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アタマとハートと汗によるアウトソーシング

印刷物制作工程がフルデジタルになって、文字と画像が統合的に扱えることはもとより、同じ素材をWEBや他のマルチメディアと共有したり、またそのデータが表現領域を離れてマーケティングや販売と関連するようにもなり、そういったデータの管理はデータベースを使い、管理すべき内容は知的財産権も業務上の秘密事項も含まれ、そのためにセキュリティを十分に考慮しなければならなくなるなど、「0と1」の世界は際限なく広がりをもつ。だから今まで個別に重複して行われていた業務がITで統合化し、迅速処理とコストダウンと信頼性向上がもたらされる(はず?な)ことになる。

しかしこのようなデジタルの「あれもこれも」を、あなたは全部やるつもりですか? 印刷会社もDTPのようなデジタル化とともにワンソース・マルチメディアとかオンデマンド印刷というビジョンを掲げたことがあったが、それは順調にはビジネス化しなかった。当時、大日本スクリーンはプロビジョンという拠点を作って、製版会社が他領域の会社と組んで新ビジネスに入るきっかけにしようとしたが、マルチメディアの全てを自社内処理しようという考えが多く、困難であったという話を聞いた。

デジタルなら何でもできる、という言い方ははなはだ無責任であり、やはり各社が自分の付加価値を出せるところにフォーカスしないと、本番のビジネスにはならない。ということで、それではどのようにフォーカスして新たなビジネスモデルを作っている例があるのかを、PAGE2002の「アウトソーシングセッション」ではとりあげた。その概要はアドダムのPAGE2002速報にも掲載されている。ここでは、このセッションを通じて感じたことを述べたい。

(株)アドダムは、その名の通り広告を巡るデジタルアセッツの管理(DAM)をする博報堂の子会社で、博報堂の広告制作やその外注と新聞や雑誌などのメディアに対する広告の配信を託されている。従来この分野はデジタルに弱い会社が数多く入り乱れて仕事をしているために、デジタル化による業務改革のメリットが表われ難かった。アドダムは広告が企画されてからメディアに載る前の「プリメディア」領域全域の業務をカバーすることで、自然に放置していては収束することがないデジタルフォーマットやワークフローの標準を確立し、デジタルのパフォーマンスを出す狙いだろう。
DAMというのは、さらにその先の仕事である。現在の広告制作の仕事がすべてデジタルではないが、アドダムは受けた仕事をデジタル化することでDAMの構築が同時にされていくようなシナリオである。広告制作、製版、出版の3業態がビジネスのデジタル化に関しては三すくみのような状態で、なかなか動き出すきっかけがなかったところに対して、ソリューションを提示したという格好である。

電通と富士ゼロックスの資本でできた(株)デジタルパレットは、当初は広告コンテンツつくりのパワーを出すところとしてのeマーケットプレイス構想と掲げたが、大量に仕事を動かしてECの中間マージンをとるビジネスではなく、外部の広告制作アウトソーサーを使ってもクオリティ管理ができることに意味があるとして、ネット上で制作が完結できるWEBからまず実際に業務をこなす体制を作った。
ECの盛り下がりの直前に自ら汗してビジネスの土台を作ったような感じである。アウトソーサーをいくら多く抱え、誰がどこで仕事をしようとも、またハード面はどこかに委託しようとも、顧客に対しては仕事のクオリティを高めていくことが最重要である。これは仕事の管理手法を整えることでの「量より質」という転換であるが、その先にコンテンツの管理とか当初の事業構想の実現が見え始めている。

第3番目のスピーカーの(株)ドキュメントエキスプレスは、レガシー文書をスキャニングしてPDF化するシステムを開発している(株)ハイパーギアが基となった、PDF化および電子倉庫の受託業務をする会社で、2ヶ月で125万枚をPDF化というような大量の処理を行っている。オフィス側からすると、キャビネット1本分の書類がCDで1〜2枚になる。しかもPDF文書はインターネット経由でタダでどこにでも送れる。しかし、最初から使うか使わないかわからないものを大量PDF化はできないこともあり、書類の現物を倉庫で預かって、必要が生じた時にPDF化してメールで送るという「電子倉庫」の業務が始まった。
一般オフィスからの仕事は大塚商会などを経由して集まっているが、自社で保管するのではなく、倉庫・アーカイブの専門業者と連携している。スキャニングの仕事も印刷会社と連携している。自らは検索代行とか運営管理が主な業務である。こういったいつどのように使うかわからない文書の管理方法は決まったものがあるわけではなく、クライアントと相談していろいろな運営方法を編み出している。これからは倉庫や運用も印刷会社に移管するようなことも始まるという。

この3つの業務はそれぞれ異なるテリトリーであるが、顧客の業務の一部分を顧客の求める品質で代行するアウトソーシングという方法の厳しさとか、奥の深さというのが滲み出ていたセッションであった。こういったアウトソーシングはネットワーク社会になって初めて実現したものではあるが、従来の設備投資を核にした下請けとか外注とは異なり、顧客の問題に対してソリューションを提示し、具体的にコンサルテーションをしながら、顧客と密着して共に業務を行うという努力がないと成り立たないことがわかる。

2002/02/19 00:00:00


公益社団法人日本印刷技術協会