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PDFによる文書管理−ペーパーレスに向かう電子帳票システム

PDFは登場した当初から,プラットフォームやアプリケーションに依存しない,閲覧ソフトは無料,オリジナルの文書体裁を忠実に再現できる,といった特徴から,紙のドキュメントのデジタル化・情報共有に向くと言われてきた。一方で周辺機器やWebネットワークの進化により,ペーパーレスへの動きも加速している。4月16日のテキスト&グラフィックス研究会のミーティングでは,主に金融機関向けの電子帳票システムに取り組んでいる株式会社ミック代表取締役の細川謙三氏に,PDFによる電子帳票についてお話を聞いた。

ペーパーレスへの流れ

帳票がなぜペーパーレスへになっていくかというと,金融機関では,システム維持の次に高い印刷費を削ろうとしている。白紙の用紙にバックの体裁もすべて含めた形でプリントすれば,事前の印刷をなくすことができる。印刷物の在庫の問題もある。ある会社では数千点ある印刷物を管理するために,関東,関西に物流拠点を持つというように,非常に大きなコストになっている。また,数千点の在庫を管理するシステムを構築・維持しなければいけない。電子帳票になるとホスト系のデータが反映でき,それからPOD(プリントオンデマンド)あるいはDPS(データプリントサービス)へ展開できる。バリアブルデータ,ホストのデータ,オーバーレイデータを組み合わせて請求書を作ったりすることもできる。また1 to 1カタログといって,端末からクライアントの要求に応じてカタログを作ることもできる。このようにデータベースとコンテンツがリンクできるということは,紙の上ではできないことである。結論として,これらの分野のペーパーレスは確実に進むがコンテンツ関連の作業は残る。ビジネスフォームの印刷は下降線を辿っているが,その分DPSや電子帳票の仕事が増えている。今まで印刷会社というとプレスだったが,これからはプリンタを活用した印刷になってくるだろう。

PDFによる電子帳票システム

金融機関は,印刷会社へ依頼することを減らしたいと考えており,PDFにより実現できる。金融機関などのビジネスユーザはPDFの軽さ・機能を優先しており,フォント埋込み,高解像画像は使わない。またPDFが標準となる理由として,様々なアプリケーションから生成できること,端末側にはReaderがあればいいこと,ホストの情報の埋め込みが可能なこと,印刷物の代わりになることがある。例えばインクジェットプリンタで出力し,それを顧客に出してハンコをもらうことができる。セキュリティの機能もある。

ミックの電子帳票システムではDistillerを使わずに,自社のアプリケーションでPDFデータを生成する。この分野を手がけたきっかけは大手保険会社にミックのDTPソフト,iPRO-OCRが入っており,作った帳票データにホストのデータをマージしPDFを生成するシステムを作ってくれという依頼があった。従来の印刷物と同じイメージを白紙にプリントすること,また生保の保険料計算と,グラフがあり,1顧客ごとにコンテンツのライブラリから取り出して生成すること,XML,CSVにも対応してほしいという要求があり,1年半くらいかかって開発している。

他に,損害保険会社の電子帳票システムの例がある。顧客が車を買い換えたとか住所が変わったとき,損保の代理店の端末から顧客属性変更をWebサーバに通知すると,保険会社のホストの情報を更新し,Webサーバに返す。戻ってきたデータをWebサーバ上で,オーバーレイとマージしてPDFデータを生成し,代理店に配信すると代理店ではそのPDFをプリンタで印刷する。

生命保険会社の異動帳票の例では,保険契約の住所や口座を変更するとき,その内容に応じて,ホストからCSVのデータを取りだし,マージして1つの異動帳票ができる。今までは,異動条件の種類だけ帳票の在庫が必要だったが,これを白紙にプリントするということに変わり,印刷会社に発注していた帳票をなくすことができた。

生命保険設計書の例でも,以前はバックを印刷会社が印刷していたが,代理店のプリンタでA4の白紙に絵柄まで含めて印刷するということが実現している。

航空機保険とか原子力保険とか件数の少ない保険の小口証券発行システムの例がある。これらの証券は,件数が少ないのでホストで処理せずにタイプライターで打っていた。それをAccessによるデータベースとPDFを生成するシステムにした。テキストを入力しボタンを押すと,PDFが生成され,これをプリントアウトし契約書とする。あとはここにハンコを押して顧客に渡してOKをもらう。これも印刷物がなくすことができた例である。

1 to 1カタログ

一般に1 to 1カタログとは,顧客データがあってオンデマンド印刷し,郵送して顧客に配布するものを指す。そうではなく,顧客情報を入力するとカタログの部品データと顧客属性データをマージしてPDFにし,プリントしたものをその場で顧客に渡すといった即応型の1 to 1カタログに取り組んでいる。この仕組みで,いろいろな需要が見込める。生命保険の個人向けパンフレットで,主契約は既に加入しているが,新たに特約を勧めるとき,見積やパンフレットをつくる。旅行パンフレットでは,オプションごとのパンフレットを出すことが出来る。住宅・自動車などの高額商品のオプションをリスト化する。病院・医師関係に対し薬を売るMRは,医薬品会社のサーバから適正な情報を取り寄せてPDFにして,プリントアウトして顧客に持っていく。お中元・お歳暮や通販カタログでも,顧客属性を入れた申込書の発送もできる。この仕組みにより,印刷費の削減やデータマイニングを前提にしたカタログ,資料ができる。運用フローは,損保の代理店の電子帳票とほぼ同じである。

入札システムの登場と影響

電子帳票のほかに,印刷代を安くする方法として入札システムが注目されている。東京海上や大手生保などが印刷物の入札e-コマースを始めようとしている。入札運用会社としてネプリやイードックが注目されている。東京海上が成功すると,他の金融保険会社もやろうというような動きが起こるだろう。東京海上の例ではパンフレット・リーフレット類はQuarkXPress,規定集・約款の文字ものはWord,帳票類に関してはiPROを使うと決められ,データと印刷物を一緒に東京海上に納める。出力環境は,モリサワのCID26書体に決められている。外字は使ってはいけないので,画像で貼っていく。このようにデータ標準化がキーワードである。発注者がコンテンツデータを管理するということは,印刷会社はどこでもいいという状況になってくる。

今後の印刷物

PDFによる電子帳票が求められている理由は,お金を使いたくないということである。提案する際に,「こんなふうに便利になる」ということではなく,「これだけ安くなる」と切り出さないと,金融機関も一般の企業も興味を持たない。安くしようと思った結果,道具としてPDFが優れていると考えている。また,コンテンツとなる部品データはだれが整理するのかと言うと,印刷会社でしか整理できないだろうし,新しいビジネスの可能性もある。

(テキスト&グラフィックス研究会)

■出典:JAGAT info 2002年6月号

2002/06/11 00:00:00


公益社団法人日本印刷技術協会