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拡大するeラーニングの世界

先進学習基盤協議会事務局 佐々木知津

eラーニングという言葉をよく耳にするようになった。このネットワークにより行われる教育は,紙と鉛筆を使って教室で学習することを中心とした,従来の学習形態を大きく変えるといわれている。教育現場においては教科書,参考書,テストなどのさまざまな印刷物が使用されているが,このような新しい動きは,どのような影響を与えるのだろうか。

eラーニングとは?

ネットワークを利用した遠隔教育,いわゆるeラーニングやWBT(Web Based Training)が急速に注目されてきている。初等中等教育での情報化の進展や,高等教育でのインターネットなどITを用いた授業の単位認定など,教育現場でITを活用しようとする文部科学省の方向性,また企業教育での積極的な導入などが,その要因と思われる。これまでもCBT(Computer Based Training)などのネットワークに依存しない形での学習はあった。しかし,近年のパソコン利用者の増加とブロードバンドサービス,ネットワークインフラの整備などにより,双方向性やオンラインの学習システムが関心を集めている。

現在,遠隔教育に利用されているものとしては,テレビ,ラジオ放送,通信衛星,テレビ会議システムおよびインターネット,イントラネットがある。

eラーニングやWBTの定義は,人により異なっており,明確なものはないが,WBTはインターネットまたはイントラネットを利用したWWWによる学習方式で,ブラウザ上に表示される教材や講義を見ながら学習する方式である。単元テストを行うなど双方向性があり,サーバ上にあるので学習者は自由な時間に好きな場所で学習可能である。

一方,eラーニングはIT関連を利用した教育の幅広い概念であり,「ネットワークによる遠隔教育全般」と定義できる。WBTを使った教育だけではなく,衛星教育などを利用したバーチャル・ユニバーシティ,2000年12月より開始されたBSデジタル放送なども包括したものである。

このようにeラーニングには,テレビなどの従来からのメディアによるものと,ITを利用したネットワークによるものがあり,「時間的な自由度」と「双方向性の有無」で整理することができる。eラーニングの代表的なシステムであるWBTは,前述のように時間,場所の制約がないだけでなく,個人の理解度や学習履歴を把握することも可能にしている点も注目すべきであろう。

WBT以外のネットワークによる遠隔学習としては,携帯端末,書籍を電子データ化した電子ブック(eBook),テレビ会議システム,衛星通信,放送などが想定される。

携帯端末やeBookを使ったものは,軽量で持ち運びができるため,「いつでもどこでも」学習することが可能になる。
テレビ会議システムは,リアルタイムで質疑応答を行うことが可能であるため,対面型授業とほぼ同じ効果が得られる。
衛星通信は1地点から多地点へ講義などを配信する形態や,1対1または多地点間で双方向通信を行う形態など,広域を一度にカバーすることができる。

eラーニングでは,コスト面も導入する現場にとって利点である。例えば認定資格を取るための研修では,従来の教室方式では1人当たりの費用に加え,教室,インストラクターなどの費用がかかるが,eラーニングであれば上記のような直接コストが削減できる。さらに,コンピュータにより学習履歴を管理することで,各自の実力と必要に応じた学習ができるなど,導入側にも学習者にとってもメリットがある。
ネットワークが多様化し整備されてきており,個人のニーズに合った学習を可能にする遠隔学習が実現されてきている。

市場と規模

ネットワークによる遠隔教育マーケットのうち,特にWBTを利用した教育サービスに着目し,各教育現場におけるWBTマーケット規模の算定を行った。教育現場におけるターゲットとなる対象者の増減動向,教育現場におけるWBT化の動向およびWBT受講費の動向調査を前提に算出した。

マーケット規模は,2003年には約1100億円,2005年には約3100億円と,2年で2.7倍となる。特に大幅な伸びが予測されるのが,高等教育と企業内教育である。学校教育のマーケットは,現状では企業内教育に比べてWBT普及が遅れているようにみえる。しかし今後各種環境整備が進むにつれ,急速にWBTの導入が進むと考えられる。

日本のeラーニング市場は,アメリカの市場が1998年より年率83%の急成長を続けているのに比べ,2003年時点では10分の1,2005年においては13分の1という状況である。

日本におけるECマーケット規模の成長率などを参考に,2005年(3090.2億円)から年率40%のペースで成長すると,2010年には約1兆円市場になると考えられる。


(出典:月刊プリンターズサークル2002年1月号特集「拡大するeラーニングの世界」より)

2001/12/23 00:00:00


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