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ITの大波に揺れる、DTP丸

DTPはいつまでたっても未完成だと思う人もいるだろうが、大方の人はDTPの機能がある程度完成すればデジタル技術は一段落だと考えていた。すでにDTPは、印刷物制作に必要な要件としての書体や組版などの基本的なところを問題にする時代は終わり、アプリケーションのバージョンアップ間隔も緩んできたが、技術が一段落の日はまだ来そうにない。なぜなら発注者のおかれる環境がITで大きく変わりつつあるからだ。

かといってDTPからマルチメディアやオンデマンド印刷のビジネスへと手を広げようとしても、いい顧客が見つけられないとか、手をかける割りにはリターンが少ないと感じて足踏みをしているところも多い。これは新ビジネスを性急に求めすぎたからで、もっと自分の足元と顧客の足元を捉えて、そこにおけるDTPに関連するITの新たな環境への適合を考えなければならない。

今の仕事の解決を求めても、ほとんどは使っているアプリケーションに左右される問題で、自分では考えようのないことだらけである。細かい問題はこれからまだ次々に出てくるであろう。埒があかない問題に悩んでいる間に、方向の選択を大きく誤る事のないように、一歩先の技術動向を押えておきたい。一歩先とは、DTPがその印刷物を必要とする業務の処理システムと統合されていく段階である。ちょうど写植や製版が統合されてDTPになったように、次にDTPはネットワークによってビジネスのITシステムの中に組み込まれていこうとしている。

これにあわせてOSやフォントからアプリケーションまで,DTPの要素はIT環境で効率や能力を発揮するように見直しが始まっている。PAGE2002「テクノロジー」トラックは,他のトラックのように3つのセッションがそれぞれ関連しているわけではない。しかしDTPの制作に携わる人のニーズというよりも、DTPが外部のITの大波に突き動かされて起こるテーマに着目しなければならないのであり、その中で今動きのあるものをとりあげた。

L1「OpenType時代の文字」

DTPのフォントは,PostScriptフォントとTrueTypeフォントの並存があり,またCIDへの移行があり,さらにOpenTypeというフォントフォーマットが現れた。OpenTypeフォーマットは,従来のフォントフォーマットに比べて多くの情報をフォントに持たせることができるのが特徴で,プリンタフォントが不要とか圧縮率が高いなどの点も強調されているが,もっとも注目されているのは異体字も含めた字種の増加である。
いったいどのような字種をどのように使えるようになるのだろうか? また,今後,ユーザはフォントフォーマットをどのように考えればよいのだろうか? Mac OS XでOpenTypeフォントが搭載されたが,これをどのように捉えればよいのだろうか?

セッションでは,フォントフォーマットとしてのOpenTypeの位置付けを確認したうえで,とくに字種の増加について,関連メーカー/ベンダーの字種選定の考え方や今後の対応についてうかがう。また,今後どのような環境整備が必要なのか,あるいはユーザ側でどのように運用すればよいかを考える。
セッションはパネルディスカッション形式で行い,ユーザニーズという観点を中心に据えるが,OpenTypeフォントはまだ今すぐみんなが自由に使えるという状況ではない。これから時間をかけて各フォントベンダーの対応と入力ツールや出力周りの環境整備が徐々に行なわれ,そのうえでユーザが移行することになるのだろう。
したがって,今すぐ使うということより,そもそも,それぞれどういうニーズを想定して字種を選定しているのか。また,外字や異体字についてどう考えているのか。あるいは今後どのような環境整備が必要かなどについて,いわばOpenTypeフォントへの移行のロードマップを描くつもりで議論したいと考えている。各グリフセットの文字単位の同異などあまり詳細な議論には立ち入らず,大きな方向性が見えるセッションにしたい。

