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Webサービスの現状と事例

Webサービスが求められる土壌

何か新規ビジネスを立ち上げる場合,1人では難しいので,他の部門や協力会社と仕事を進める。しかし,ソフトウエアの世界は,このようなコラボレーションは行われていない。例えば,会計のソフトは,独立して動いており,販売管理はまた別に動いている。関連会社を見ても,ソフトは全く協力していない。

Webサービスとは,ソフトウェアも相互に協力できる環境を提供することである。つまり,システムに対する柔軟性の要求である。
会計システムを作成し,パッケージを購入しても,これらの一部の機能を他のソフトウエアに公開して利用できれば,コラボレーションになる。それを実現することが,Webサービスに求められている土壌なのである。

それぞれのソフトウエアが,完全に独立して動いている中で,Webサービスの技術は,必要に応じて他のソフトウエアと会話をし,1つの仕事を行うことができるものである。会計ソフトを購入してそのまま動かし,販売管理のシステムをアプリケーションサービスプロバイダと契約して使っているような環境で,会計と販売管理を連携させるようなことを実現するのが,Webサービスである。

例えば,アプリケーションサービスプロバイダ側のシステムは,Javaで組まれたり,自社システムは,Windows.Netで組まれたりしている場合もあるように,システムはお互い違う環境で組まれて独立して動いている。このような環境で企業間の連携を行う場合,既に独立したもので動作しているシステムに対して,変更要求はできない。ソフトウエアの環境や,フレームワーク,OSが何であれ,システム間で会話することが,SOAP等の技術を利用したWebサービスで一番重要なことである。

Webサービスの現状

Webサービスは,非常に壮大な技術で,インターネット上にサービスがホスティングされている。それを利用したいときに探し出し,企業同士がその場で連携できる。Webサービスは,5年先の技術ではないかと言われるが,そうではない。

一番分かりやすいのは,企業イントラシステムのシステム間連携である。例えば,汎用機があり,UNIXマシンやWindowsがあり,それぞれのシステムが動いている。このような環境の中で,それぞれのソフトウエアを連携させる仕組みとして,EAIのソフトウエアは今までもあった。しかし,その値段は,300万円から2000万円〜5000万円である。連携させるために,何千万円かかるのは辛い。

また,EAIのソフトはターゲットがかなり決まっており,特定のアプリケーション向けが多い。それ以外に自分たちで作ったアプリケーションは,EAIのシステムが持つゲートウェイはあるが,連携は自分たちで作り込むので,費用がかかり,つなぐだけで高い投資が必要である。

これが,各プラットフォームで標準として提供できるようになれば,既存のアプリケーションから外につなぐ口だけを作れば連携できる。これは重要なことで,今実際に利用している事例も多い。まずは,既存のイントラネットのシステム間連携をWebサービスで行うことは,それほど難しくない。

さらに,Webサービスのもっと特徴的なところを活かせば,インターネットを利用してシステム間連携ができる。例えば,特定の連携先とPoint to Pointの連携も可能だ。WebサービスでUDDIという技術を使い,インターネット上で,全く新規の取引先を見つけて連携する。これも最終的には実現されるだろうが,今はまだ難しい。保証などのいろいろな問題があるからである。

不特定多数との連携ではなく,既存の取引先との連携という部分では,現在のWebサービスでも,技術的にも全く問題なく実現できる。利用方法には2つあり,そのひとつは企業間取引(B2B)である。例えば,受発注のシステムである。受注システムは,今までWebブラウザベースで顧客に公開し,ブラウザで発注していた。この部分はそのまま残し,なおかつ顧客の販売管理システムからも直接呼べるように,Webサービス化する。これは特定の取引先が対象であり,サービスを探す必要はなく,さらに相手の信用もある。ブラウザベースでの発注より,システム的に自動的に発注が行え,ミスも減るので効率的である。

