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プッシュメディアとしての紙媒体の効果

さまざまな分野で電子媒体の利用経験が積まれてきて、紙媒体、電子媒体の使い分け見えてきたようだ。ポイントは、紙媒体と電子媒体それぞれが持つ特性と情報の受けての情報摂取に対する姿勢との組み合わせを誤らないことである。

電子媒体は、「インターラクティブ性」あるいは「優れた検索機能」が特長であると言われるが、それは電子媒体の「プルメディア」としての性格である。インターネットにアクセスすれば、従来では接することもできなかった膨大な情報の中から自らが必要とする情報を得ることができる。一方、紙メディアは、「プッシュメディア」と位置付けられる。自分は何のアクションを取らなくても、新聞折込、ダイレクトメールという形で情報が送りつけられてくるから、消費者はそれらの中から自分に興味のある情報のみを取り込めばいいことになる。

B to Cの通販では、紙媒体、電子媒体のどちらから情報を得て購入するかで、客単価が異なり、「ネット」:「カタログ」=1:2というデータがある。ネットだけを見て物を買う顧客に対して、カタログを見て物を買う顧客の客単価はほぼ倍額ということである。それは、紙媒体は消費者の「衝動買い」あるいは「発見買い」を誘う効果があるのに対して、Webは「目的買い」の顧客が利用する媒体だからである。
Webを使って見にくる顧客は、まず自分で何を買いたいかを明確に意識している顧客である。検索エンジンを使って購入先を選び、必要なものだけを買う「目的買い」をする。一方、「発見買い」とは、カタログをパラパラ見ている間に当初は意識していなかった商品を買いたくなるということである。紙媒体の持つ「プッシュメディア」としての特性とビジュアルの訴求力が威力を発揮して結果として3つ、4つの商品を1度に買ってもらえるという効果がある。

電通総研の生活者の情報収集に対する態度、つまり情報リテラシー(パソコン等の操作能力という意味ではない)に関する調査によれば、個人生活において労をいとわずさまざまな情報を積極的に取りに行く情報リテラシー度が高い人はせいぜい2割で、8割以上の生活者は、与えられた情報の中から必要なものを選んでいくという受身の態度で情報を得ている。したがって、プッシュ媒体としての性格を持つ紙媒体は欠かすことはできない。

セールスマニュアをCD-ROM化してセールスマンに配布する企業は増えている。しかし、取り扱い商品が非常に多い場合には、販売の現場でも知らない商品がたくさんあり、現場のセールスに周知徹底するための「プッシュメディア」として紙は欠かせない。能動的なセールスマンであれば自らネットワークにアクセスして情報を取って有効利用するが、そのようなセールスマンだけではないからである。

以上のように、積極的に情報を取りに行く人、あるいは情報摂取ニーズが非常に強い場合には、「プルメディア」としての性格を持つ電子媒体は非常に有用であるが、情報に対して受身の多くの生活者にとっては煩わしいだけである。後者にとっては、プッシュメディアとしての性格を強く持った印刷物が情報を得る主要な手段となる。 紙媒体と電子媒体はその使用目的、対象に応じてそれぞれの特性を活かして使い、時には両者を相互補完的に使うことが有効である。

JAGAT「印刷白書2001→2002」(2002年5月発刊)では、クロスメディア・パブリッシング分野に今後の事業拡大を目指す印刷業界に必須のデジタルメディア、デジタルコンテンツに関してポイントを絞った報告を掲載している。

2002/06/09 00:00:00


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