本記事は、アーカイブに保存されている過去の記事です。最新の情報は、公益社団法人日本印刷技術協会(JAGAT)サイトをご確認ください。

オフィスに浸透するXML

ネットワークインフラの整備や,職場へのパソコン導入は,企業内ばかりでなく企業間をも含めた業務システムの再構築など,本来の意味でのOA化を実現する方向に向かっている。これは,企業活動のベースを従来の紙の情報から電子的な情報へ,既存の組織の枠組みを越えた情報交換による組織の再編成へと,大きく変わる流れを作り出すものである。こうした動きは,21世紀初頭に電子政府の実現を目指している行政でも同じである。

XML(Extensible Markup Language)が,そのような組織を越えて交換され,蓄積される電子情報の基盤技術となり,あらゆる分野でXMLへの取り組みが行われている。XMLは一過性のブームではなく,着実に新たな情報フローを作り出す技術になった。

企業のネットワーク構築目的

平成13年度「情報通信に関する現状報告」(情報通信白書)によれば,2000年11月現在,企業の通信利用状況は次のようであった。
従業員300人以上の企業のインターネット普及率は95.8%と,前年より7.2%増加した。また,従業員100人以上の企業の9割近くがLANを構築しており,6割近くが全社的なLANを構築している。全社的なLANの構築は前年に対して14%近く増加し,急速に進展していることがうかがえる。

企業がLANを構築する目的については,「企業内での業務情報やデータの共有化」「電子メールサービスの実現」「企業内でのグループウエアやワークフローの実現」などが上位回答(複数回答)であった。企業が企業間のネットワーク(エクストラネット)を構築する目的については,「電子データ交換(EDI)の実現」「関連企業間での顧客情報の共有」「関連企業間でのワークフローの実現」などが上位回答(複数回答)であった。

電子政府を目指す行政の情報化

行政の情報化は,1994年12月に閣議決定された「行政情報化基本計画」によって本格化した。1997年12月には新たな5カ年計画がスタートし,計画対象に地方公共団体や特殊法人なども含まれ,21世紀初頭に「電子政府」を実現することが目標となった。

2000年11月には「高度情報通信ネットワーク社会形成基本法(IT基本法)」が成立し,このIT基本法に基づき「高度情報通信ネットワーク社会推進戦略本部(IT戦略本部)」が設置され,2001年3月に「e-Japan重点計画」が公表された。

e-Japan重点計画では,「高度情報通信ネットワークの形成」「電子商取引等の促進」など,5つの重点政策分野の1つに,2003年度に電子情報が紙情報と同等に扱われる効率的でサービスの良い電子政府の実現を取り上げ,行政情報の電子的提供,申請・届出等手続の電子化,手数料納付や納税等歳入・歳出の電子化,入札・開札等調達手続の電子化,行政内部で交換される情報のペーパーレス化などが示された。

ネットワーク時代のデータ形式

企業や電子政府が目指している企業間,省庁間,行政と民間などを結んだ情報共有,情報交換,ワークフロー構築など,ネットワークを基盤とした新たな情報フローでは,交換や蓄積される情報のデータ形式が重要である。

ネットワークを通じて交換されるデータは,それぞれ異なるシステム環境で処理されるため,特定のハードウエア,OS,アプリケーションプログラムなどに依存したデータ形式では,企業や国を越えた情報の交換や共有,ワークフローの実現などを可能とすることはできない。

さらに厳密な計算機処理を実現するためには,情報の中にデータの開始・終了やデータの属性などを明確に示す記述が必要で,しかもそれらの記述には使用分野を限定しない汎用性が求められる。
従来からデータ交換に使用されているCSV(Comma Separated Value)形式は,データの各項目をコンマ(,)で区切ったデータ形式である。

[CSV形式の例]
ノートPC,IBM,ThinkPad i Series s30,"198,000"

この例は,先頭から商品名,メーカー名,型式,価格の各項目に対応したデータを表しているが,データの中には項目名を示す情報はない。プログラムで,ある項'のデータを抽出'るには,データの先頭からの順番を数えることになる。このため,順番が異なったり変更されたデータを処理するためには,プログラムの変更や人手による順番の指定などが必要になる。 'p> Webで'用されているHTML(HyperText Markup Language)は,タグを使用することによってネットワークを介したグラフィカルな情報交換を促進したが,表示体裁に重きを置いた'定的なタグのみで,'初からタグの種類や意味が決められており,あらゆる分野を対象にした汎用的なものではない。

SGML(Standard Generalized Markup Language)は,タグ'属性が定義可能で特定の'ステムやOSに依存しないなどのメリットはあるものの,ネットワークで利用するためには処理系が重すぎる。
このように,従来からのデータ形式では,ネットワーク時代の情報共有,情報交換,ワークフローなどの実現には,機能不足である。

なぜXMLか

インターネットを用いた情報交換に関する標準化を進めていたW3C(World Wide Web Consortium)では,従来のデータ形式の問題点を解消し,なおかつインターネットでの情報活用や情報交換をより一層活発に行うために,HTMLとSGMLのメリットを取り入れたXMLを,1998年に勧告として公表した。それ以来,多くのツールや応用システムが開発されている。

