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メディアビジネスの今後

「電子ペーパー」「eラーニング」などにより,従来の紙媒体は横滑り的に電子メディアになるのか。 コンテンツを生かした新ビジネスは生まれるのか。通信&メディア研究会主催4月ミーティング「2005年のメディアビジネスを考える」座談会では,インプレス顧問の田村明史氏と日経BPブロードバンド・ビジネスラボ部長の竹田茂氏を招き,参加者とともに2005年をターゲットにディスカッションを行った。以下にダイジェストを紹介する。

出版業界は近い将来どうなる?

田村:今までは,自分たちの直感や経験で見込み生産をしてきた。しかし,この数年は相当厳しい。インプレスの「できるシリーズ」は,インターネットの後押しもあり,累計2000万部を達成したが,最近は同様に厳しい状況になってきた。
出版業界のこれからは,サプライサイドの見込み生産ではなく,デマンドサイドに目を向けるべきだろう。マーケットや読者のニーズを吸い上げ,生産者と消費者が一緒になるようなプロシューマー的発想で,情報を共有していかざるを得ないだろう。

竹田:日経BPは,1969年の創立当初から,エンドtoエンドで読者とつながっていた。読者の属性を把握しているので,比較的高額な広告が付けられる。これはまさに,ワンtoワンに近いモデルであった。
レガシーの雑誌がもうからなくなるのを,ネットのせいにする人もいるが,ここ5年くらいの推移を見ると,基本的には関係ない。出版業界では,すべてを二項対立で捉えてしまう人も多いが,アナログかデジタルかではない。
恐らく出版は,縮小均衡という形で残るだろう。その前提で,何が変わっていくのか。4つある。1つは,デモグラフィーが大きく変わるだろう。これはユーザのリテラシーが変わるということだ。2つ目は,インフラが変わるだろう。「ブロードバンド」を意識しないインフラが普及する。3つ目は,端末が変わるだろう。eペーパー,PDA,携帯電話などの動向には要注意である。4つ目は,ビジネスモデルの意味が変わるだろう。ボランティアベース,地域ベースに根付いた話が多くなるだろう。

Webの方向性

竹田:ここ数年は,完全に雑誌のメタファーを目指していた。Webには,取材したラフな一次情報を掲載し,さらに深い記事は,雑誌というパッケージを利用していた。この次に来るものは,オンラインストレージサービスであると思うが,今はビジネスとしては,どこもうまくいっていない。

田村:これからの時代はモノが飽和し,常時接続環境下においては,無体的なこと(知識や知恵)が重要になってくる。それを提供するのは,まさにサービス業である。これから,製造業はサービス業へと業態転換することが必要だろう。レガシーモデルを融合,応用しない限り,なかなか収益性が上がらず,新たなモデル作りは難しい。

レガシーとの戦い

竹田:レガシーと関係ないところで勝負しても,うまくいかない。インターネット時代になったといっても,事業ドメインが大きく変わるわけでははない。われわれができることは,ビジネス情報を届けることだ。Webでの情報発信でニュースが多かったのは,一次情報を早く伝達できるからだ。

田村:コンテンツの切り口は,フローとストックである。例えば,フローのニュースに新たな情報を付加してストックすれば,付加価値が高まる。コンテンツの価値をどう高めていくか,どう吸収し,対価を払うかといった状況が見えてくれば,簡単に話の整理が付く。

近年ブレイクしそうなディスプレイ

竹田:eペーパーは,目に優しいし,入力デバイスにもなる。eラーニングなどですぐ使えるのではないか。また,広告代わりにもなり得る。ディスプレイのサイズに対するユーザの反応は,これから非常に重要視されるだろう。コンテンツ配信者は,ユーザニーズをある程度予測しながら,提供していかなければならない。

田村:これからは,すべてディスプレイがキーになるだろう。個人のライフスタイルで,コンテンツの内容は変わる。どういうディスプレイで見やすさを追求していくか。eペーパーのような携帯できるディスプレイもキーになるだろう。作る側からすると,ディスプレイの大きさが重要だ。映画は,ディスプレイや出力,発光の仕方もすべて最適化している。それを単純に,ほかのデバイスにエンコーディングして出しても,感覚や品質が違ってしまう。これからのデバイスは,新しい表示の仕方やインタフェイスを捉えたものが勝つだろう。

eBookの今後

竹田:本を目指すなら,本がいいに決まっている。eBookには,紙媒体では難しい,検索性や保存性などの機能を追加しなければ意味がない。紙とeBookの機能は,全く別の物だ。eBookは今,紙に対して負ける勝負を挑んでいるようなものだ。

田村:閲覧の仕方は,状況に応じて,ユーザが選べばいい。紙とデジタルの利便性を使い分ける。1つのコンテンツにも,ハイブリッド的な発想が必要だろう。長い目で見ると,紙は希少価値になっていくのではないか。使い捨ての情報に,紙はあまり使わなくなるだろう。どうしても長く保存しておきたいものは,紙でストックしておく。コスト面でも,相当変わってくるのではないか。

紙とデジタルのこれから

田村:数年前に,インプレス社長の塚本は,「2004年には,紙とデジタルの売り上げを1対1にする」と言っている。そこで,紙とデジタル部隊を一緒にしたが,指向性などの問題もあり,シナジー効果は,なかなか起きなかった。結局,また別々になっている。

竹田:これからの事業は,水平分散型で,いろいろなコンテンツをもっている人たちが参入しやすい状況を作らなければいけない。また,これからは,時間を節約するものがビジネスになるのではないか。例えば,1章〜10章まで構成されている本があるとしたら,サマリーを出し,ある章だけ深掘りできるような作り方をしていくべきだ。

田村:私は,マスカスタマイゼーションに注目する。デルコンピュータがやったBTOの製造方法は,出版でも応用できるのではないか。例えば,教育の分野で,自分の習熟度に合わせた問題を顧客側で選べるようなものは面白い。そういう発想は,今での見込み生産では全くやってこなかったが,これからは必要になるだろう。

これからは,パートナーを見つけるしかないのではないか。つまり,自分のコアコンピタンスは何かということだ。今の時代は,会社の能力で何か特化されている部分に,資源を集中するしかないのではないか。システムが得意な人間と,どうアライアンスを組み,どうシェアをしていくかというような発想でいかないと,相当きついだろう。最近,日本はコーディネート事業を重要視しており,今後は組みやすいと思う。能力を高める自分の力を見抜いた人は強い。その辺りを見直して,再度資源の配分を考え直すだけでも,企業はかなり立ち直るのではないか。

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2005年ということでいえば,それほど変わらないかもしれないが,仮説なくやってしまえという時代は終わった。これからは,きちんと積み上げていかなければいけない時代になるだろう。 (通信&メディア研究会)

■出典:JAGAT info 2002年6月号

2002/06/12 00:00:00


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