進展する企業の内製化の例として,アメリカンファミリー生命保険(以下AFLAC)の井田安信氏のお話から,保険業界のさまざまな動きとその対応状況を紹介する。
顧客の意識も変化している。1997年4月のアンケートでは,保険加入に際して「他社商品と比較しなかった」という人が82パーセントだったが,1999年には5割以上の人が他社商品と比較した上で加入したと答えている。また,従来は勤務先の会社の紹介なら安心だという理由で加入する人が多かったが,最近では「保険は勤務先の会社とは関係なく選びたい」という人が68パーセントに上っている。
このような状況の変化や顧客の意識の変化に対して,各保険会社ともニーズに合った新商品を開発したり,営業方法を変えて対応しようとしている。
AFLACでは社員による販売はせず,代理店チャネルを使って職域の顧客や個人顧客に販売したり,コンサルティング営業部隊を作ってコンサルティングしながら保険を販売する。インターネットを通じた販売も行っているが,いずれにしても,いろいろな保険種類をいろいろな顧客に提供しなければならなくなり,従来の営業方法では対応できなくなっている。
例えば顧客先に携帯端末(PC)を持って行って,その場で保険を設計し,良ければ署名してもらい,電子送信により契約が成立するというサイクロンという方法がある。また,会社ごとの営業の場合は,まずその会社が従業員に紹介している保険の内容を聞き,それに欠けているものでAFLACが提供できるのは何かという視点で話をする。そして会社に提供する保障の内容を決めると同時に,その会社の従業員それぞれの既存の契約内容と突き合わせて見積書を作るのである。
AFLACの保険はもともと10種類程度なのだが,パンフレットは350種類もあり,そのために約20億円の制作費・印刷費を掛けている。しかし,細かいニーズに対応したパンフレットをそのまま他へ使うわけにもいかないので,余分に印刷するのは無駄である。こうした無駄をなくしたいというのもこのシステムを開発した大きな理由であった。
POPSではまず「商品化へ」というメニューを選んで入力していく。作ろうとする書類のレイアウトを選ぶとその書類に必要な項目が一つずつ出てくるので,例えば各種の保障を付けるか付けないかなどを選んでいく。給付金をいくらにするかなども入力する。項目の指定が終わると作成ボタンを押す。現時点ではだいたい30秒ぐらいで自動レイアウトが行われる。レイアウトができると「発注」ボタンを押して発注部数や納品先などを入力する。POPSシステムで生成されるデータはPDFで,これを電話回線で印刷会社に送り,版を作って印刷する。
内製化といってもレイアウトを最初から社内で作るのは大変なので基本となるパターンはデザイナーと打ち合わせて最初に作っておく。また,自動組み版化に必要なプログラミング部分などはプラネットコンピュータに依頼しているし,実際に印刷する版部分を作るのは印刷会社である。 顧客のニーズをうまく吸収することが保険会社の仕事の核だが,それはPOPSのようなシステムを自分たちで使って印刷物をレイアウトし,印刷版を作れるということでもある。パンフレットやカタログは見栄えが重要である。だから,ユーザが簡単にレイアウトできるPOPSのようなツールがどんどんできると非常に助かる。
POSはそのようなミスを軽減することも考えて自動化を行ったものである。パンフレットのレイアウト作業が終われば,そのデータはPDFファイルとしてWebを通じて印刷会社に送られる。印刷会社ではそのデータから直接印刷版を作って,中3日で印刷物にして,4日目には納品という流れになっている。
現在は印刷会社にデータを送って印刷しているわけだが,いずれ,顧客に見せる印刷物として問題のないレベルのプリンタも出てくるだろうから,将来は,最後まで印刷会社に頼らずにパンフレットやカタログの内製化ができるようになるかもしれないと考えている。
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井田氏のお話からうかがえるのは,AFLACが進めているような内製化の流れは企業単位や業界単位の一時的な動向ではなく,もっとずっと根本的な変化だろうということである。そしてその変化への対応が印刷業にも問われている。
(テキスト&グラフィックス研究会)
■出典:JAGATinfo 2001年11月号
2001/11/12 00:00:00