XMLは,「拡張可能なマーク付け言語」と訳されており,データや文書,それらに関するメタ情報などを記述するための言語である。XMLデータは簡単にいえば,XMLで変わるワークフローのようにデータや文字列を,開始タグ(この例では)と終了タグ(この例では)で囲んだテキストデータである。また開始タグには,属性を記述することもできる。例えば,報告書が秘密扱いか,公開扱いか,どちらかの属性をもつ場合,秘密扱いの報告書ではと記述する。

テキストデータであるXMLデータは,特定のハードウエア,OS,アプリケーションプログラムに依存しない。また,タグに囲まれた文字列がどのようなものであっても,タグを検出したら,プログラムでさまざまなアクションを起こすことができる。例えば,(1)タグに囲まれ'テキストを表'する,(2)タグに囲まれたデータをデータベースに蓄積する,(3)属性がsecretの場合には,閲覧権限をもつクライアントにのみデータを送る,(4)タグに囲まれたデータが示すファイルを呼び出す,など業務に応じてさまざまなアクションを起こすことができる。つまり,1つのタグに対する用途別アクションプログラムを準備することで,1'のXMLデー'でさまざまなサービス(ワンソース・マルチユース)を可能とするものである。さらに,XMLデータは,プログラムで検出したタグに応じたアクションを起こすことで自動処理も可能となり,企業や国の壁を越えたワークフローの構築をも可能とする。

XMLでは,HTMLの固定的なタグとは異なり,各分野別の処理で必要となるタグ名,タグの順番や入れ子関係などを,DTD('ocument'Type Definition:文書型定義)やスキーマ言語で定義することができる。つまり,分野を限定しない汎用的なデータ形式である。このようなデータの技術的な特徴が,XMLをネットワーク時代における新たな情報フローの基盤技術とした。

規格動向

XMLがネットワーク時代の基盤技術となるに伴い,各種の関連規格や応用規格が整備されるようになった。2001年になってW'C勧告となった'ののうち,印刷業界に関連するいくつかを紹介する。

(1)XLinkとXPointer
ネットワークによる情報公開でWebを一躍花形としたのは,HTMLのリンク機能である。XLink(XML Linking Language)では,HTMLの単純リンク機能(リンク元のコンテンツ中にリンク先を記述する)のほかに,複数ドキュメントのリンク関係の記述や,リンク関係を別ドキュメントとして記述するなどの拡張リンク機能も規定され,W3C勧告になった。

また,XMLドキュメントの特定の場所を指し示すXPointerも間もなく規格化される。このXLink,XPointerを使用すれば,リンク元,リンク先のどちらのドキュメントも改変することなしに,ドキュメントのリンク関係を記述することができる。法定書類や公文書などのような,改変不可能な文書でもリンク関係を指定することができる。

(2)XSLTとXSL
XSLT(XSL Transformations)は,あるXMLデータを,別のXMLデータやHTMLデータなどに変換するための規定で,既にW3C勧告となっている。XSLTによって,自社のファイルシステムに蓄積したXMLデータを情報交換用のXMLデータに変換することや,情報交換したXMLデータを自社のファイルシステム用のXMLデータに変換することができる。

XMLデータの表示体裁を指定する言語であるXSL(Extensible Stylesheet Language)は,このXSLTとXSL-FO(XSL Formatting Object)で構成され,2001年10月にW3C勧告になった。実際の処理では,変換ルールを記述したXSLTスタイルシートとXSLTプロセッサとを用いて,XMLデータをXSL-FOデータに変換し,そのXSL-FOデータをXSL-FOプロセッサで組版するような流れになる。

(3)SVG
グラフィックスの記述にXMLを取り入れたSVG(Scalable Vector Graphics)も,W3C勧告となった。既に,Illustrator 9.0はSVGの出力をサポートしている。従来のビットマップ形式では,グラフィックスを拡大表示するとギザギザが発生したが,SVGはベクトル記述のため,どのような解像度で表示してもギザギザは発生しない。また,SVGはテキストであるため,画像中の文字列も検索対象になる。

(4)XML Schema
DTDでは,タグや属性の定義をすることは可能であるが,タグに囲まれたデータのデータ型などを定義することはできない。例えば,というタグ名はDTDでも定義できるが,そこで記述する日付情報のデータ型は定義できない。つまり,計算機で厳密な処理を行うためには,DTDの機能だけでは不十分ということである。そこで,DTDの不足機能を補うXML Schemaが開発され,W3C勧告となった。

企業や行政のXML利用動向

XMLの利用で現在ホットな話題は,eマーケットプレイスやサプライチェーン・マネジメントなど,電子商取引に関するものである。素材や部品の調達,商品の販売など,多くの企業が関わることから,関連企業が集まって標準化活動が活発に行われている。例えば,日本アリバが設立した電子購買コンソーシアムや,RosettaNetを使用したOrder Management in Japanプロジェクトなどである。また,XMLを利用したシステムやサービスの普及・啓もうを目的としたXMLコンソーシアム,印刷出版関連を中心にインターネット/XML時代のビジネスモデルを探求するXML Publishing Forumなどの団体も設立された。

