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XMLをめぐるQuarkとAdobeの好対照

SeyboldSF 報告その4

  SeyboldSF報告その1では、「XMLが目前」の現象として、QuarkがAdobeよりも先に進み出したことを述べた。昨年はAdobeもQuarkも膠着状態であったのが、AdobeはInDesignを発売し、Quarkはavenue.quarkというXTentionでXML対応を発表するなど、両者は激突ではなく別のロードマップを提示するようになった。

Adobe復活

昨年のK2騒ぎはAdobeが業績の上で追い詰められたような状態になったことに端を発している。しかし今年春からAdobeの収益は好転し、1998年夏には20数ドルだった株が100ドル近くに復活している。昨年同期に比べて売上は2割増えた。これはアプリケーションソフトのPhotoshop5.5やInDesign、GoLiveなどが寄与したと伝えられているが、リストラの甲斐という要素もあるだろう。しかしこの裏ではライセンスビジネスは4分の3ほどに縮んでおり、これはPostScriptにとっては暗雲である。

AdobeはXMLをPDFにいつ入れるのかとか、FrameMakerをどうする気だと質問されても黙っている。世間を騒がせているXML系の話をアドバルーンにすれば株価はもっと上がるはずである。敢えてそういった見せ掛けをしないのは、本当にじっくり準備しているからではないかと、ファンの一人として希望的に捉えてしまう。最近JohnWarnock自身が壇上でしゃべることが減ってしまったが、口を滑らすといけないということがあるのではないかと思う。

今はなにはともあれPDFで攻めるのが第1という印象である。キーノートの聴講ではAdobe特別席にいるJohnWarnockの斜め後ろに座って御大を観察させていただいた。QuarkのTimGillの話などはあまり気にしていない様子であった。eBook関連の話がされていた時には何やら社内の人と小声で話していた。この話が終わったら一団の取り巻き連中とともにさっさと消えてしまった。

AdobeInDesignが発売になったのだが、ページレイアウトの話はそれほど人が熱中するものではなくなったことは事実である。InDesignについては一般には好評だが取り組みは慎重である。当然バージョン1.0には警戒がつきもので、人柱になることを敬遠する人は多い。すでにInDesignのプラグインの取り組みを手がけるところは多いが、小物ばかり目に付く。従来と異なるモジュール構造というものに当惑しているようである。つまりQuarkのXTentionを書き換えて対応するわけには行かないようである。

ではなぜ敢えてとっつき難い構造にしたのか。これはオブジェクト指向のメリットの他に、InDesignはPostScriptの退潮を食い止める生命線として、この言語の強力な編集ツールとしての役割が与えられているからではないか? 通常のDTPと異なってAdobeの頑固さがうかがえる点として、PostScriptプリンタしか相手にしないことがある。InDesignはPostScriptかPDFしか出力しないのである。

インキジェットプリンタに出したければ、別途PressReadyというソフトRIP3+ICCカラーマネジメントのソフトを買わなければならない。これはDTPソフトとして安いことを相殺してしまうが、PostScriptなしでもグラフィクアーツができると、過去築いたものが瓦解する危機感がこうしたのであろう。

AdobeはPostScriptを守るためにいろいろな手を打ってきた。OpentypeでMicrosoftと協調し、Acrobat4.0でも良い関係を保った。しかしeBookではPDFに対してMicrosoftReaderが出てくるし、PostScript/PDFに対しては、MicrosoftとHPがIIPを提案し、インターネットにつながったプリンタにデスクトップからリモートで出力できるように準備している。AdobeとMicrosoftの協調ときしみの微妙なバランスの中で、PostScript/PDFの要がInDesignになるのだろう。

XMLで先を行くQuark

SeyboldSFではDTPの話はほとんど出ないほど、紙の出版側にとって急な課題はWEB対応である。その中で具体的にはXMLとAssetManagementが頻繁に出てくるテーマとなっている。この理由は、デジタル化ネットワーク化によって出版の概念が変わりつつあるからである。紙の出版でも月刊、週刊、日刊などの情報更新サイクルがあるが、WEB版の売買誌では成約した中古車や住宅は表示しないように常時更新する必要がある。つまりコンテンツが変更されたなら同期して動くような出版形態が出てきた。