また,アプリケーションサービスプロバイダとしてWebサービスを利用する。今はブラウザベースでホスティングしているところがある。例えば,会計とかCRM等のアプリケーションをホスティングして,インターネット経由でブラウザで利用する。これをWebサービス化すると,単にユーザインタフェースだけ提供するのではなく,顧客のシステムから直接利用できるようになる。

Webサービスの事例

事例として,電子辞書のWebサービスを挙げる。電子辞書のサービスは,Webベースでいろいろあるが,イースト社(URL:http://www.est.co.jp/)は,いろいろな辞書をWebサービス化している。
デジタルアドバンテージ社(URL:http://www.d-advantage.com/)も,コンピュータの用語辞典をWebサービス化している。今,この2つをWebサービス化して,ホスティングの実験を行っている。

実際には,www.atmarkit.co.jpで,インサイダー.Netというものがあり,ここに入ると,ネットディクショナリというものがある。ここでは,実際に試すことができる。 例えば,「SOAP」と入れて検索すると,返ってきたものは,SOAPの用語辞典になっている。

Webベースで見ると,普通の電子辞書に見えるが,用語辞典の中にいろいろなリンクが貼られている。これも実は,バックエンドのWebサービスを呼ぶようになっている。クリックすると,実際に用語辞書のWebサービスを呼びに行き,返ってきたものを表示させる。

これを作っているデジタルアドバンテージ社は,出版系の会社で,自分たちの編集のシステムで,Windowsベースのエディタのようなアプリケーションがあり,そこで原稿を作っている。そのときにいろいろな用語が必要になるので,このシステムで直接どんどん貼り付けたり,データベースにない場合は,入力していくというような形で編集のシステムを組んでいる。

ここでは,イースト社のデータベースも組み合わせて使える。イースト社の場合は,今は英和や和英辞典があるが,さらに専門の辞典も追加したいと言っている。そうすれば,医学辞典なども,単にWebにアクセスして用語辞書を開くだけでなく,自社の編集システムなどの中に用語のデータベースをダイナミックに取り込めるような仕組みが作れる。

特にコンピュータ用語辞典は,どんどんボキャブラリが増えるので,ローカルにデータベースで取り込むより,Webサービス化されて更新されたものを,必要に応じてダイナミックに取り込んだほうが良い。これは電子辞書,用語辞書のアプリケーションサービスプロバイダがあり,それを利用するという例になっている。

このような例では,やはり取引先は決まっている。不特定多数ではないので,信頼関係は非常に簡単にできる。
企業間取引の例として興味深いのは,図書館のシステムがある。それぞれの図書館には検索システムがある。独自システムか,もしくは,市や県の中でしか動いていない。このため,その図書館のデータベースの中でしか本が探せない。

この検索システムを,各図書館がWebサービス化し,相互に探すことができれば,家の近くの図書館で検索して,どこの図書館にあるかが分かる。日本全体をカバーするようなデータベースシステムを作るのではなく,Webサービスで個々の図書館が独自で運営しているものを他からも呼び出せるようにする。それによって1個の大きなシステムになるというのが,非常に面白い考え方ではないだろか。

今後の利用の展開

例えば,社内に会計や事務などの企業内のシステムがあり,Webサービスはそれを他に公開する口と考える。そうすると,システムのエージェント的な考え方ができるかもしれない。Webサービスにリクエストを流すと,Webサービスはそれを受け取って,何を行うかを解析し,実際にいろいろな細かいコンポーネントからなるシステムで処理を行ってから,最終的に戻ってくる。ある特定のシステムの他のシステムへ向けての代表の口がWebサービスとなる。

今までは,1対1で呼び出し元と呼び出し先があり,受けて終わりだったが,将来のWebサービスは複数あり,そのWebサービス同士が連携し,1個の大きな処理を行うようになる。複数の企業にWebサービスがまたがり,処理を行うことが実現される。そういう拡張の仕様がこれから出てくるだろう。 このような第2フェーズのWebサービスは,非常におもしろい世界が広がってくる。

■出典:通信&メディア研究会 会報 VEHICLE 通巻155号(抜粋・文責編集)

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2002/04/09 00:00:00


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