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Web3D,そしてリッチメディアへ

ブロードバンドにむけて,Webサイトの表現力を豊かにする技術のひとつがWeb3Dである。通信インフラの高速化に加え,近年急速に3DCGを制作するツールが充実してきた。新しいインタラクティブなビジュアル表現として,Web3Dはどのように利用されていくのか,制作環境なども含めて紹介する。

 ブロードバンド時代に入り,ユーザがストレスを感じないでネットワークから映像や音楽,アニメーションなど大容量コンテンツにアクセスする環境が整ってきた。その中で,豊かな表現やわかりやすいコンテンツ作りをするために注目されている技術のひとつが,Web上における3DCGである。

 Web3Dを中心とした技術の利用促進に向けて活動している団体に,WEBリッチメディア・フォーラムという非営利団体がある。代表をデジタルハリウッド主任研究員の深野暁雄氏がつとめ,会員にはデザインプロダクションのセーバー(株)や(有)ポリゴンズ,ベンダーの(株)ケイ・ジー・ティー,日本SGI(株),富士通(株)など,Web3Dの先端ビジネスを展開する企業が会員として参加している。同団体は,WEBリッチメディアという名称のとおり,3Dグラフィックスに限らず,動画や音声などを含むリッチメディアコンテンツをWEB上で利用できる技術の普及活動とコンテンツ制作の促進活動を行っている。

 Web3Dの利用事例はインフラが進んでいるアメリカのほうが先行しているが,深野暁雄氏は「日本の大手企業でもWeb3Dコンテンツを自社のサイトに利用が進んでいる」と語る。トヨタなどの自動車のサイトや,千趣会のようなショップサイト,三井不動産などの住宅関係,ホンダのロボット「ASIMO」のサイトなどWeb3Dの利用は多分野にわたる。

Web3Dの変遷

 Webにおける3Dの技術は,1997年ごろに登場したVRMLが始まりである。「シリコングラフィックスが開発したVRMLは,開発するハードウエアやソフトウエアが高価な上,画像が粗い,セキュリティが甘いなどの問題があり,普及が進まなかった」と深野暁雄氏は語る。2000年ごろにVRMLはX3Dとなって復帰した。しかし,前述の問題が解決しないということもあり,企業各社は独自にWeb3Dの技術開発を進めた。

 これが,2000年から2001年にかけて制作ツール環境を急速に整えることにつながる。操作性に優れ,簡単で低価格な3Dアプリケーションが登場する。また,データの軽量化を実現する技術や高品質で高いセキュリティなど,インターネットで配信する場合に重要な技術課題も解決しつつある。一方で,数十種類もの規格が乱立するという問題点もある。2001年には,マクロメディアやアドビがWeb3Dに参入した。2002年7月にはWeb3Dコンテンツ制作に特化したツール「plasma」がディスクリートから発売される予定である。

魅力的な商品カタログへ

 Web3Dは主に商品カタログ,電子マニュアル,キャラクタアニメーションによるナビゲーションなどに利用されている。

 商品を表現するために使われるWeb3DツールにはCult3DやViewpointなどがある。Cult3Dはヨーロッパで実績があり,美しい画像表現ができるのでECサイトに適している。日本では三洋電機ソフトウエアが総代理店である。

 Viewpoint Experience Technology(VET)は,Web上で3DコンテンツやFlash,パノラマ,静止画などの複数のメディアを統合できるツールである。優れた金属やガラス,影の表現力に加え,圧縮率の高さからEC分野で最強といわれるほど評価が高い。アメリカではソニーやナイキのサイトに利用されている。日本ではケイ・ジー・ティーが販売代理店である。

 VETデータを作成するツールには,3Dデータを読み込んでシーンのレイアウトと編集を行う「Scene Builder」,VETのファイルからHTMLページを作成する「Media Publisher 」など4種類で構成される。VETデータを作成するためのツール類はすべて無料で提供されている。VETデータを配信する際にライセンス費がかかるので,商品画像の制作を依頼したクライアントなどがその費用を負担することになる。

わかりやすい説明係

 Web3Dのキャラクタはエンタテイメント系やショッピングサイトの案内係として利用されている。例えば,DCカードのサイトでは「門田ちはる」と名づけられた女の子のキャラクタが,DC会員限定の「DC Webサービス」登録の案内係として登場する。通常なら文章が多くなりがちなページを,キャラクタと音声のナビゲーションでわかりやすく説明してくれる。

 Web3Dのキャラクタアニメーションを制作するツールには,Pulse3DやQEDなどがある。DCカードのサイトのキャラクタアニメーションにはQEDが使用された。Pulse3Dはアメリカでは多くの実績を持つが,QEDのほうがポリゴン数を多く表現できる。販売代理店はイナゴ(株)である。

 キャラクタの制作プロダクションであるポリゴンズは,2002年6月にQEDの3Dアニメーション制作をより簡単にするツール「PuppetStudio」を発表した。技術が進んだとはいえ,3Dのキャラクタデザインとアニメーション制作は費用がかかる。PuppetStudioは5体のキャラクタと200種類のモーションデータを同梱することで,CGデザイナでなくても容易に低コストで制作できる。

マニュアル制作への活用

 巨大なCADデータを超軽量にできるXVLは,企業間や企業内での情報共有おいて威力を発揮する。XVLはトヨタ出資の元,ラティス・テクノロジーが開発した日本発の3D技術である。

 これまで,製造業において,設計・開発の時点で作成されたCAD・CAMデータが有効に活用されているとはいえなかった。3Dデータはモノ作りの現場にとどまり,マニュアル作成やマーケティングの段階で製品のビジュアルデータが必要な場合は,新たに図版を書きおこしていた。

 XVL技術は,3DデータをXML化してデータを軽量化し,ネットワークに親和性の高いデータを作ることができる。ラティス・テクノロジーでは,使う目的にあわせて各種のXVLツールを提供している。

 「トヨタでは社内の様々な場面でXVLを利用している」とラティス・テクノロジー(株)代表取締役社長 鳥谷浩志氏は語る。設計開発の部門で作られたCADデータをXVLビューアで誰でもみられるようにして,デザインを検討する際にイントラネットでアクセスする。子会社に発注している組み立てマニュアルにXVLデータを活用できるようなエクストラネットも構築している。

 ラティス・テクノロジーでは,XVL技術により,設計部門の開発段階で作成された3Dデータを,マーケティングやサービスメンテナンス,販売など全社で情報共有する「Casual 3D」を提唱する。

 単に商品を回転させるだけでは,Web3Dの魅力は発揮できない。表現の幅が広がる分,魅力あるWebコンテンツ制作のための工夫が一層必要となるだろう。(通信&メディア研究会)

WEBリッチメディア・フォーラム http://www.w3d-j.com/
ポリゴンズ http://www.polygons.tv/
ケイ・ジー・ティー http://www.kgt.co.jp/
ラティス・テクノロジー http://www.xvl3d.com/

(JAGAT info 7月号より)

2002/06/29 00:00:00


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