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情熱を持ってXML文書の標準化を

HTMLとSGMLのメリットを取り入れたXMLの出現は,ドキュメント関連だけでなく,情報処理関連のあらゆる分野の関係者にインターネットをより高度に活用する道を提供した。
産業界では,IT(Information Technology:情報技術)をベースとした企業間ビジネスの推進,業務プロセスの標準化や自動化,異機種情報システム間のデータ交換など,XMLをベースにした情報システム構築や各分野で使用されるボキャブラリーの開発が進められている。
グラフィックアーツ分野でもワンソースマルチユースや自動編集等の制作面以外に,ネットワーク時代に対応した受発注から納品までのワークフローやクライアントのサプライチェーンマネージメントへの対応などもある。

また,e-Japan計画に基づき2003年の電子政府実現に向けた官公庁や自治体の電子申請や電子調達,2000年12月にデジタル放送が開始された放送業界,iモードに代表される通信業界,世界的規模でニュース配信を行っている通信社や新聞業界など,あらゆる分野でXMLの利用が広がり,XMLは情報交換や情報活用等における汎用のインターフェースの地位を確立した。
XMLは単なるブームではなく要素技術から利用技術へとステップアップし,その応用範囲をさらに広げようとしている。そのためには,まだまだ解決しなければならない課題が数多く存在する。

このようなことから,PAGE2002コンファレンスXMLトラックでは,「標準化動向」「XMLツール」「XMLデータベース」の3つに焦点を当てたセッションを行った。これらのセッションの概要を報告する。

「標準化動向」セッション

モデレータの株式会社イー・ブリッジ 取締役 コンサルティング本部長 岡部惠造氏は,標準化の必要性と最近の標準化例について語った。
XMLの標準化活動には(1)W3Cを中心に進められているXML要素技術の標準,(2)インターネット・ホリゾンタル標準(特定の業界に依存しないインターネット活用のためのXML標準),(3)産業界のバーチカル標準(各業界でのビジネスイノベーション構築活動)がある。
(3)では文書ボキャブラリ,文書構造,スタイルシート,交換プロセスやプロトコル類など,交換・共有・利用されるデータのセマンティクス(意味情報)に関連した多くのことを標準化する必要がある。ビジネスの効率化,顧客満足度,自動化処理など,明確な目的を達成するためにXML活用の標準化を進めることが重要で,XMLの使用は手段であり目的ではない。
このような意味で,ビジネスで重要な氏名,住所,電話番号等の連絡先情報の標準的な記述のためのXMLボキャブラリ「ContactXML」の開発状況が紹介された。(抜粋資料PDF形式390KB)

株式会社東京商工リサーチ 技術顧問 渡辺榮一氏は,「財務情報XML化の国際標準XBRL」のタイトルで,世界的に進められている財務諸表を中心としたビジネスレポートにXBRL(eXtensible Business Reporting Language)を応用する取り組み状況や日本での取り組み(XBRL Japanの標準化活動)等について紹介した。
この中で,XBRL Spec. 2.0へのXLinkの組み込みについて日本が大いに貢献したことや,日本における有価証券報告書タクソノミー草案公開(2001年9月),決算公告タクソノミー草案公開(2001年12月)などの活動についてふれた後,これらの活動を推進しているXBRL Japanに会計情報の作成者や情報を利用する金融機関などの参加を強く望んだ。

QR-XML普及協議会 事務局 鶴田知久氏は,「繊維業界のXML-EDI標準化」のタイトルで,繊維ファッション産業界の効率的なサプライチェーンを推進する情報流通プラットフォームの構築,そのコア技術である業界全体にわたるXML-EDI標準策定の背景・活動状況・標準化の内容等について紹介した。QRはQuick Responceの略で,原糸,生機,生地,製品,副資材の製造・販売・保管等に係わる川上から川下までのすべての業界が大同団結し,マーケットイン,企画から販売までの連携,情報システム技術の活用による短納期や流通・在庫コスト低減などによって国際競争力を向上させ,繊維業界の繁栄を図ることがねらいである。(抜粋資料PDF形式609KB)

岡部氏は,「どのように合理化し効率化を図るかを考え,IT技術によってコンピュータに任せられることはコンピュータに任せ,人はもっと知的なことに専念する必要がある。その目的達成のためには,コンピュータに任せられるようにXMLをベースとした標準化が必要である。欧米では,情熱を持った個人によってこれらの取り組みが進められているのに対して,日本では企業がベースとなっているために,どうしてもビジネスになるまで様子を見ると言うことになってしまう。各種の業界が,XBRL Japan やQR-XML普及協議会のように,積極的にこの課題解決のために取り組んで欲しい。」とセッションをまとめた。

