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コンテンツを活かす技術の開発に向けて

印刷・出版の人はコンテンツを作る視点に偏って技術を考えがちであるが、今日重要なのはコンテンツを使う側の立場で技術を考えることである。出版物の少なかった時代は円本のように「良いものを安く提供しているのだから、みんな有難がって読め!」というようなトップダウンの商売が成り立ったが、このコンテンツ爆発時代においては、顧客満足の視点での見直しが必要である。それは、自分の欲しいものに到達できるメカニズムの提供である。

元来、図書館とか、本屋の立ち読み自由、というのも自分の欲しいものを探す場という性質をもっていて、出版ビジネスを支えた。これがデジタル時代になると、ネットワーク上を多様なデータが交錯する中での「見つける機能」をIT&ネットワークで実現しなければならない。くどいようだが情報ビジネスはコンテンツの量ではなくて、必要な情報に簡単に出会える場が勝負になるのである。PAGE2002の2月8日のセッション「コンテンツとメタデータ」は、学術雑誌やTVのコンテンツなどの利用面からと、W3CのWEBの拡張という技術面からこの問題を考える面白い機会であった。

モデレータの国立情報学研究所の根岸正光教授は、小部数発行の学術雑誌の電子ジャーナル化の急速な進展と、ネット上の情報流通の利便性について話した。学術雑誌は研究者が読者でも著者でもあり、また査読者・編集者を兼ねることから、論文発表の競争が居ながらに全てできる電子ジャーナルが迅速処理に向いていることと、論文間の引用関係が密にできる新たなメリットがあり、インターネット万能主義の傾向かみられるという。しかし電子情報の保存性の不安、研究評価の権威づけという点では従来の紙の冊子も必要で、両方が並存する時代である。

しかし紙のジャーナルは落ち込みが激しく、そこからも電子ジャーナル化でカバーしようということになる。その中で学会の連合出版化、商業出版の価格高騰とそれに対抗する反商業主義運動などがあり、一方図書館はネットワーク情報資源のアクセス窓口機能を目指している。図書館はもともと書誌情報を整備してきたが、それをメタデータ化(DublinCoreなど)して目録サービスやポータル化に向かい、図書館間やポータル間のメタデータ共有とか標準化の課題がある。投稿と参照という情報循環の仕組みは出来上がりつつあるが、中小規模の出版経営は一層難しくなり、メタデータ・データベースなどによる連合化が必要になりそうな雰囲気であった。

NTT研究所の川森雅仁氏は、TV Anytimeという, TVにHDDがついていて放送やインターネットから、見たいときに見たい番組をみる仕組みの例で、メタデータ管理の動向を説明した。具体的には、番組識別のコンテンツID、編成制御などの番組情報、著作権関連や課金の管理、蓄積制御情報などがメタデータである。ここにはさまざまなメタデータ標準が絡んでおり、全体はXMLを使っているが、画像や音声をテキストで検索するためのMPEG-7、2002年完成予定のネットワークコンテンツ流通のMPEG-21、XMLベースの権利表現言語XrML、などがどのように組み合わされて、放送だけでなく、許諾された学生が講義資料ビデオを見る、など実用に向けての例えも話された。

W3Cの活動をしている慶應義塾大学のMartin J. Durst氏は、WWWの開発者であるTim Berners-Lee氏が提唱するSemanticWebという、WEBでメタデータを扱う考えと仕組みの話をした。WEBでは本と違って、短い文書がお互いつながっていて、表現が自由で、URIで直接識別できる。またデータベースと違って、少量で柔軟な構造でURIでつながる。ここではメタデータで検索がフィットしやすくなるとか、子供に見せないPICSのような情報の排除機能、プライバシーを守るP3Pなどメタデータを自動的に扱う必要性がでてきている。

SemanticWebは今日のWEB技術の拡張としてXMLベースで順次開発されるもので、現段階でRDF(Resource Description Framework)を使ってWEBページにメタデータが付加できるようになり、語彙くらいまで開発されていて、今後徐々に推測、証明、信頼というものの機械処理に向かう。小さい応用を積み重ねることが重要であると言った。ブラウザもXMLに対応しているので、いろんなメタデータを合わせて扱う新たな応用が出てくるのだろう。

最近はiモードやCG映画以外は大きな変化がないように思う人もいるが、意外と時代は速く動いている。ブロードバンド・常時接続時代に入ろうとしている今、情報検索の効率化や不要情報排除のニーズが高まると共に、メタデータを扱う仕組みは急テンポで進みつつある。それとともに必要な情報だけを売るという難しいビジネス課題も起こる。コンテンツを作る技術が主導の時代から、コンテンツを使う技術が主導の時代へとシフトしていることがわかる。

2002/02/15 00:00:00


公益社団法人日本印刷技術協会