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電子政府の実現

政府は「e-Japan2002プログラム」を掲げ,電子政府・電子自治体の着実な推進のために,IT技術を駆使した申請等の電子化や,行政情報の電子的提供,政府調達の電子化等を行うと発表した。しかし,省庁や自治体によって取組みには温度差があり,電子政府の実現には,未だ課題も多い。
 通信&メディア研究会ミーティングにおける(株)日立総合計画研究所 白井均氏の講演より,電子政府の実現について紹介する。

電子政府の現在

 日本の電子政府への取組みが本格的に始まったのは,1999年。アメリカは1993年,シンガポールは1995年,英国は1997年,韓国は1998年から取組みがされている。日本はスタート時点で,世界にやや遅れをとった。日本はインフラを重視する国であり,まずインフラが完成されないと・・・という考え方が他の国と比べると強い。

利用者重視の方向に進む各国の電子政府

 アメリカでは,「行政の情報資産は,まず納税者のもの」という考え方が大前提である。つまり,行政の情報は,最も利用されやすい形で国民に提供されるべきである,と考えられている。国民や企業をカスタマーとして見る考え方であり,カスタマーをセグメント分けして,最も適切なサービスが提供されている。

 連邦政府の全ての情報・行政サービスへの統合的窓口サイトの First GOV(URL:http://www.firstgov.gov/),補助金情報・手続きへの窓口サイトの Federal Common(URL:http://www.cfda.gov/federalcommons/),調達情報・手続きへの窓口サイトの FedBizOpps(URL:http://www.fedbizopps.gov/),学生向けポータルサイトの studens.gov(URL:http://www.students.gov/)がある。
他にも,障害者の生活をサポートする情報を提供するサイトや,高齢者のためのサイト,企業支援サイトなどもある。このように,アメリカでは,カスタマーごとにまとめて情報を提供する形をとっている。

 このようなアメリカ方式を更に進めようとする動きも近年見られる。例えば,「障害者」と一括りにされても,目が不自由な方もいれば,足が不自由な方もいる。「障害者」「高齢者」「学生」と一括りには出来ないのである。電子政府の構築が進展したアメリカでは、一般の国民は,これらのセグメント化されたポータルサイトに必ずしも満足していない。結局,行きつくところは,「One to Oneの行政サービス」という意見が強まっている。しかし,こうなるとプライバシーの問題も絡み,便利なサービスと余計なお世話は,紙一重だったりする。

 これに対し,シンガポールでは,「ライフイベント方式」を採用している。つまり,「ゆりかごから墓場まで」という考え方である。出生届〜婚姻届〜死亡届まで,全ての各種行政手続きを電子化している。

日本の電子政府とこれから

 日本が構築を進めている霞が関WAN、総合行政ネットワークなどのインフラは世界的にも第一級のものとして評価が高い。しかし,より重要なことは,「インフラを使って何ができるか」ということである。電子政府を作ることにより,どういう経済効果が上がるかを考えることが,第一に重要である。

 電子政府実現に向けた環境整備としては,霞ヶ関WANの整備,総合行政ネットワーク(LGWAN)の整備,住民基本台帳ネットワークの整備の3つが掲げられている。
 霞ヶ関WANとは,中央省庁を全てネットワークでつなぐものである。一方LG(Local Government)WANは,全国3300の自治体を全てネットワークでつなげるものである。最終的には,霞ヶ関WANとLG WANをつなぎ,一大ネットワークが完成される。これは,2003年以降の予定である。

現在の日本が進もうとしている国の基本的な方向性の中で,この巨大なインフラをどう活かすか?ということが,今後問われてくる重要な課題である。この一大ネットワークは,使い方を誤ると,今まで以上に行政の中央集権化が進んでしまう危険性もないわけではない。

 住民基本台帳ネットワークは,霞ヶ関WANやLG WANからは,一線を引いたものである。平成11年8月12日に,住民基本台帳法改正案が成立した。居住関係を公証する住民基本台帳のネットワーク化を図り,4情報(氏名,住所,性別,生年月日)と住民票コード(11桁)などにより,全国共通の本人確認ができる仕組みが構築されることになった。これにより,住民基本台帳事務が大幅に効率化されることになる。

 電子申請は,2005年度までに,一部例外を除き,インターネット経由になる予定である。電子調達は,公共事業関係省庁において,公共事業CALS/ECの整備が進められているが,もう少し時間がかかるだろう。電子納税は,申告所得税,法人税,消費税の3税項目が電子化できるように試みられている。

 電子政府はあくまで,利用者の視点に立ち,オープンで透明性の高いものであることが重要だ。また,プライバシーの保護,セキュリティの確保などの課題もまだまだ多い。これらの課題は,先進国であるアメリカでも抱えている問題であり,紙上のものと違い,どうやってそれが「本物」と証明するか,ということも,今後の電子政府の実現に向けて解決しなければならない課題である。

電子政府研究に関するお問い合わせ先
(株)日立総合計画研究所
URL:http://www.hitachi-hri.com
TEL:03-5295-5315

■出典:JAGAT Info3月号

2002/03/18 00:00:00


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