本記事は、アーカイブに保存されている過去の記事です。最新の情報は、公益社団法人日本印刷技術協会(JAGAT)サイトをご確認ください。

これからの人材と組織をどのように準備していますか?

〜プリンティングコーディネータの存在〜
12月7日に第5期の「プリンティングコーディネータ養成講座」(10月4日〜12月7日、約100時間講座)が修了する。受講生はトータルに仕事・現場が見られる人が欲しいとの期待を受けて派遣された方々ばかりである。本講座は製品の全工程を通観でき、得意先に幅広い提案・サービスができる人を養成しようというものであるが、プリンティングコーディネータの養成は単なる人材育成と違って、新しい企業組織のあり方とも深く関連しており、理想と現実に挟まれしばらくは試行錯誤の連続である。
●誰が「コーディネータ」を目指すか
プリンティングコーディネータ養成講座に参加される所属(専門)をみると「製版部門(Macオペレーションを含め)」「デザイン・企画部門」「営業部門」「生産管理部門」が混在している。「どの部門の誰を」プリンティングコーディネータに育てるかは、それぞれの企業の製品、得意先、あるいは営業方針・企業戦略によって違ってくる。

その違いは、自ずとコーディネータのスタイルやポジションと関わってくる。1.営業マン自体がコーディネータの場合、2.営業と現場をつなぐコーディネータの場合(問題解決型)、3.専門職としてのコーディネータの場合(課題解決型)、4.プロデューサー的コーディネータの場合(企画提案型)の4スタイルが想定される。そこに要求される知識の幅と深さにはかなりの差がある。どのタイプを選択するかは、経験や知識の違いによる個人差、製品内容の違いによる企業差を考慮して決めればよい。問題は個人差・企業差以前に、企業組織がコーディネータを受け入れる形を整えているかどうかが大きな問題であると講師の梶氏、中野氏、坂本氏などは指摘する。

●コーディネータに権限がなければ存在価値はない
企業内に「幅広い一騎通貫の知識を持った人がいると便利だ」と思うのは、誰も同じだ。特にこれからは、印刷自体の幅の広さに加え、Webなどのメディアの異なるものまでサービスの対象になる時代だからますます存在価値は大きくなるはずだ。しかし、社内の便利屋さんでは得意先への付加価値にはならない。企業の顔として得意先に出ていくならば、「権限」が絶対条件として必要である。プリンティングコーディネータを表明するかどうかは別にして、コーディネートする人間に権限がなく、いちいちお伺いをたてるのでは、笑い者である。メディアを問わず、幅広い知識あるいは経験を活かしていくコーディネータを養成するならばその名称は何であれ、権限を与えることが条件である(当然責任も大きい)。新たな人材に権限を与えるということは、組織再編が前提とになる。組織の再編は経営戦略そのものである。新しい企業環境でなければコーディネータは育たないだろう。

●T字型能力(Tの字スペシャリスト)がポイント
かつて特別な得意先へのディレクションを担当していた「プリンティングディレクター」は、ベースボール型組織のスペシャリストであるといえる。それに対してこれからのコーディネータはサッカー型組織の指令塔であるという梶氏(TGC)はいう。これがTの字スペシャリストともいえる新しいタイプのコーディネータで、一見ゼネラリストのようだが、専門の領域をもち、専門外の時にはスムースに仕事にあったスペシャリストをコーディネートできる人材である。ベースボール型組織のスペシャリストでは、その人を活かすお膳立てが整わなければ出番はない。窓口の狭いスペシャリストに解決をもとめても全く対応ができなかったり、無理やり自分の領域に話をネジ曲げてしまっても困る。状況に合わせて自分の動きを変えるフレキシブルで幅広い対応が必要である。

経営者の方には人材としてのプリンティングコーディネータのもつ意味合いを是非理解していただきたい。

●「表現へのこだわり」を得意先と共有化
次に企業戦略や組織ではなく個人資質としてみてみると、何人かの講師から「表現へのこだわり」をもっと理解して欲しいという意見がだされた。デジタル化=合理化=職人的こだわりは不必要であるかのような流れや誤解があり、問題であるという。ここでいう「表現へのこだわり」とは、得意先とは隔絶した狭い印刷技術のことでなない。得意先あるいはクリエータが目指しているものへのこだわりを理解する能力が必要である。一見「うるさい客」「無理な要求」の「真意」はどこにあるのか。「表現へのこだわり」を得意先と共有化できれば、問題の多くは解決するはずだ。共有化にはコミュニケーションが不可欠である。コミュニケーションをうまく成立させるには共通の土俵を準備しなければならない。プリンティングコーディネータは得意先のこだわりを印刷ビジネス上に乗せるためのいろいろな表現手法と情報を提供する。「どうすれば実現するか」を一緒に考えるプロセスが共有化である。そのままでは受け取れない言葉、矛盾する言い分、納期・費用の無理難題など「どうしてなのか」を同じ土俵に引っ張り出せばしだいに接点が見えてくるはずだ。説得と納得の関係を少しずつ詰めていくなかで、相手はプリンティングコーディネータを「プロ」だと意識するはずである。

●プロのこだわり道具
得意先の「こだわり」を理解することは、それほど難しいことではない。何も得意先の専門市場や技術、また芸術すべて理解しろというものではない。またそのようなことは無理である。窓口を狭くして対応すれば、どうしても接点が少なくすれ違いは多くなる。得意先は「印刷会社の都合に振り回された」という印象を持ち不満が多くなる。

「さすがプロだ」と思わせるコツは同じ土俵でのコミュニケーションの取り方であると述べたが、そのコミュニケーションを強力にサポートする仕掛けが「こだわりツール」である。得意先の「こだわり」を実現させる印刷側の「こだわり」を上手に見せる道具だそうだ。億のオフ輪や8色枚葉機、CTPなどを見せるより効果があるという。分光光度計のような個人で持つには高価なものは別にして、光源の演色性検査カードや倍率の違うルーペ、ポイント/級数表、罫線表、カラーチャート、各種鉛筆/デーマト、人気用紙の見本と価格表、CMYKフィルター、そしてノートパソコン等々、個人で買えるもの、作れるものを最低12-3種類は持つべきだという。中には自前で工夫してオリジナルツールをできるだけ多く作れという。当然この小道具は作業用などではない。コミュニケーションツールである。なぜこんなものが有用なのか。答は明快である。

 1.プロとしての道具を見せる
 2.理屈を実際に(あるいは仮想)表現してみせる
 3.イメージをハッキリさせてブレをなくす
 4. 最後にさすがと思わせる

つまり、コンピュータではなく人間が介在してコンピュータにはできない成果といえば「互いの信頼関係」の絆を強めることである。まさにプリンティングコーディネータの役割である。小道具を上手に使いこなす知恵(知識と経験)が必要であるが、プリンティングコーディネータにとって最大の武器は、知識と経験を最大限に効果ならしめる「コミュニケーション能力」であると講師の多くが口をそろえていう。
* * *
プリンティングコーディネータとは単に真新しい名称であるというのではなく、企業組織のリエンジニアリングであり、人材の新しい能力開発であり、対得意先へのパートナーシップ強化であることを認識して取り組んでいただきたい。

■関連事業
プリンティングコーディネータ養成講座
(毎秋年1回開催/厚生労働省認定 教育訓練給付制度指定講座 )

 →その他JAGATセミナーに関してはこちらをご覧下さい。

2001/11/29 00:00:00


公益社団法人日本印刷技術協会