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電子商取引の関係法令

赤尾法律事務所 弁護士 赤尾 太郎 氏(元 虎ノ門南法律事務所)

EC法律シリーズその2

包括的な単行法が制定されていない結果として,従来型のリアルな世界で行われていた商取引に適用されるいろいろな法律などが電子商取引などにも適用されるという建前で物事が進んでいる。契約事なので,民法,商法は当然関係している部分が適用になる。コンピュータの関係では,著作権,特許法等が関係する。サイトに表示されるコンテンツの関係でも著作権,商標法等が問題になる。

表示の内容によっては,不正競争に当たる可能性もあるので,不正競争防止法も関係することがある。ドメインについても不正競争防止法の問題として考える裁判例もある。一定の要件のもとにドメインが商品表示と見なせるという理屈である。

それから,サイトの表示の関係で,不公正な取引方法に当たるような場合,独占禁止法,景品表示法などが関係してくることがある。サイトの表示の関係は,BtoCの取引では非常に喧しく言われているが,事業者間の場合は,それほどシリアスに考えられていないようだ。

また,電子商取引に関連していろいろな不正行為があった場合は,当然刑罰の問題が出てくるが,これも包括的な単行法が刑事法の分野でもない関係で,刑事の分野の刑罰の基本法の部分の原則的な法律である刑法に記載されている法律が適用される。一番伝統的なところはネット詐欺,詐欺罪である。ただ,刑法には,1987年の一部改正で,コンピュータに関係した部分でいろいろな犯罪が追加された。

取引の対象物に何を扱うか,あるいはどういう業界がやるのかということの関係で,いろいろな業法が電子商取引の形をとっている場合でも適用される。それは取引の分野によって,千差万別である。ただ,頭の片隅に入れておいてもらいたいのは,単に商取引をしているだけならいいが,サイトを開設するような立場になる場合には,電気通信事業法が絡んでくることが多い。ほとんどのインターネット・サービス・プロバイダの機能を果たしている事業者には電気通信事業法上の第2種通信事業者としての規制がかかっている。

BtoC取引

消費者契約法は最近できた法律だが,事業者間の取引には適用がない。内容としては,一定の場合に取消とか無効を定めている。消費者契約法が電子商取引にどれくらい適用になるかというのは多少議論があり,この法律が定めている取消権の要件の中に,「消費者契約の締結について誘因するに際し」という言葉が入っている。

旧経済企画庁の解説では,客観的に見て特定の消費者に働きかけ,個別の契約締結の意思の形成に直接に影響を与えているとは考えられない場合,例えば,広告やチラシの配布等はその要件に当たらないという説明がされていた。そうすると,Webサイト上に商品広告を出しておき,それに基づいて契約の締結行為が始まるというようなケースに,果たして適用になるのかという疑問が呈されており,適用はないだろうと言い切っている人もいる。

取消権の要件で,この法律は,消費者の住居またはその業務を行っている場所から退去しない,要するに事業者が押し売り的な方法で契約の締結を迫るという場合,事業者が消費者契約の締結について勧誘している場所から当該消費者を退去させない,つまり,自分の事業所あるいは喫茶店等で会って契約の締結を迫っていて,「もう帰る」と言っても退去させない,帰らせないという逆押し売りのような場合にも取消権を認めている。しかし,電子商取引の場合には非対面取引なので,一定の場所から退去させないというのは考えにくい。そうすると,この要件との関係でも取消権は適用ないだろうと言われている。

訪問販売等に関する法律は,2000年に改正され,2001年6月1日から特定商取引に関する法律という名前に変わっているが,内容的にはあまり変わっていない。旧通産省が指定した一定の指定商品の通信販売には,広告内容の規制や,代金前払で貰う場合の事業者の書面交付義務,それに違反した場合の業務停止命令,刑罰等が規定されている。

この法律は,通信販売を郵便その他の通商産業省令で定める方法により,申し込みを受けて行う販売または役務の提供としている。郵便その他の通商産業省令で定める方法というのは,省令で電話器,ファクシミリ装置,その他の通信機器,または情報処理のように供する機器を利用する方法と決まっている。この中にコンピュータを利用する方法も含むというのが役所側の解釈である。したがって,BtoCの場合には旧訪問販売法,現特定商取引に関する法律の通信販売に関する規制が及んでいるということになる。
(つづく)

■関連記事:EC法律シリーズその1 eビジネスの法的事項

■出典:通信&メディア研究会 会報「VEHICLE」通巻149号(文責編集)

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弁護士 赤尾 太郎氏のプロフィール
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上智大学法学部卒業,1995年(平成7年)弁護士登録。
一般民事案件,倒産処理から,代金決済関係を中心とした電子商取引関連の契約案件,知的財産関連,コンサルティング業務まで幅広く手掛ける。
2001年9月,虎ノ門南法律事務所から独立,赤尾法律事務所を開設。現在,電子商取引,知的財産関係業務を中心に一層力を注がれている。

2001/11/18 00:00:00


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