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フォント戦争の幕開け(2)─フォント千夜一夜物語(6)

1990年にアップル社は、新OSの「システム7」で漢字をサポートすると発表した。
MacintoshとLaserWriterでの日本語処理はPostScriptに依存しているため、アップル社 は独自にアウトラインフォントの漢字TrueTypeを開発し、システム7に搭載することを決 断した。このTrueTypeフォント開発にBitstream社とRIが協力している。

アップル社の構想は、漢字TrueTypeのアウトラインフォントを新OSであるシステム7 にバンドルして出荷することと、新プリンタ(クイックドロープリンタ)の発売である。 Macintoshはドットフォントを使っているため、文字品質に限度がある。画面が72dpi 程度でドットフォントを使っているかぎりWYSIWYGにはならないし、しかも高度なグラフ ィックスソフトに対応できない。そこでアウトラインフォントの自社開発に踏み切った。

TrueTypeは、アウトラインフォントをビットマップに展開するフォントラスタライザの 役割を果たすソフトウェアで、それに対応しているフォントを「TrueTypeフォント」と呼 んでいる。Macintosh本体側にTrueTypeとアウトラインフォントを搭載し、画面表示/印 刷の両者の機能をもつ仕組みである。

●PSフォントからの脱皮
「漢字Talk 7リリース7.1」は1992年12月に発売されたが、この新OSに「漢字TrueType」 と和文TrueTypeフォント 7書体が標準搭載された。フォントはリヨービ本明朝M/丸ゴシ ック(シリウス)M、平成明朝体W3/角ゴシック体W5、モリサワのりゅうみんKL/ゴシッ クBBB、アップルのOSAKA(ゴシック)である。そして欧文書体は9書体が標準搭載されて いる。

これより遡ること2年前の1990年、RIは米国の著名なフォントベンダーである Bitstream社とフォントビジネスを目的として、Type1フォントの共同開発/販売契約を締 結した。アドビ社のプロポーズの3年後である。

DTPの普及に拍車がかかり始めたため,欧米のハード/ソフトメーカーは日本のマーケ ットをターゲットに積極的に動いてきた。DTPを日本マーケットに普及させるためには, その国の文化である文字がなければ,DTPの印刷物制作ツールとしての存在価値はない。 日本の各フォントメーカーは,電算写植や電子組版などの専用システムの日本語フォン ト開発に注力していたが,モリサワを除いてDTPへのフォント開発には消極的であった。 しかしDTPの話題が高まるにしたがい,自家用フォントをもつ組版専用メーカーは将来 のDTP対応に苦悩していた。つまりDTP対応のフォントを開発・販売することは,近い将 来自社の専用システムの開発・販売から撤退を意味するからだ。

ところが,当時のデジタルフォント・テクノロジーは欧米から導入されているが,日本 のフォントメーカーのデジタル化技術(特にアウトライン化)のレベルは低かった。唯一 且ハ研が1985年ころに「C(contour=輪郭)フォント」と呼ばれる,独自の曲線関数を用 いたアウトラインフォントを発表し先行していた。そして自社の電算写植の「サプトロン- ジミィ」や「サプルス-S」などに実用化していた。

RはIKARUSシステムを導入したのが1986年ころで,自社システムのフォント開発に精 一杯であったため,S氏はフォントビジネスのRI自力は無理と判断した。 そのころS氏はある人物からBitstream社を紹介されたので,所有のフォント技術を利 用することを考えた。一方Bitstream社もR/RIと提携することを望んでいたため両社の 思惑が一致した。

リョービフォントのIKフォーマットを基にBitstream社でType1化し,プリンタメーカ ーやRIPメーカーなどにOEM販売をするという構想である。しかしこの共同開発契約に到 達するまでにはいろいろ紆余曲折があった(つづく)。

*来る7月5日(金)に、澤田善彦氏が講演する「書体の変遷と表現技術」が開催されます。(編集部)

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DTP玉手箱

2002/06/22 00:00:00


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