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1bit TIFFを利用したリモート・イメージング

CTPの導入は急テンポになり,ネットワークを利用した遠隔地での出力や校正などに取り組んでいる印刷会社もある。納期短縮や生産性向上を図るためには,一定の品質を保ちながら安定した出力を行えることが基本になる。その出力作業において,不安定要素を排除することで注目されているのが,1bit TIFFを利用した出力である。2001年9月4日のTG研究会ミーティングの中から,シンボリック・コントロール株式会社の伊藤誠氏の話を紹介する。

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新しい出版形態に対応したデータデリバリフォーマットの開発

オンデマンド出版用のデータデリバリフォーマットの開発と,その運用システムの販売を目的に,シンボリック・コントロールは2000年7月25日に設立された。ここでいうオンデマンド出版は,サテライト型と呼ぶものである。おそらく4〜5年先には,コンビニや書店,あるいは全く違った場所などにデジタル印刷機が置かれ,本を買いに行くとその場で印刷するような形態の出版物が出てくるであろう。drupa2000でもゼロックスはその方向を鮮明に出していた。

そのような新しい出版形態ができると,本を出荷する代わりにデータを出荷しなければならなくなる。そのときには新しいフォーマットが必要になると考え,データデリバリフォーマットを開発しようと考えた。

そこで,データ圧縮技術では「cubic-D」という単独の商品化を進めており,カラーマネジメント技術では,光の分光特性で色を合わせる次世代型カラーマネジメントの「分光カラーマッチング」を開発している。データをデリバリするセキュリティとして暗号化技術も開発している。

リモート・イメージング・ソリューション

「cubic-D」はLinuxマシンで,データ圧縮・伸張用の専用ハードウエアを組み込み,高速に圧縮・伸張を行う。ネット上のブラウザでコントロールするため,これ自体にはモニタもキーボードもない。RIP処理後の網点化された1bitのデータでは平均で20分の1に,2段組で写真が2〜3点という平均的なページものでは30分の1から40分の1に,自動的に圧縮して転送する。ネット上にIP接続されたもう一方のcubic-Dが受け取り,自動的に復元して出力機に渡す。

デジタルプルーフの特性を最大限に生かすリモートプルーフィングには,データ転送速度,カラーマネジメントやプルーファの精度などいろいろな課題があるが,なかでも単独で解決しにくいデータ転送速度に関しては,cubic-Dで比較的簡単に解決できるであろう。

また,面付けまで終了したプリプレスデータを離れた工場側のCTPに送るリモートCTPでは,この1bitデータ転送方法で工場側のCTPを無人運行することも可能である。

1bitワークフロー

従来は,プリプレス側でフィルム出力を行い,それから先はプレス工程で管理された。CTPをフィルム出力機の代替とすればプリプレス機器と見えるが,CTPは刷版出力機でありプレス側の工程管理で運用されるべきではないだろうか。

プリプレス側は,さまざまなデータ修正に柔軟に対応することが要求され,プレス側は高価な印刷機を最大限無駄なく,一つの事故もなく運行するという工業生産として,データの化けなどが発生しない安定した信頼性の高さが要求される。

データ修正やRIP処理などは,いろいろな不安定要素がある。これに対して,RIP処理後の1bitデータは化けようもない信頼性の高いデータである。従って,RIP処理までをプリプレス側で行い,RIP処理後の1bitデータをプレス側のCTPに渡す1bitワークフローは,プリプレス側で不安定要素を吸収し,プレス側にデータ処理上の不安定要素を持ち込まない運用上有効な方法である。

また,中堅以上の印刷会社の場合は,縦割りの分業体制がきちんと確立されている。このような縦割りの分業体制にCTPを導入する場合,1bitデータの責任はプリプレス側がもち,それ以降はプレス側の責任になるという責任体制が明確な1bitワークフローは有効だと思う。この責任体制は,RIP処理してフィルム出力するまではプリプレス側の責任で,それ以降はプレス側の責任範囲という従来からの責任体制をそのまま継承することができる。

1bitワークフローの短所と解決策

1bitデータの最大の問題点はデータが大きいことである。菊全の2400dpiのデータで1版が約650MBになる。当然CMYKの4版ではその4倍のデータ量になる。従来のG4圧縮でも約10分の1が平均だと思うが,それでも1版約65MBである。

このデータ量の問題については,前述した「cubic-D」で平均20分の1まで圧縮して転送することができるため,かなり改善する。ちなみに現在新たな圧縮方式についても開発しており,その方式では,平均で30分の1から40分の1まで圧縮ができるようになっている。

次は1bitデータの長所でもあり,短所でもあるが,修正が難しいことである。すべてビットマップデータになっているため,修正するには特別なツールが必要になる。データ形式だけを見ればPhotoshopで修正できそうに思うが,菊全の2400dpiのデータで約650MBとデータが大きすぎてPhotoshopでは開けない。結局,Photoshopでも修正できないデータが多い。

この1bitデータの修正については有限会社ジーティービーが,指定エリアの高速網点表示,網点の確認,不要部分のマスク作成やコピーペーストなどのストリップ修正,色版ごとの加減調整などの機能をもつStrip Editorというソフトを出している。

3番目の短所は,ドットゲインカーブの修正ができないことである。従って焼度調整ができない。Aという印刷機用に作ったデータは,Bという印刷機にそのまま使えないことが多い。これが1bitデータの最大の問題点といえるかもしれない。この問題の解決策も,ジーティービーより新たなソリューションが出るとの話を聞いており期待している。

ブロードバンドでリモート・イメージング

実際にデータを送る方法にはいろいろあるが,一番安価で新しいインフラとして急速に広まりつつあるADSLなどのブロードバンドを使うこともできる。
シンボリック・コントロールの日本橋ショールームと京都の本社をつないでいる例では,実行転送レート700KbpsのADSLを使用すれば,菊全の2400dpiのデータ4版を15分弱で転送可能である。RIP処理を終了したデータをcubic-Dで圧縮して京都まで転送し,京都のcubic-Dで復元してディスクに蓄積するまでの時間が15分弱である。ADSLは月額約5000円の安いものを使っている。NTTのフレッツでは約300Kbpsしか出ない。

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非常に初期の段階にかなり注目された1bitワークフローも,ここ10年ほどはやや影を潜めていた。しかし,ここにきて急速に1bitワークフローが見直されてきている。それは,機械の故障でもないかぎりは工程管理どおり仕事が流れ,無駄がなく,生産性の高い印刷工程が実現できるからである。デジタル化,特にCTP化という中で少し忘れ去られていたプレスの工程管理の中に,埋もれた利益の源泉があるのではないかと思っている。
(テキスト&グラフィックス研究会)

■出典:JAGATinfo 2001年12月号

2001/12/02 00:00:00


公益社団法人日本印刷技術協会