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新聞制作システムの今後

住友金属システムソリューションズ 背古繁夫 氏

従来の新聞制作システム

レイアウト制作システムを取り上げた2002年4月のT&Gミーティングから,住友金属ソリューションズの背古繁夫氏の新聞制作に関する話題を報告する。

従来の新聞制作はクローズドな環境で行われていた。多くの場合,ひとつの新聞社のシステムはひとつのメーカーが制作環境を構築していて,そのメーカーがシステム全体を掌握していた。この場合,トラブルが発生したときはそのメーカーに相談するだけでよいので新聞社にとっては楽だが,しかし,具体的な問題の解決方法をどうするか,どういうシステムにするかを新聞社側で考えようとしてもメーカー依存になってしまう。新聞社がPDFやXMLなど最新技術に取り組みたいと思っても既存のシステムでは対応が難しく,仕様を追加しようとしてもメーカー主導で決められてしまうし,それでなくても高額な保守費がかかる。すでにこのような従来型の制作システムでは時代の変化に適応しにくい状況になっている。技術面でも,従来のシステムはホスト中心で,高速処理と詳細な工程管理ができるメリットがあったが,しかし,たとえばカラー化やマルチメディアなど新しい技術への対応が困難であったり,ランニングコストが高いなどの問題がある。

以上のような従来型の新聞制作システムの問題点解決のポイントは,ランニングコストと諸費用の削減,IT化への対応,オープン環境の構築,システムの簡易化,マルチベンダー化などである。そしてそのための糸口としてDTPが注目され,DTPによる新聞制作が検討されている。

住友金属システムソリューションズは最初からDTP製品だけを開発してきたわけではない。むしろ日本語情報処理や校正支援などの研究開発経験の応用という意味でDTP分野に製品を投入してきた経緯がある。その結果がEDIANシリーズやEDICOLORという製品である。2001年秋に発表したEDIAN NPSは,EDIAN WINGの新聞制作機能の充実を図ったものである。従来はEDIANシリーズには新聞制作専用のアプリケーションはなかったが,ここに至って商業印刷向けのEDIAN WINGと新聞向けのEDIAN NPSの2つのラインナップで事業展開を行うことになった。

EDIANの機能拡充による対応

広報紙やフリーペーパーは別として,最初にEDIANで制作した日刊紙は沖縄タイムス社である。沖縄タイムス社はその制作システムによって1998年度の新聞協会賞<技術部門賞>を受賞したが,これはオープンなDTPによる新聞制作に沖縄タイムス社が先陣を切って取り組んだという先進性が認められたものである。

このときにはEDIANの機能を拡充して対応した。たとえば共同通信社のK-JISコードへの対応,テレビ欄,商況欄,プロ野球などの自動組版,囲碁将棋欄などの特殊組みの対応である。また,入ってきた記事を振り分けるデスク処理なども開発した。こうして1998年から2001年まで,ずっとEDIANに新聞専用の機能を拡充してきた。もちろん新聞制作以外のデータベース書き出し機能なども拡充している。

EDIANはもともと商業印刷が対象だったが,沖縄タイムス社がきっかけで,1999年に3社,2000年に4社,2001年に6社,2002年には日刊自動車,日本海事新聞,南海日日新聞,函館新聞から受注と確実に実績を伸ばしている。今後もバージョンアップを続け,とくにXML関連,XSL対応といったクロスメディア対応を行うと伴に,新聞制作の専用機能も拡充して行きたい。

素材管理システム

新聞制作においては素材管理システムがきわめて重要な位置を占める。新聞の素材管理とは,記事・写真・ドキュメントなどのデータを一元管理することである。しかし,それらを使うための仕組みも含めて広義の素材管理システムを考えることもできる。その場合は後工程のシステムとの連動も視野に入れなければならない。

住友金属システムソリューションズが提案する素材管理システムは,記事,画像,紙面,資産型のそれぞれのデータベースが,データを登録・管理する登録サーバにぶら下がる形で構築される。

制作側には記事や画像を作って本社に送る出稿取材支援システムがあり,登録サーバはそこからデータを受けて素材管理システムに登録する。ここまでが狭義の素材管理である。さらにそれらの素材管理システムと,どの用途にどの記事を使うかを管理するデスクシステムとのやりとりがある。これには紙面編集システムへの出稿指示とホームページなどメディア編集システムへの出稿指示があるが,ここまで含めたものが広義の素材管理システムといえるだろう。

記者や通信社からのデータは素材管理サーバで受けとる。サーバは,現在はORACLEのデータベースを使って一元管理している。社会部や経済部など各部門のデスクはそれぞれの端末で担当記事を一覧し,デスクの端末から記事の検索や出稿指示を行う。この指示が制作側の担当者に送られ,担当者が記事をレイアウトしていくという仕組みである。このシステムには何月何日の紙面は何面立てでどの面にどのの記事を使うかという紙面の組み立てを行う紙面管理機能もある。

新聞制作システムの今後

他の業界同様,新聞業界でもXMLが注目されているが,ことに期待されるのは素材管理における利用である。

XMLの利用にはXMLデータの取り込みと書き出しの両方が必要だが,EDIANでは現在のバージョンですでにXMLデータの書き出しを実現している。EDIANの文書構造に準じたXML文書を書き出して,XSLTプロセッサによって目的の文書に変換する。変換するためのXSLデータのサンプルとして,HTMLとJapaXの2つの変換用XSLデータを標準で添付しているが,今後はXMLデータの取り込みにも対応していく。XMLに対応するのは,EDIANのコンテンツをHTMLや電子出版形式,データベース登録フォームなど多メディアに展開するためのインターフェースが必要だという理由による。

一方,日本新聞協会ではXMLベースの記事管理フォーマットNewsMLを推進している。今後,データがNewsMLに変わるとすれば,新聞制作のワークフローそのものも変わるだろうし,住友金属システムソユリューションズでも提案の仕方や上述の素材管理システムの枠組みも変えざるを得ないだろう。ただ,まだ具体的な電文のデータ形式などが明らかになっていないので,いつどのように変わるかは今のところわからない。これから1年くらいは試行錯誤の時期だろうと考えている。文字コードも文字種も新聞社によって異なり,それぞれ独自のシステムで管理しているので,すべての新聞社がすぐにNewsMLに対応するかどうかはわからない。

ただ,新聞制作のデジタル化やオープン化,Windows化の動きはもう止めることはできない。2002年はこうした動きがより一層明確になり,データベース志向やCTP導入が進んで,ホスト中心主義からホストレスの流れになると思われる。また,NewsMLによる配信システムについては,2003年に共同通信社のシステムが立ち上がるということもあって,XML対応やUnicode対応などが技術的な動向の中心になるのではないかと考えられる。したがって,EDIANもこれらの動向を見ながら必要な機能を追加して順次バージョンアップしていきたい。
(テキスト&グラフィックス研究会)

■出典:JAGAT info 2002年7月号

2002/06/24 00:00:00


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