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フォント戦争の幕開け(1)─フォント千夜一夜物語(5)

1990年〜1992年の間に、国内外のフォント・テクノロジー環境は大きな変化をきたしている。その代表的なものをあげると、

1.アップルMacintoshの「システム7/漢字Talk 7」──TrueTypeフォント
2.マイクロソフトの「MS-Windows 3.1」──TrueTypeフォント
3.アルプス電気のWindows対応「FontPro」と「FontWave」──WIFEフォント
4.キヤノンのWindows対応「Font Gallery」──WIFEフォント
5.NECのWindows対応「FontAvenue」──WIFEフォント

などである。

アドビ社はモリサワと共同開発契約を結んだが、将来展望として開発書体数と販売時期 などのスケジュールは明確に決まっていたわけではない。それでも基本書体の明朝系、ゴ シック系についての目途はついていたが、書体のバリエーションにおいては弱体、という 思いがあった。

そこでアドビ社は、他のフォントメーカーにないユニークな書体で、デザイナーの間で 好評な「リョービ・ナウシリーズ」をPostScriptの世界に囲い込もうと、リョービへのアプローチをあきらめてはいなかった。しかしリョービ側の態度は、相変わらず保守的で進展はなかった。

●非フォントメーカーの参入と写植メーカー
当時のリョービは、プリプレスやフォント関連についての見識、将来展望などについて の十分な知識と経験をもたなかったことと,1986年当時はフォント制作ツールのIKARUS を導入したばかりで、自社フォントのデジタル化対応が精一杯であった。

加えてアドビ社のA氏の態度は慇懃無礼であり、また共同開発・販売の条件が、アドビ 社に有利過ぎたことも、決断をためらう原因でもあった。

またフォントに関して、リョービ(以下Rという)とリョービイマジクス(以下RIとい う)との特殊な関係があることも災いしていた。

フォント開発(書体デザイン)はRIがマネージし、その原字から写植文字盤の製作やフ ォントのデジタル化はリョービが行う、という親会社/子会社の図式であった。そしてそ れらの製品販売はRIが行う。この関係は現在でも同様である。

この他にも複雑な関係が存在し、フォントに関しては両者が独断で決定はでできないと いう関係にあった。そこでプリプレスやフォントの将来展望を、R側に対して積極的な説 得に動いたのはRI側で、その主人公はRIに大手印刷会社から招聘されて入社していたS 氏である。

1980年末からCEPSやシーボルト、DRUPAなどで見聞を広めていたS氏は、将来のプリ プレス関連技術やフォント技術などの業界展望を積極的に説いて廻った。特にDTPに対す る将来性と専用システム(クローズドシステム)の衰退を早くから予見していた。

R/RIは写植メーカーとしては後発であり3番手であることから、せめてフォント関係 でプリプレス業界のリーダー役となり、そして収益を上げるべく情熱を傾けていたが、そ の情熱もRの上層部に通ぜずアドビ社との提携話はご破算になった。

しかしこのときのS氏が描いていた、R/RIのフォントビジネス戦略と将来ビジョンに 対する情熱と説得が功を奏し、以後の「WIFEフォント」や「Type1フォント」、「TrueType」 のパッケージ販売やOEMのフォントビジネスの基盤を築いた。その第一歩がアップル社の 新OS「漢字TrueType 7」へのリョービフォントのライセンス契約である(つづく)。

澤田善彦シリーズ>

フォント千夜一夜物語

印刷100年の変革

DTP玉手箱

2002/06/08 00:00:00


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