「XMLツール」セッション

モデレータの有限会社トライデントシステム 代表取締役 鶴岡仁志氏は,XML技術が専門家が習得して使用する要素技術の時代から,多くのアプリケーションが対応し互いに連携して動く既成技術の時代になり,利用環境が確立しどのように使うかが重要となる利用技術の時代を迎えようとしていると前置きした後,WebDAV(Web-based Distributed Authoring and Versioning),XHTML(Extensible HyperText Markup Language),XSLT( XSL Transformations),XSL-FO(XSL Formatting Objects),アプリケーションサーバ,WebサービスなどのXML関連技術について解説した。
鶴岡氏は,これらの技術がこれからの印刷業やWebデザイナーのメインビジネスになる技術であるとした上で,マイクロソフトのOffice製品やIEなど身近なアプリケーションを使用したXMLベースの受発注・ドキュメント管理実験システムを紹介した。

XML共同開発センター大阪 部長 松田裕伸氏は,XMLドキュメントからの印刷物やWebコンテンツ制作について,学参問題集,小売流通業のWebカタログ,マニュアルなどを例にとり各種のツールを紹介した。

「XMLデータベース」セッション

モデレータのドコモ・システムズ株式会社 事業開拓室 XML推進プロジェクト主席技師 大野邦夫氏は,XML-DBをXMLによるQueryを使って一元的に照会されるDBと定義した上で,RDBやORDB等の既存DBとの差異は何か,トランザクション処理性能はRDBに匹敵し得るか,XML-DBは何に使えるか等のセッションでの検討課題を提起した。(抜粋資料PDF形式301KB)

毎日新聞社 総合メディア事業局 技術開発部副部長 小野寺尚樹氏は,SGML時代からSGMLを利用した新聞製作用記事の各種電子メディアへの利用や配信などのシステムを構築してきた。このシステムを,昨年からNewsMLを利用した電子メディア用記事の制作・蓄積・配信システムとして再構築している。その成果は,毎日新聞社のホームページで確認できる。
小野寺氏は,NewsMLの概要とこのシステムのキーとなるDBについて語った。システム再構築に際して,従来から使用していたファイルシステムの限界を認識し,RDBの利用,ファイルシステムとRDBの併用,XML対応オブジェクトDBの利用等の各種の方法を検討した。時々刻々と新しい情報が入稿され関連する記事とのリンク情報を更新しなければならないこと,常に最新の情報を取り出さねばならないことなど,ニュース記事管理の特性から,毎日新聞社では電子メディア用としてリビジョン管理,ステータス管理,リンク情報管理等が確実にかつ高速に出来ることを条件に,NewsMLを取り扱えるRDB方式とした。(抜粋資料PDF形式576KB)

株式会社ビーコンIT インターネット事業部 執行役員兼インターネット事業部長 戌亥稔氏は,XMLをネイティブに保持・管理するXMLインフォメーションサーバ「Tamino」の特徴と適用分野・利用事例を紹介した。この中で,4月から販売するXML Schema,XSLTなどのW3C標準規約やWebDAVサーバー機能等をサポートした「Tamino V3.1 日本語版」も紹介された。

株式会社メディアフュージョン XML企画営業グループ グループリーダー 佐々木惣一氏は,同社が開発したXMLにネイティブに対応した高速XMLデータベースエンジン「イグドラシル(Yggdrasill)」の特徴・利用事例・今後の開発予定等について紹介した。(抜粋資料PDF形式302KB)

TaminoもYggdrasillも,大野氏の定義ではXML-DBにあたるが,両社の説明ではどちらもリビジョン管理等の機能は搭載されておらず,常に最新の情報に置き換えられるとのことであり,毎日新聞社のようなシステム構築のためにはさらなる機能強化が望まれる。

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XMLトラックの3つのセッションを通じて,XMLをベースとしたシステムの再構築には,まだ多くの課題があり,その課題解決には待ちの姿勢ではなく,積極的に課題解決に取り組まなければ,ますます欧米との格差が広がるばかりであると感じた。ネットワーク社会のインフラ作りも重要であるが,そのインフラとコンピュータを利用した効率的なビジネスモデルや社会を形成するためには,交換・共有するデータやドキュメントを記述する言語の開発・標準化(ボキャブラリとその意味,データ型,文書構造の設計)も重要である。まさに車の両輪である。どちらか一方だけでは,うまく機能しない。

2002/02/24 00:00:00


公益社団法人日本印刷技術協会