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トレンドは顧客のコミュニケーション支援だが…

JAGATでは「2050年シンポジウム」を開催し、紙がどうなる、印刷がどうなる、という議論をしてきた。その中では、将来は紙の情報は不要になるという意見と、紙媒体を使う文化はそのまま残る部分があるという正反対の意見があって、一つの結論には達し得ないのが現状である。例え紙媒体が残るという人でも、今のまま何も変わらないと考える人はおらず、数年以上先を考えると印刷需要のある部分は崩れる予感をもっている。

しかし新聞がなくなるか、雑誌がなくなるか、学術誌がなくなるかなど個々の印刷物に話が及ぶと、人によって大きく意見が違う。これらをマイナス面で全部あわせると、皆が将来とも絶対に残ると言う印刷物はなくなり、プラス面をあわせると、全印刷物が残ることになり、どうも印刷物の将来は主観の域を出ないようだ。

この20年間はずっと電子メディアへの期待が語られ、それに対峙するように印刷の新たなアイデンティティが模索されてきた。従来は紙と印刷と出版は運命共同体的であるという発想で、印刷か、電子メディアか、という対立的な捉え方が支配的であり、電子媒体のビジネスは印刷とは別物とされた。そのような区分けの中で業界内には、「まだ印刷が優位」という点を反芻していたに過ぎないようなメディア比較論が多かった。

こういった我田引水的な根拠で印刷が残ると主張しても将来のビジョンにはならない。当面の話として既存の印刷メディアは使われる。ただしマーケットが広がっていくものではない。当面の紙媒体のビジネスは、高能率化による低コスト競争でのサバイバルなので、受注量があったとしても売上の減少は続くかもしれない。将来のために考えなければならないのは、塚田最高顧問のいう脱工業化へのビジネスの切り替えである。

少し前にマルチメディアやオンデマンド印刷で新市場の創出、といういい方があったが、それらは顧客のコミュニケーション方法を再構築するためのコンポーネントにすぎず、同様に印刷物もコミュニケーションの一要素に過ぎない。だからマルチメディアやオンデマンド印刷単独で稼ぐという発想に無理があるのである。今、多くの人が合意することは、これからは印刷か電子メディアか、という対立ではなく、両方を合わせたコミュニケーションの形になっていくことで、そのような取組みはいたるところでされ始めた。

既存メディア(出版、新聞、放送、およびそれに類した印刷など)のように再構築されない印刷物も残るだろうが、ビジネスや学習のツールとしての印刷物は、他のメディアの発達とともに印刷の受け持つ役割が変化してくことが考えられる。これは何も印刷の役割が減っていくという意味ではなく、逆に印刷物の意味が明確になっていくことかもしれない。これをいち早くキャッチすれば、印刷ビジネスを強化することができるし、見誤れば電子メディアにビジネスを奪われることにもなろう。

すでに地図というのはカーナビやインターネットや携帯電話で見ることができ、単に印刷物を作るためにコンテンツを加工しているわけではないし、情報を必要とする人も紙がいいか画面がいいかなどは考えず、必要に応じて選択するようになっている。情報加工産業は媒体にとらわれずに、トータルに顧客のコミュニケーション活動を支援する業務に目が向いている。

「サービス」という点ではメディアを複合して考えないと新たなチャレンジができないし、長年印刷メディアを扱ってきたノウハウを、電子メディアの用途開発に生かしていくような、積極的な意識の切替が必要である。しかし従来の作る立場から勝手に考えていた我田引水的な印刷優位論では、顧客のコミュニケーションの再構築を考えることはできない。

JAGATでは、印刷発注者はメディアの特性、特に印刷のメリット・デメリットをどのように考えていて、これからの媒体の取組みをどうしようとしているのかを探るために、techセミナー「紙媒体と電子媒体の境界」を開催します。大口発注者のプレゼンとディスカッションで、これから顧客とともにリスクを回避しながら新たなメディアに取り組むヒントを探りたいと思います。近未来のメディア戦略を考える方のご参加をお待ちします。

また「コミュニケーションの再構築」は、来る2002年2月6日〜8日のPAGE2002でもメインテーマとします。ご期待ください。

2001/11/13 00:00:00


公益社団法人日本印刷技術協会