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次世代ワークフローシステムで問われる管理システム

デジタル化による工程の統合が進み,プリプレスから印刷機までネットワークを介して,双方向で情報が行き交う姿が思い描けるようになってきた。ワークフローという言葉が盛んに使われているように,個々の機器の機能向上や自動化よりも,プロセスとプロセスをいかにミスやロスなく結んでいくかが焦点となりつつある。

縦横に広がりをもつJDF
デジタルデータとネットワークを前提に,ワークフローの自動化を考えた時に,まず必要となるのが,メーカーを問わないオープンな環境で作業指示情報などをやり取りできる標準フォーマットである。
始めに,工程間の情報交換のための標準,規格を整理しておくと,CIP3(Cooperation for Integration of Prepress, Press and Postpress)では,PostScriptベースのPPF(Print Production Format)が採用されている。
PJTF(Portable Job Ticket Format)は,PDFベースのワークフローにおいて,面付けやトラッピング,出力処理といったプリプレスの細かな作業の手続きを記述できる。
そして,JDF(Job Definition Format)は,プリプレスからポストプレスまでをカバーするCIP3と,制作からプリプレスまでをカバーするPJTFを包含し,さらにデリバリの工程までをもカバーするものである。JDFはCIP3の標準フォーマットとして採用されることが決定し,これを機にCIP3はCIP4へと名称を変更した。
CIP3(PPF)/PJTF/JDFの関係を示したものが図1である。

ここで注目されるのは,JDFはプリプレスからプレスといった横方向への工程統合を目指すだけでなく,受発注・顧客・経営管理情報などのビジネスマネジメントや生産計画や管理などのプロダクションマネジメントという縦方向への統合も視野に入れていることである。この縦方向への展開はなかなか具体的な姿をイメージするのが難しいが,プリプレスや印刷の生産システムと販売管理や工程管理といった基幹系の業務システムとがリアルタイムにオンラインで情報を共有する状態を考えればよいだろう。JDFがXMLをベースとしているのは,こうした基幹系システムとの情報のやり取りが考慮されているからである。また,XMLはWebとの親和性が高いので,E-コマースなどへの展開も可能である。
JDFの設計思想として,次の3つが明確にうたわれている。
(1) プリプレス,プレス,ポストプレスの情報を統合する。
(2) プロダクションとMIS(Management Information System)との連携の架け橋となる。
(3) 現存するシステムがどんなものであろうと,どんなツールを使っていようと上の2項目は達成される。

こうしたJDFの思想が具現化できれば,自社内だけでなく,クライアントや外注先を含めたワークフローの自動制御と状況の監視が行え,さらに実績データを自動的に収集し,一つの仕事にどのくらいのリソースと時間が使われて,結果的にどれくらいコストが掛かったかなどを瞬時に把握することができる。
また,工程の中のどの設備やどの人をどう使えば最も効率が上がるかという最適化が期待できる。

JDF対応はユーザの管理システム構築がポイント
JDFへの対応は,まず個々の機器から始まるだろう。あるメーカーのRIPシステムの内部フォーマットとしてJDFが採用されたり,特定の機器同士のやり取りにJDFを使うという対応である。
JDFのデータから機器制御に必要な情報を受け取り,結果の情報を返すインタフェイスの開発が必要となる。
この段階では,ユーザの享受できるメリットはさほど多くない。なぜなら印刷機のインキプリセットにPPFを使おうが,JDFを使おうができることに差はないからである。
次の段階で,JDFに対応した機器群をコントロールするプロダクションマネジメントのシステムが求められる。このシステムが経営管理システムとコミュニケーションすることで,綿密なコスト管理や最適なワークフロー設計が実現するのであろうが,このシステムを誰が作るのかというのは大きな課題である。RIPメーカーでもなければ,印刷機メーカーでもないだろう。
ユーザ自らが主体的に考えていくことが求められる。とはいえ足元の現実を見ると,現状の印刷会社では,基幹系のシステムでは,せいぜい作業指示伝票を発行するところまでで,それ以降は,印刷用のデータに紙の伝票が付いて回るというケースがほとんどである。またネットワークにしても印刷用のデータは重いので,基幹系のネットワークと分断されていることが多い。
JDF自身がこれから本当に普及していくかどうかは分からないが,JDFが目指している方向性には間違いはないと思われるので,生産系システムと基幹系システムの融合を視野に入れた自社のIT環境の構築や管理形態の見直しをしておきたい。
ちなみにJDFの提唱者でもあり,前工程から後工程まで幅広い製品群をもつハイデルベルグは,JDFの横方向と縦方向をカバーするモデルとして,プロダクションマネジメントシステムにあたる「プリネクト」と経営管理システムとして「プリナンス」をJGAS2001で提案している。

印刷業界向けASPサービスの「pico」
ユーザ主体という意味で注目されるのが,印刷業界向けASPサービスの「pico」である。
JGAS2001では,「pico」と,小森コーポレーションの「DoNet」をインターネット経由で接続し,受注から印刷まで完全自動で行うというデモが行われた。「pico」と「DoNet」のデータのやり取りには,擬似的ではあるが,JDFが使われ,従来は独立して運用されていた基幹系のシステムと生産系のシステムがシームレスに情報をやり取りする姿が見られた。
「pico」は,町田印刷の次期基幹システムの構想がベースとなっている。従来のシステムは,データの入力から伝票発行までが守備範囲で,その先のワークフローまではカバーできないだとか,対顧客,対仕入先など外部との接続に対応できないといった問題点があった。そこで,新システムでは,インターネットをベースとし,ワークフローまで管理でき,しかもオープンな環境で,どのシステムとも接続できることを開発コンセプトとしている。これはJDFのコンセプトとも合致する。自社開発では開発コストを負担しきれないために,仕事上の付き合いのあった富士通ゼネラルと提携し,ASPという形態を取ることになった。
開発スケジュールとしては,2002年7月には,見積処理,受発注処理,作業指示,進捗管理などの社内業務支援を中心としたサービスの提供を開始し,以後,電子商取引・電子決済を含んだ,得意先や外注先との間のサービスの提供を予定している。(テキスト&グラフィックス研究会)

■出典:JAGAT info 3月号

2002/03/23 00:00:00


公益社団法人日本印刷技術協会