パネラーは,
アップル CJKテクノロジー インターナショナルテキストグループ 木田泰夫氏
大日本スクリーン製造(株) メディアテクノロジー事業本部 IT事業部IT技術部ページネーション課 豊泉昌行氏
アドビシステムズ(株) エンジニアリング 日本語タイポグラフィマネージャー 山本太郎氏
(株)モリサワ 営業二部 部長 中村信昭氏
の4氏である。それぞれAPGS(アップル・パブリッシング・グリフセット),ヒラギノOpenType,Adobe-Japan1-XとOpenTypeフォント,そしてモリサワ書体のOpenType対応を軸に議論していただくつもりである。

L2「オンデマンド対応のシステム構築」

ここでいう「オンデマンド」とは,プリントオンデマンドという狭い意味ではなく,顧客や現場のニーズにどのように素早く的確に応じればよいか,そのためのシステムをどう構築すればよいかという視点を含めてのことである。

印刷会社はどうしても印刷物としての品質を重視しがちである。しかし,コンピュータ化とネットワーク化の進展に応じて企業が内製化を進め,コンテンツ制作と事業戦略を連携するようになると,印刷物としての品質とは別の付加価値が要求されるようになる。たとえば保険証書などの個別対応しかり,ちらしの効果測定しかり,あるいはメーカーの製品マニュアルなどの制作・配信・印刷もそうした範疇に考えてよいだろう。
このセッションでは,企業側の印刷物制作の考え方や事例をうかがいながら,オンデマンドという考え方がどのような変化をもたらすのか,どのような技術が必要なのかを考える。

モデレータは(株)プラネットコンピュータ 代表取締役 深澤秀通氏。氏には,セッションの司会進行と合わせて,保険会社など同社が手がけた事例も合わせてご紹介いただく。
方正 商業システム事業部 事業部長 芦野雄一氏からは,同社の製品のうち,ちらしの効果測定などについて,事例もまじえてお話しいただく。
また,横河グラフィックアーツ デジタルコンテンツ事業部 事業部長 永山嘉昭氏には,同社が進めてきた文書の電子化/標準化プロジェクトであるCyberdocの概要をお話しいただき,グローバルに展開する企業がなにを考えて,なにを必要としているのかをうかがう。

L3「クロスメディア」

WEBがビジネスの中で定着し,印刷メディアと同様に制作期間やコスト削減の努力が求められる,同一コンテンツを使っての印刷とWEBの統合処理が課題になる。
そのためのシステム開発やツールの利用の実態と、次にどのような姿になろうとしているかを探る。

モデレータの(株)ディジタルメディアシステム 代表取締役社長 江本博治氏には,印刷とWEBのマルチユースをいかに効率良く行えばいいのか,製品ポリシーや使われ方,実績を見ながら,勝ち組と負け組は何だったのかについてまとめていただいて,セッションの司会進行をしていただく。

(株)シュピンネン・ギルド代表取締役 折井宏氏には,現状の問題点と課題も踏まえながら,印刷とWEBの統合処理の身近な事例を2つ(SI事例とオーダー事例)お話いただく。具体的なWEBソリューションとその効果,費用対効果も紹介する。

(株)Too 販売促進部 ゼネラルマネージャー 草加健児氏には,将来のクロスメディアパブリッシングツールとも言える「XMPIE」というツールをご紹介いただく。「XMPIE」は,様々なメディアに対し,プラグインを通じて情報を発信する新しい仕組みである。「XMPIE」については,XMPIE Ltd.(イスラエル本社)のJacob Aizikowitz氏にお越しいただき,具体的なデモ(通訳あり)が行われる。

※XMPIE社講演内容と,Jacob Aizikowitz氏については,こちらをご参照下さい。

21世紀を迎えたIT維新の中,単なる利便性やデジタル化による作業の簡便性を「クロスメディア」と言われる用語に求めるだけではもったいない。今の時代は,ユニクロの成功例を見るように,ユーザーのニーズに直結するかのごとくハイスピードによる対応が,企業の生き残りを左右している。
「クロスメディア」とは,単なる「コンテンツ」×(制作過程+流用)=同期効果 ではなく,需要=メディア=供給 の構図も,クロスメディアの利点にあり,将来はブロードバンド活用の救世主となりうるかもしれない。

2002/01/21 00:00:00


公益社団法人日本印刷技術協会