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生命保険パンフレットの内製化

進展する企業の内製化の例として,アメリカンファミリー生命保険(以下AFLAC)の井田安信氏のお話から,保険業界のさまざまな動きとその対応状況を紹介する。

生命保険業界の変化

AFLACは主にがん保険を扱っているが,個人保険保有件数1493万件は件数としては日本生命についで業界第2位,保険会社としての位置付けは15番目くらいである。
AFLACの運営は順調だが,生命保険業界全体としては他業種と同様,厳しい状況が続いている。2001年はさらにそのような厳しい状況に加えていろいろな動きが出ている。まず,がん保険や介護保険など第3分野といわれる医療分野への大手保険会社の参入が1月に解禁され,さらに7月には損害保険会社の参入も解禁された。対して保険業界側でもグループ結成や統合が進んでおり,AFLACも,もともとは生命保険会社だったが損害保険の分野にも乗り出した。

顧客の意識も変化している。1997年4月のアンケートでは,保険加入に際して「他社商品と比較しなかった」という人が82パーセントだったが,1999年には5割以上の人が他社商品と比較した上で加入したと答えている。また,従来は勤務先の会社の紹介なら安心だという理由で加入する人が多かったが,最近では「保険は勤務先の会社とは関係なく選びたい」という人が68パーセントに上っている。

このような状況の変化や顧客の意識の変化に対して,各保険会社ともニーズに合った新商品を開発したり,営業方法を変えて対応しようとしている。

新商品の展開・営業方法の変化

もともとAFLACはがん保険で大きくなった会社であり,がん保険についてはどこよりも安い保険料で充実した保障を,と力を入れており,今年は「21世紀がん保険」という商品を作った。通常のがん保険には診断給付金,入院給付金,手術の保障,在宅の保障などがあるが,それに加えて高度先進医療の保障や診断給付金を治療開始前から払うなどのニーズに対応している。また末期がんの保障拡大としてケア病棟に入院した場合の保障をプラスするなど自在性をもたせ,その人に合った保障を行うように設計した。このように保証内容の種類を増やして契約者が選べるようにし,個人に合った保証を付けるというのはアメリカンファミリーに限らず,保険業界全体の傾向でもある。

AFLACでは社員による販売はせず,代理店チャネルを使って職域の顧客や個人顧客に販売したり,コンサルティング営業部隊を作ってコンサルティングしながら保険を販売する。インターネットを通じた販売も行っているが,いずれにしても,いろいろな保険種類をいろいろな顧客に提供しなければならなくなり,従来の営業方法では対応できなくなっている。

例えば顧客先に携帯端末(PC)を持って行って,その場で保険を設計し,良ければ署名してもらい,電子送信により契約が成立するというサイクロンという方法がある。また,会社ごとの営業の場合は,まずその会社が従業員に紹介している保険の内容を聞き,それに欠けているものでAFLACが提供できるのは何かという視点で話をする。そして会社に提供する保障の内容を決めると同時に,その会社の従業員それぞれの既存の契約内容と突き合わせて見積書を作るのである。

POPS

保険の種類や営業方法が多様化してくれば,客に渡すパンフレットにも,その人個人のニーズとその人の勤務先の会社のニーズを盛り込む必要があるし,各保障の内容に合った申込書を作らなければならなくなる。POPS(Practical Ondemand Pagenation System)はそのようなニーズに対応するためのパンフレット希望書とパンフレット申込書の自動制作システムである。

AFLACの保険はもともと10種類程度なのだが,パンフレットは350種類もあり,そのために約20億円の制作費・印刷費を掛けている。しかし,細かいニーズに対応したパンフレットをそのまま他へ使うわけにもいかないので,余分に印刷するのは無駄である。こうした無駄をなくしたいというのもこのシステムを開発した大きな理由であった。

POPSではまず「商品化へ」というメニューを選んで入力していく。作ろうとする書類のレイアウトを選ぶとその書類に必要な項目が一つずつ出てくるので,例えば各種の保障を付けるか付けないかなどを選んでいく。給付金をいくらにするかなども入力する。項目の指定が終わると作成ボタンを押す。現時点ではだいたい30秒ぐらいで自動レイアウトが行われる。レイアウトができると「発注」ボタンを押して発注部数や納品先などを入力する。POPSシステムで生成されるデータはPDFで,これを電話回線で印刷会社に送り,版を作って印刷する。

内製化といってもレイアウトを最初から社内で作るのは大変なので基本となるパターンはデザイナーと打ち合わせて最初に作っておく。また,自動組み版化に必要なプログラミング部分などはプラネットコンピュータに依頼しているし,実際に印刷する版部分を作るのは印刷会社である。 顧客のニーズをうまく吸収することが保険会社の仕事の核だが,それはPOPSのようなシステムを自分たちで使って印刷物をレイアウトし,印刷版を作れるということでもある。パンフレットやカタログは見栄えが重要である。だから,ユーザが簡単にレイアウトできるPOPSのようなツールがどんどんできると非常に助かる。

POPSの効用

システム化以前の大きな問題の一つは,保険特有の細かい改定作業における印刷会社とのやりとりだった。印刷会社に版下を持って来てもらって直すのだが,印刷会社では細かい違いがわからず,20回に1回くらいの頻度で違う版を持って来てしまう。例えば保険には「個別取扱」と「団体取扱」があるが,「個別」のほうを直したかったのに「団体」の版下を持って来てしまい,AFLACでもチェックできないまま印刷してしまう。そういうことで大きな損失が出てしまうことがあった。

POSはそのようなミスを軽減することも考えて自動化を行ったものである。パンフレットのレイアウト作業が終われば,そのデータはPDFファイルとしてWebを通じて印刷会社に送られる。印刷会社ではそのデータから直接印刷版を作って,中3日で印刷物にして,4日目には納品という流れになっている。

現在は印刷会社にデータを送って印刷しているわけだが,いずれ,顧客に見せる印刷物として問題のないレベルのプリンタも出てくるだろうから,将来は,最後まで印刷会社に頼らずにパンフレットやカタログの内製化ができるようになるかもしれないと考えている。


井田氏のお話からうかがえるのは,AFLACが進めているような内製化の流れは企業単位や業界単位の一時的な動向ではなく,もっとずっと根本的な変化だろうということである。そしてその変化への対応が印刷業にも問われている。
(テキスト&グラフィックス研究会)

■出典:JAGATinfo 2001年11月号

2001/11/12 00:00:00


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