これは紙の情報誌をしているところにとってはハードルが高く、そこにQuarkは活路を見出そうとしているようだ。つまり最初からデータベースを中心としたシステムを作って、紙の出版もそこから原稿を取り出して作るような、従来の出版制作と逆の流れに挑戦できないところが多いと見たのであろう。TimGillは出版社に負担をかけないですぐ使える方法としてquark.avenueを紹介していた。

操作はレイアウト済みのQuarkテキストボックスから、XML用のダイアログに非常に単純なdrug&dropでXMLファイルができあがる。来春出荷予定で価格は99ドルから199ドルの間になり、その後来年の(?)Xpress5.0からは標準でついてくる機能となるという。QuarkはVignettのStoryServerと提携していて、そのダイナミックWEBサーバでの利用をデモしたが書き出したXMLを扱うのは何であってもよい。

XMLブラウザはIE5.0がタダで手に入るし、大半の出版制作に使われているQuarkがXML対応すると、PDF化のようにXMLもオマケのサービスになろう。しかしダイナミックWEBの仕組みを作ってコンテンツを自動的にハンドリングするハードルはDTP化とは比較にならない。出版社の技術力はやはり低いらしく、一般企業で使っているようなフリーウェア系はなぜか話題にならない。

出版技術はサーバへ向かっているので、それを容易にするミドルウェアが多く出始めている。QuarkがタイアップしたVignettのSrotyServerはその代表格だが、MicrosoftのIIS/SiteServerをベースにしたもの、またInterwovenのTeamSite、新興VersifiのvBusinessManagerなどが話題であった。AdobeもGoLiveを買収してWebPublishingSystemを出すのではといわれていたが出なかった。このようにWEB出版が様変わりしつつあるのに、PDFは今だXML対応なしというのは、少しちぐはぐな気もする。

勇み足のDAM(DigitalAssetManagement)

非常に多くの雑多なAssetManagementのシステムが出ている。コンテントマネージメントという言いかたもある。しかしそれらはたいていどこかの新聞社や雑誌社用に作ったシステムを汎用化して売ろうというもので、コンセプトも異なっておれば、データの互換性にも欠ける。これからは閉じたデータベースではなく通信でのやり取りが必須であり、メタデータの持ち方も互換性が考慮されなければならない。そこはXMLは鍵になると思われる。

あるセッションで、仮想のユーザプロフィールを作っていくつかのベンダーにDAMの提案をしてもらう試みがあった。ちゃんと準備がされていたし着想は面白いが、結果的にはうまくまとまらなかった。今回AssetManagementのセッションは多いが、どうも焦点が絞れていない。あるときはワークフローの問題として、またあるときはWEB対応として、その他校正、アーカイブやXML書き出しの話など、バラバラの視点からみたDAMの話の羅列であり、もっと大きな枠組みの議論が必要だと思う。

ひるがえって考えてみるとDAMは特別なものか? カテゴライズする意味は? という疑問もわく。デジタルアセッツを管理する構造をきちっと作った専用システムのようなものを導入するよりも、単なるOSのファイル管理およびそのユーティリティと、XMLによるメタ情報と市販DBだけでも使えてしまうのかもしれない。例えば新聞社同士なら共通性があっても、アセッツ管理の定義そのものが企業ごとに異なってもよいはずである。

また他のコンピュータシステムと同様にDAMは成長するだろう。どんなファイルが必要か、必須か、履歴データはどれだけ詳しく持つか、バックアップはどうする、中間ファイルは捨てるか保存するか、などは簡単には決められない。今後も新しいフォーマットやアプリは登場するだろうし、PDFでもバージョンの違いは今後もあるだろう。メタ情報も成長するだろう。

だから今アセッツ管理とは何かを決め付けてしまうよりも、管理にまつわる今日的課題を話し合う方が先だろう。DAMを売る側に立った見方ではなく、DAMのトータルなコンセプトを出版側、印刷側、ベンダ側が共有できるところがでてくるかどうかが問題であって、どうせ共有できない話は個別のソリューションでするしかないのである。

(小笠原 治) 21世紀の出版は見えたか?

1999/10/08 00:00:00


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