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ソフト・ハードの投資需要に見あわない金融界

塚田益男 プロフィール

2002/2/28

カオスの中の印刷経営(T)その3 (その1はココ その2はココ )

3)直接金融の矛盾

間接金融という長い間の金融界の常識、固定観念の時代は終った。本来、銀行はリスクを伴うローンをしてはならないものだ。それなのに中小企業やゴルフ場をはじめ、土地がからめば多くの大企業にも土地を担保にして無条件に貸出しをした。土地さえあれば事業のリスクなど問題にしなかった。中小印刷会社でも会社の収益に関係なく、土地担保が可能なら長期資金を銀行からいつでも調達できた。それが土地本位制資本主義という間接金融のパラダイムだった。ところが、1991年以降バブルがはじけ土地が値下りをはじめ、担保にならなくなると、とたんに不良債権の山ができ、間接金融のパラダイムも崩壊した。

銀行経営は沢山の不良債権を抱え、償却と引当て積立てを行っていけば自己資金は不足し、資本準備金も取崩さざる得なくなった。国家の公的資金投入やブリッジバンク化も視野に入れざるを得ない。また、そうしなければペイオフのリスクも克服できないだろう。いよいよ金融界の外科手術がはじまろうとしている。

金融界のパラダイムは完全に間接金融から直接金融の時代にシフトしようとしている。それでは直接金融はうまく機能しているのだろうか。企業にとって直接金融の手段は増資、社債発行、利益留保しか道がないと私は述べてきた。今日のような時代は株式市場も冷えているし、不信感とリスクが一杯の経済界だから、増資や社債発行もできないし、利益の留保金もなくなってしまった。その上、地価や株価の下落で含み資産の価値も小さくなった。まして中小企業の経営にとっては直接金融の道は閉じてしまった。

金融界の信用供与の規模が小さくなってしまった。銀行は貸出しより貸出しの引上げの方に熱心だ。従って貸出し残高は前年比マイナスになる。そうなればキャッシュ・フローは中小企業も大企業も次第に苦しくなる。過大な借入金に苦しむ企業にとっては、最後の金融手段は資産を売却することだ。この不況の最中に所有する株式を売却したり、土地・建物を売却すれば、みすみす損をするのは分っているが、背に腹は代えられないという所だ。ただでさえマーケットが小さくなり、経済全体が縮小しているのだから、どこの会社にも遊休資産はあるし、まして赤字操業の事業所も多いのだから、キャッシュフローが窮屈になれば資産売却をするのは当り前だ。すなわちキャッシュフローが行詰まれば倒産しか道はないし、銀行が頼りにならないとなれば資産売却しか道はない。そうした投げ売りのビルやゴルフ場を米国を中心に各国のフローティング・マネーが買漁っている。日本はどうなるのだと思わざるを得ない。資産の投げ売りでもキャッシュフローに余裕ができれば良いが、結局は倒産という道を歩くことになる。

利益があるということは信用の第一前提であるが、倒産の場合は利益よりキャッシュフローの行詰まりが原因になる。こういう時代には直接金融は機能しないと考えるべきだから、印刷会社の経営者は下手な設備競争に没入するのではなく、キャッシュフローの強化に努めるべきだろう。直接金融の時代になるといいながら、直接金融のパラダイムは機能しない。正にカオスに入った金融界というべきだ。

私募債発行のマーケットがない、ベンチャーキャピタルのマーケットがない。それでいて民間の貯蓄額は1400兆円を超えているという。日本経済に活力がないのは消費も投資も金縛りにあったようで動きがとれないからだ。印刷界はCTP、DI、デジタルプリンター、マルチメディア対応などデータ処理の技術環境、マーケット環境が急速に進行している。出力設備だけでなく、データ作成のためのコンピュータに関するソフト、ハード両面の資金需要は絶え間なく続いている。直接金融の道が開けない中で、中小印刷界は資金面からも経営の自由度を奪われていくようだ。

2002/02/28 00:00:00


公益社団法人日本印刷技術協会