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1bit TIFFのメリット・デメリット

1bit TIFFが脚光を浴びている。CTPが普及する中で,確実に出力でき,かつ生成・出力に機器メーカーを問わないオープンなところが受けているようだ。ただし,誤解もあるようなので再確認してみたい。

1bit TIFFは中間ファイルの一種

CTPではフォントの有無などRIPの違いに左右されない「確実性」が強く要求される。そこで,一種のプログラミング言語であるPostScriptの解釈と出力処理とを分離しようとして登場したのが,いわゆる中間ファイルである。またRIPの違いによりプルーフとプレートとで出力内容が異なることは許されないので,中間ファイルを用いて一度のRIP処理で複数の出力機にデータを供給するR.O.O.M.(Rip Once Output Many)コンセプトが出てきた。

中間ファイルについてもう少し詳しくみていく。RIP処理というのはインタープリット,レンダリング,スクリーニングの3段階に分けられる。
インタープリットでは,PostScript言語を解釈して,文字,線画,画像のオブジェクトがどのように配置されているかを明らかにし,PostScriptエラーや使われているフォントがRIPに搭載されているかのチェックを行う。線画はベクトルデータのままで保持される。PDFはPostScriptファイルをインタープリットして作成される。

次にレンダリングでは,各オブジェクトを演算処理し,1枚の絵の形に展開する。この段階で出力解像度が規定されるが,出力線数や網点形状は特定されていない。サイテックスのCT/LW,ハイデルベルグのDeltaリストを始めCEPS系のベンダーの中間ファイルは,レンダリング後のものが多い。RIPのシステムと出力機のシステムが同じベンダーのものだと信頼性は非常に高いが,ベンダー間での互換性に乏しい面がある。

最後にスクリーニング処理により,カラーであればCMYKの4版のデータに分割されて,出力機の露光ヘッドのオンオフ制御の信号にまで展開する。網点化されたデータという言われ方をするが,これを厳密にいうと,例えば8bit256階調を一つの網点で表すには,一つの網点を16×16の格子に分解して,その一つひとつのオンオフを制御することになる。オンかオフの2つの信号しかないので1bitである。今話題の1bit TIFFは,このスクリーニング処理後のデータである。

こうして見ると,1bit TIFFは本当に出力直前の最終データということが分かる。1bit TIFFワークフローと称されてPDFと比較されることも多いが,PDFワークフローという時には,ページ面付けやトラッピングなどの製版処理が含まれるのに対し,1bit TIFFは,こうした製版処理はすべて終わっていることが前提となるので,単純に並べて比較してもあまり意味がない。

1bit TIFFの運用

製版会社から印刷会社にCTP出力のためのデータ入稿する場面を想定して,1bit TIFFの運用を考えてみる。

製版会社では,注意点として1bit TIFFを作成する時の出力解像度を実際に出力するCTPと全く同じに設定する必要がある。CTPの出力解像度は,2400dpiと2540dpiのように端数が微妙に異なるものがあるので事前にきちんと確認して完全に一致させる。それ以外は,出力環境を意識することなく,フィルムを納品していたのと同じ感覚でデータを制作することができる。特に出力先のフォント環境を一切考慮しなくてよいというのは大きなメリットである。

また,最近のRIPは,1bit TIFF出力の機能を備えたものが多いので,1bit TIFF作成のために新たな投資をしなくてもよい。 データ量は巨大になるが,汎用的なG4圧縮に対応しているし,ツールを購入すれば更なる高圧縮もできる。

次に印刷会社の立場で考えると,RIP処理が完全に終わっているので,非常に安定した信頼できるデータである。出力のオペレータには,PostScriptやRIP周辺の知識・スキルがなくとも,従来の刷版(殖版)作業の延長で対応できる。1bit TIFFのデータを印刷機のくわえサイズなどを考慮して刷版上のどの位置に置くかという,言うなればデジタル殖版・デジタル大貼りを行うツールが幾つか出てきている。

それから,RIP処理がない分,プレートセッタの出力能力をフルに生かせるという利点がある。 弱点としては,1色1版に付き1ファイルとなるので,例えばフルカラーA4サイズ32ページの印刷物を菊全(8面付け)サイズで出力する場合は,32÷8×4=16個のファイルが入稿されることになり取り扱いがやや煩雑となる。

またTIFFファイルではあるがデータサイズが大きいので,Photoshopなどで手軽にファイルを開いて画面確認というわけにはいかずツールが必要となる。 それからカラープリンタで出力確認するには,分版されたファイルをデスクリーニングという処理により1ファイルにする変換処理が必要となる。カラーマネジメントを行えるツールも出てはいるが,基本的に1bit TIFFは再加工処理には向いていない。

1bit TIFFは,オープン性の高さから電子送稿用のフォーマットとしても期待されるが,校了紙の代わりとなる印刷見本をどうするかという課題は残されている。

1bit TIFF対応ツール

データ圧縮ツールとしては,シンボリック・コントロールの「cubic-D」がある。1bit TIFF専用のデータ圧縮・伸張ハードウエアで箱形をしている。1bitデータを平均20分の1に自動圧縮し,ネットワーク上の指定されたIPアドレスのcubic-Dに自動的にデータを転送する。受け取ったcubic-Dは自動的にデータ伸張を行い,更に決められた場所,例えばCTPコントローラへデータを転送する。

ジーティービーからは,Bit Throughシリーズが出ている。Plate Plannerは,殖版,大貼り作業用ツールで,自動トンボ出力やアクセサリの配置なども簡単な操作で行える。 Strip Editorは,文字修正やブロック差し替えなど従来のストリップ修正に準じた作業を行える。

Proof Makerは,分版された1bit TIFFをデスクリーニングして,プリンタから出力可能なコンポジットのTIFFファイルを作成する。
DotAdjusterは,指定されたトーンカーブに従って網点のサイズを変更しドットゲインの補正を行う。
Image Compareは,Proof MakerやRIPで出力されたTIFFデータを比較し,差分を自動抽出する。

大日本スクリーンのBitStepperは,出力先が同社のプレートセッタに限られるが,カラープレビュー,大貼り・殖版,プルーフ出力といった多彩な機能をもつオールインワンシステムで,CIP3準拠のPPF出力にも対応している。また,G3,G4,PackBits,LZWなどのさまざまな圧縮方式に対応している。

殖版・大貼りシステムには東洋インキのPlate Frontもある。
サカタインクスのBEST screenproofは,RIP後の1bit TIFFにICCプロファイルを適用し,印刷物に近似した色調のカラープルーフをインクジェットプリンタから出力する製品である。
(テキスト&グラフィックス研究会)

■出展:JAGATinfo 2002年5月号

2002/05/03 00:00:00


公益社団法人日本印刷技術協会