本記事は、アーカイブに保存されている過去の記事です。最新の情報は、公益社団法人日本印刷技術協会(JAGAT)サイトをご確認ください。

One to Oneマーケティングと印刷会社との接点

●クロスメディア用のデザインツール

PAGE2002でおこなわれたコンファレンス「テクノロジー:クロスメディア」のトラックでXMPIE社のPersonalEffectというツールが紹介された。簡単にいうと、既にある顧客データベースの中から特定の人を選択して、印刷物及びWEBページのレイアウトをおこなうことが、ルール設定やそのプロセスを設定することにより、自動化もしくは半自動でできると言うツールである。

クロスメディア・パブリッシングという言葉は、いろいろな局面で使われており、また定義の難しい言い方である。一般的には、紙メディアと同時にWebに情報を配信・配布することを指すだろう。また、日本国内の印刷業界でデータベース・パブリッシングと言えば、たとえば商品情報をデータベースに登録しておいて、データベースの中身を印刷物やWebに掲載することを指すだろう。

このツールの場合は、どちらとも違っている。データベースはたとえば顧客データベースであり、数千とか数万件の顧客の住所・家族構成・年収などの属性であったり、過去の購買履歴やWebページのクリック履歴などの情報である。 またレイウアトする内容は、送り主の企業がこれらの一人一人に対して提案する内容が反映されたものになる。さらに、相手によって印刷物とWebページ、電子メールのどれとどれを作成して送れば良いかを反映し、最小コストで効果的な情報発信をおこなおうとするツールである。

●クライアント企業サイドのIT導入の進化

これを実現しようとすると、すぐさま疑念が湧いてくる。一つには、「どの人に対して、どんな提案をすべきか」をどうやって見つけるか?また、たとえば1万人に個別のデザインの印刷物やWebページを送ることができるのか?ということである。

前者の回答は、ITの導入が進み、大規模なWebサイトを運営している顧客志向の企業では既に現実となりつつある。膨大な規模の顧客データベースを構築し、過去の購買履歴や特別セールへの参加状況や自社のWebサイトのクリック履歴や、さまざまな形でおこなわれるアンケート調査への回答などがどんどん蓄積されている。マーケティング部門の担当者には、どういった顧客にどんな提案をすれば販売につながるか、を想起させるデータが豊富にあるだろうし、そもそも顧客を分析し、どんな販売をおこなうかを計画する事を目的に顧客データベースを設計しているだろう。

また、後者の回答は顧客データベースから抽出された対象にどのコンテンツを組み合わせるか、どのメディアを使用するかをすべて条件設定しルール化することによって、自動もしくは半自動でレイアウトデザインをおこなう。そのために、PersonalEffectの中にInDesignやQuarkXPress、GoLive、Dreamweaverといったデザイン印刷業界で標準的なアプリケーションのplug-inソフトが提供されており、データベースから抽出されたデータとデザインを連動させることができる。データベースからのデータ抽出やデザイン用データの生成は、ルール設定に基づき自動でおこなわれる。

これらのツールを使ってデザインがおこなわれ、最終的にはPPML(Personalized Print Markup Language)というXMLベースのマークアップ言語によって記述され、オンデマンドのプリンタやデジタル印刷機にてプリントされたり、PostScriptで出力されたりするもの、またはHTMLなどでWebに配信されるものが生成される。

●EXPIE社のねらい

この会社自体が、元々SCITEX社においてプリントオンデマンドやPPML、バリアブルプリント、プリプレスの分野に関わっていた人達で創設されており、これらの分野の中でも、最も必要とされ効果の高い分野に注力しているようである。 この製品のコアの技術は、ADOR Technology(Automatic Dynamic Object Replacement)というもので、データベースとロジックとデザイン、これらをモジュラー方式で統合している。 この製品よって生成されるオブジェクト(最終成果物)は、ダイナミックな可変性のドキュメントで、このオブジェクトのユニークなところはルール志向であること、ターゲットメディアによって自動的にフォーマットが調整できることである。

ソフトウェア自体の日本語化や日本でのビジネス展開についての具体的な計画は明らかにされていないが、近い将来の実現が予想される。

●One to Oneマーケティングのためのツールとデザイン印刷会社の接点

バリアブルプリンティング自体が、従来の少品種大量複製、大量生産を中心とした印刷業になじみ易いのかどうかの議論はここではさておき、このようなツールを使ってOne to Oneマーケティングを実行し、クロスメディアへ情報を発信したキャンペーンをおこなうことを、誰がクライアント企業に提案し、実行すべきなのだろうか?

One to Oneマーケティングは、通常はデータマイニングなどといったITソリューションの分野のインテグレータによって提案されていることが多く、データ分析の手法・理論の延長にある。 また、そうは言っても日本国内の特殊な流通経路や市場特性により一般化できない業界も多いだろう。

当然ながら、クライアント企業の業界に一番詳しく、顧客の状況や何を提案するかというマーケティングこそがその企業の中核となる頭脳である。その頭脳を云々するのではなく、その頭脳にある内容を指示にしたがって、目に見える媒体に加工したり、データベースに格納された商品情報を、日々更新したり、デザインに反映させたりもしているのがデザイン・印刷業界の企業である。その意味でのデザイン・印刷企業とクライアント企業とが協力する図式は変わらないだろう。紙媒体と同時にWebページなどへの加工やハンドリングを、当然のように扱うことが出来る能力がなければ、そもそもこのようなツールを使いこなせないし、提案も出来ない。

ただし、それに加えてクライアント企業にて導入しているITソリューションへの基本的な理解が 共通基盤として必要になってくるだろう。

2002/03/29 00:00:00


公益社団法人日本印刷技術協会