報道関係でも,XMLをベースとしたニュース配信フォーマットNewsMLを日本新聞協会が開発し,毎日新聞社のニュースサイトなどで使用されている。デジタル放送でも電波産業界が,XMLをベースとしたマルティメディア符号化方式BMLを開発し,2000年12月から開始されたBSデジタル放送で利用されている。

電子申請推進コンソーシアム(http://www.e-ap.gr.jp/)やXBRL Japanなど,行政の申請・届出等手続の電子化の動きに合わせた取り組みも行われている。XBRL Japanは,日本公認会計士協会が中心となって設立した団体で,XBRLによる財務諸表の電子開示を推進している。XBRLは,米国公認会計士協会が中心となって開発した,財務諸表電子開示の情報形式を定義するもので,XMLをベースにしている。

行政でも情報共有や情報交換のための標準化が進み,SGMLを使用した白書,告示,通達等データベースや,電子公文書などの統一的な仕様に基づくデータベースシステム,省庁間電子文書交換システムなどが稼働している。厚生労働省関連では,医薬品製造販売申請・審査システムや医薬品安全性情報提供システムで,SGMLによる申請書類や医薬品添付文書の提出を義務づけている。

経済産業省関連では,輸出入許可申請や税関手続の申請書にXMLを利用した貿易管理オープンネットワークシステム(JETRAS)や,申請・届出等手続きをXMLを利用して電子化する汎用電子申請システムが稼働し,特許申請についてもXML利用が検討されている。国土交通省関連では,建設CALS/EC(公共事業支援統合情報システム)の一環として,公共事業の調査・設計・工事などにおける成果品の電子納品でXMLを使用している。

XML関連ツール

XML関連システムやツールとしては,例えば,個々の企業が独自に構築した情報処理システムと,eマーケットプレイスをスムーズに接続するためのB to Bサーバ類がある。インフォテリアのAsteria,マイクロソフトのBizTalk Server 2000,日本エクセロンのExtensible Information Server(XIS)などである。

XMLドキュメントを保存する機能を備えたデータベースも出てきている。XMLドキュメントをそのまま保存するXMLネイティブなデータベースには,メディアフュージョンのYggdrasillや,ドイツ製でビーコンITが販売元になっているTaminoなどがある。AsteriaやXISの内部にも,この形態のデータベースが利用されている。日本オラクルのOracle9iのように,リレーショナル形式にマッピングしてXMLドキュメントを保存するリレーショナルなデータベースもある。

また,日本ドキュメンタムのDocumentum 4iのように,インターネット上で増大するコンテンツの作成・管理・配信など,コンテンツとその関連業務プロセスを管理し,XMLコンテンツのインポートや変換出力機能を備えたコンテンツ管理プラットフォームもある。

インフォテリアでは,各種のデータベースとXMLドキュメントをやり取りするiConnectorという製品も出している。オフィスで使用されている表計算ソフトExcelと,XML形式データとを相互変換するツールには,インフォテリアのiMaker for Excel,東芝アイティー・ソリューションのXframe HyperGrid/GridPlusなどがある。一方,マイクロソフトのOffice XPでは,ExcelでXMLデータのインポートを,Accessでインポートとエクスポートをサポートした。また,ウルトラXMLコンバータ(RTFファイル→XML変換)を提供しているシンクプランでは,電子フォームの設計・入力ツールXML CREATORを販売している。これを使用すれば,DTDに基づいたXMLデータが自動生成できる。オフィスの日常業務でXMLが簡単に使えるようになったといえる。

印刷関連でも,各種のツールが販売されている。QuarkXPressではavenue.quarkを使用することで,印刷物を制作したデータからXMLドキュメントを制作することができる。アドビは,XMLインポート/エキスポート機能や,XMP(Extensible Metadata Platform)対応機能を備えたInDesign 2.0を,2001年9月のSeybold SFで発表した。

ネクストソリューションでは,XMLドキュメントの組版出力のために,簡単な操作で組版体裁指定用スクリプトを作成するNEXTStylusと,組版・閲覧ソフトNEXTPublisherを販売している。 アンテナハウスでは,XSLスタイルシートに対応したXML組版・閲覧ソフトXSL Formatterを販売している。また,XSLTで組版用コマンドを生成するオプション機能によって自動組版を行う,大日本スクリーン製造のAVANAS BookStudioもある。モリサワでは,MC-B2用にXMLドキュメントとの双方向変換機能を開発している。

XMLドキュメント作成用では,マイクロソフトWordのデータをXMLに変換するツールや,構造化文書作成専用エディタなど,数多く販売されている。

■出典:プリンターズサークル 11月号

2001/11/06 00:00:00


公益社団法人日本印刷技術協会