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eビジネスの法的事項

赤尾法律事務所 弁護士 赤尾 太郎 氏(元 虎ノ門南法律事務所)

電子商取引は,取引に必要になる情報を,コンピュータ処理可能な電子データの形をとって,インターネット等の電気通信回線を通じて伝達し,それによりなされる商取引を指しているように思う。そこで言う商取引は,契約の締結行為あるいはその履行,引き渡し,提供,あるいは代金の決済等である。契約の締結だけを指して言っている場合もあれば,履行行為まで含んで言っている場合もある。

さらに,文脈によっては,契約の締結や履行行為だけではなく,その前段階の交渉行為,見積をとるとか,在庫を確認するような情報のやりとり,あるいはそれよりさらに前段階の宣伝広告なども含んだ意味で使っていることもある。

「電子商取引」という言葉自体は,IT基本法の中に出てくるが,法令上の厳密な定義は見つからなかった。それは,IT基本法が政策指針を示す基本法にすぎず,民間の経済主体同士の権利義務を直接的に規定していないからだろう。

いわゆるBtoCの取引に関しての電子消費者契約という概念が,法令上で近々使われることになるが,「電子消費者契約」はその法律の中で定義される。契約の締結まで,契約の締結行為,あるいは締結された契約とほぼ同じイメージで,それをBtoCに限って考えたような用語である。

ここでは,原則的には契約の締結行為を指して電子商取引と言うが,場合により履行まで含んでいることもある。電子商取引のイメージとしては,まず,隔地者間の非対面による情報伝達がなされて行われることである。通信インフラにインターネットを考える場合は,地球規模での距離を考えることになる。

第2は,コンピュータ処理可能な電子データを使用して情報の伝達を行うということである。 データの形式をとっているために出てくる問題は,法律家はネガティブな側面ばかりよく見るが,ポジティブな側面も含めて言えば,情報の蓄積,整理,分析,加工といった二次利用が非常にしやすい。デジタルコンテンツのビジネスなどの場合は顕著にあらわれるが,そういう利点がある。ネガティブな面としては,伝達の過程,伝達のプロセス,あるいは保存のプロセスの中で,情報内容の棄損,一部が読み取れなくなるとか,改ざん,あるいは,通信の過程で盗用されるという可能性がある。

特に,通信インフラとしてインターネットを使う場合,サーバコンピュータを1回経由するとか,サーバコンピュータよりも先の通信過程に,情報の発信側が関われないという問題がある。サーバコンピュータからリレーで情報が伝えられていき,しかもそのリレーの経路が発信者側で必ずしも特定できない事情があり,ネガティブな部分をいっそう気にしなければならなくなる。

第3は,単にデータの形式をとるからというだけではなく,業務の効率化のために,あるいは別の場面での業務と結び付けるためにコンピュータを使う。要するに,業務処理過程のコンピュータを用いた自動化が図られている。コンピュータとの関係で,コンピュータシステム自体の権利処理の問題が出てくる。あるいは,コンピュータはよく故障する,不具合が出る。その不具合に対してどう備えておくかという問題も考えなければいけなくなる。

第4は,電子商取引とは言うものの,契約の履行の部分まで考えると,オンラインのデータの授受だけでは完結しない部分がある。物品の売買契約の場合,物品の引き渡しは当然オンライン処理できない。それから,役務提供の場合もオンラインで完結しない場合はもちろんある。情報処理サービスのような場合はオンラインで完結することが多いが,必ずしもサービスの提供はそれだけに限らない。

情報の提供である場合は,オンラインで完結しやすいので,電子商取引になじむということになる。したがって,典型的には物品の引き渡し,代金の決済,電子マネーを使ったらどうなのかという話もあるが,現時点では電子マネーの実用化はあまり進んでいない。ここでは代金決済もオンライン上では実現しないという前提で話をする。

さらに,どこまでオンラインによる電子処理,コンピュータ自動化処理で対応するかというのは,ビジネスの問題としては選択肢があり得る。見積まで含めてやるのか,あるいはそれは除外するのか,代金決済の関係では企業会計システムと連動させるのかしないのかということが選択肢としてある。

取引自体に以上のような特徴があることに加え,取引主体に着目した区分が法的にも意味を持っている。ここでは事業者間取引(BtoB)をメインにするが,法律家の世界では事業者・消費者間のBtoCの取引のほうが消費者保護の要請が強いのでメジャーである。最近の立法でも消費者保護の要請にこたえるという観点を先行させて,そちらに力を入れている。消費者間の取引,PtoPは,コンテンツビジネス,特に音楽配信ソフトの関係で,最近法律家も関心を持つようになったが,全体としてみるとまだマイナーという感じがする。

法的に事業者あるいは消費者というのは,何を意味するのか。最近できた消費者契約法の中では,事業者は,法人その他の団体と,さらに個人であっても,自然人であっても,事業として又は事業のために契約の当事者になる場合は事業者と扱う。個人として事業を始めるためにパソコンを買う場合は,事業者として買っていることになる。事業者でない者が消費者であるという定義を消費者契約法は置いており,現在審議中の法案の中に出てくる消費者の概念も同じである。
(つづく)

■出典:通信&メディア研究会 会報「VEHICLE」通巻149号(文責編集)

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弁護士 赤尾 太郎氏のプロフィール
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上智大学法学部卒業,1995年(平成7年)弁護士登録。
一般民事案件,倒産処理から,代金決済関係を中心とした電子商取引関連の契約案件,知的財産関連,コンサルティング業務まで幅広く手掛ける。
2001年9月,虎ノ門南法律事務所から独立,赤尾法律事務所を開設。現在,電子商取引,知的財産関係業務を中心に一層力を注がれている。

2001/11/11 00:00:00


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