があった資料をオンデマンドで配信するという案もあった。しかし,著作権処理の方法が整備されていないため,そこまで対応できていない。

今後は,恒常的な資料電子化を可能にする体制を整えたい,と国会図書館では考えている。また,著作権処理などの制度的な環境整備が進めば,新しい試みに挑戦することも可能となるだろう。

(通信&メディア研究会)

社団法人日本印刷技術協会 発行 「JAGAT info 2001年10月号」 より

2001/10/25 00:00:00


公益社団法人日本印刷技術協会