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印刷を超えて、ハイタッチを競う、近未来デバイス

PAGE88としてスタートして以来15年経た今日では、印刷業界の内部はデジタル化で様変わりしたが、それ以上に近年のメディアビジネスは大きく変化している。15年前は不特定多数に向けた情報発信手段は印刷とラジオ・テレビにほぼ限られていて、しかもラジオ・テレビは小さいビジネスには向かず、小回りが利くものは印刷しかなかった。ところが、電話での情報サービス、パソコン通信、eメール、WEB、iモードなど、次々と新たな情報手段が登場し、それらは個々に離れて存在するのではなく、一つのコンテンツが変幻自在に姿を変えて身の回りに現れるようになったのである。

印刷メディアしかなかった時代から、多メディア複合利用の時代に入ったのである。ではこれからのメディアビジネスにはどんな変化が予測できるのか? そこでPAGE2002基調講演では、これから大きく展開していく考えられている、電子ペーパー、モバイル(ユビキタスコンピューティング+ネット)、バーチャルリアリティなどの、新メディアを開発している方々はどう考えているのかをとりあげた。

最初に富士ゼロックス(株)の小清水実氏は、ここ数年で一挙に盛り上がってきた電子ペーパーの開発の位置づけを話した。印刷・情報用紙の出荷はPCの出荷と相関して伸び続けてきたが、その伸び以上にネットの情報は凄まじく伸びており、紙メディアは相対的には相当減ってしまった。ここではディスプレイから受ける情報が増えたことと、伝達プロセスの鍵は情報発信者側から受信者側に移行している。受信者側では紙文書の寿命は24%が1日以内で、1ヶ月以内の寿命は80%になる。ここでは紙は保存媒体ではなく、一時的な利用である。だからそれに代わる、紙のように使える電子メディアが必要になる。

小清水氏らは、CRT、LCD、紙、電子ペーパーの評価実験を行った結果、手に持てて、複数ページ表示、紙よりも剛性で、ラフに扱えるものが開発目標であるとした。現在さまざまな開発が行われているが、大きく分けると紙からと、ディスプレイからの2つのアプローチがあるという。ちなみにXeroxは両領域にまたがる3種の電子ペーパーを開発中である。利用の想定もいろいろ話があったが、数年すれば環境意識の高まりから、書き換えられる紙として使われそうだと見ておられる。

(株)東芝 iバリュークリエーションの河田勉氏は、東芝ワープロJW-10の「かな漢字変換」の開発者で、当時誰もわからなかった日本語のタイピングや画面で文字を読む作業の普及可能性を、綿密な実験の結果からつかんでJW-10を世に出した。当時の紙の上での作業を中心にした文書処理の先入観を排して、ヒューマンファクタを尊重することの重要さを話した。現在はネット上のサービスである「駅前探検倶楽部」「ニューズウォッチ」その他、印刷コンテンツのインタラクティブ化など、従来メディアではできないことを次々に手がけておられる。

「駅前探検倶楽部」では、時刻表と連動した目的地までの乗り換え案内があり、事故、遅延などの運行情報もリアルタイムで提供される。また地図付きの駅前周辺道案内があり、道順、所用時間なども表示される。ケイタイで地図を見易くするための特許もあるという。iモードでは毎月100円で50万人の利用者がいる。WEB版の利用は無料だが広告がつくが、実は昨今はバナー広告が少なくなった。一方で広告を入れた紙のタウン情報雑誌も作って大ターミナルで無料配布している。雑誌を見てからモバイルを使うという筋書きで、印刷物とモバイルのリアルタイム性を組み合わせたマーケティングはいろいろありえる。今後もチラシ・クーポンなどでもモバイルを使ったソリューションを考えておられる。

キヤノン(株)の田村秀行氏は、デジタル映像がリアルタイム処理の壁をこえ、次にデジタル通信がパッケージ系とのコストのクロスポイントを超えようとしていて、その中で映像技術体系の変化があるという話をした。以前は入力・媒体・出力はそれぞれ対応したバーチカルなモデルがあったが、デジタルで情報加工の制約がなくなり、コンピュータのシミュレーションが3Dのワイヤーフレームになったように、情報モデルと情報加工が先に進んだ。次にそこからいくつもの出力ができるようになり、最後に入力側の研究開発がある。

情報加工をする印刷の人も、大量のコンテンツを取り込む技術に関心をもつであろうと考えておられる。すでに使われているものにはWEBで使えるライブカメラがある。これらはイントラネットでの利用が多くある。また研究中のCybercityWalkerでは、自動車に8台のTVカメラ+GPS+ジャイロをつけて、町を走って情景を記録し、それをコンピュータで処理して自由に走り回れるCybercityを作っている。これらの応用はいろいろあり、すでに決まった視点からの景観シミュレーションはできるが、HMDをつけたウェアラブルなコンピュータで実際に街に出て、実際の光景に仮想空間を重ねるような応用は、まだハードウェアの進歩を待たなければならない。

以上の3分野はそれぞれ意味合いの異なるものであるが、メディアとしてのコンピュータが従来とは異なる段階にきていることを示している。過去は単にコンピュータに「文字や絵が出ています」というだけで、従来の印刷やTVの方がマシだという基本充足の段階であったが、WEBであってもその段階は超えつつある。技術的な一断面で従来メディアより優れていればよいのではなくて、ヒューマンインタフェースおよび利用特性のトータルな評価で従来のメディアよりもどう優れているかを競う高度充足の段階に入っている。

日本語ワープロの開発にあたっては、XeroxPARCの研究報告のやり方に触発されたという話があったが、非常に開発費のかかる分野は評価実験などデータの積み重ねによって進歩を遂げており、ハードウェアが廉価量産できる期が熟すと一気にブレイクするような傾向がある。その基盤となる研究として小清水氏は「人間とメディアに関する研究」を挙げておられたが、実は紙の世界に限ってもその辺はまだ十分に捉えていない。紙メディアの生き残りを考える人は、紙が優位な領域を実証する必要があるのだなと、改めて考えさせられた。

2002/02/07 00:00:00


公益社団法人日本印刷技術協会