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XMLとパブリッシングワークフロー

基盤技術としてのXML

XMLはもはや注目される段階を過ぎ,いたるところあらゆる分野で基盤技術として浸透しつつある。印刷や出版にとって,このことはどういう意味を持つのだろうか。
基盤技術という言葉は,例えば「基盤技術研究円滑化法」に「鉱業,工業,電気通信業及び放送業(有線放送業を含む。)の技術その他電気通信に係る電波の利用の技術のうち経済産業省又は総務省の所掌に係るものであつて,国民経済及び国民生活の基盤の強化に相当程度寄与するものをいう」とあり,「ものづくり基盤技術振興基本法」には「工業製品の設計,製造又は修理に係る技術のうち汎用性を有し,製造業の発展を支えるものとして政令で定めるものをいう」とある。法律によって表現は異なるが,ポイントは「国民経済及び国民生活の基盤の強化に相当程度寄与する」,「汎用性を有し」という部分だろう。私たちが普段なにげなく使っているのと同じ意味のごく常識的な定義に思えるが,これをXMLにあてはめるとどうなるだろうか。

経済や生活の基盤を強化するために汎用的に用いられる技術が基盤技術であるということは,逆にいえば基盤技術だけではなにも始まらないということである。XMLが基盤技術になるということは,使う側はXMLなど意識せず,その上で生産活動や経済活動を行うことを意味する。XMLが基盤技術として確立してしまえば,もはやXMLで差別化することはできなくなるのである。

こうした基盤技術としてのXMLの利用には,電子政府というコンセプトに基づいて中央官庁が進めている政策や電子申請の導入を始めた自治体など行政側の取り組みがあり,また,民間各業界でもB2Bに象徴される動きが進められている。共通項はXMLをデータ交換のインタフェイスとして利用しようという視点である。

データとXML

出版・印刷,ことにDTPにおいてはデータフォーマットをどうするかが最大の課題と目されている。これまでフォーマットの標準化や統一がさまざまに試みられてきたが,標準化はともかく,出版・印刷,DTPのデータを一つに統一するのは難しいだろう。

私たちは普段,出版〜印刷〜DTPをそれぞれ一つの概念として括って考えがちだが,その内実は,あらゆるクライアントの要求に応じ,あらゆるユーザを対象としたさまざまなパブリッシングの姿である。共通項は結果としての(紙の)「印刷物」という一点だけであり,需要と供給のありかたによって,目的も種類も制作方法も工程も材料もすべて異なる。むしろそこにこそ出版・印刷の本質があるのではないだろうか。ひとたびそのような視点に立てば,印刷を脅かすとされるWebやマルチメディアさえ,印刷・出版のバリエーションと考えることもできる。

つまり,印刷物一般などというものはもともと存在しないのであり,そうである以上,基盤技術としてのデジタル化や標準化,自動化がいくら進もうと,印刷物一般に適用できる標準フォーマットが現れるとは思えない。それに,そもそもXMLが基盤技術として浸透し,共通かつ汎用に使われるようになるのであれば,そのうえデータフォーマットの標準化や統一を進めることにどれほどの意味があるだろうか? 共通の技術基盤が確立されるなら,逆にデータやワークフローは印刷物の目的や種類に応じて特化し差別化するのが現実的というものである。

それでは,印刷,出版,DTPにとってデータとしてのXMLはどういう意味を持つのだろうか。 InDesignはレイアウトソフトとしての導入,特に既存のDTPソフトからの移行はあまり進んでいないようだが,意外にもXMLの書き出し/読み込みツールとして重宝されているという。このようなアプローチは案外,的を射ていると思われる。

なぜなら,XMLは処理対象のデータとしてよりは,工程間やデータベースとの間でデータをやりとりする際のインタフェイスとして使うときに,その能力を最大限に発揮するからだ。DTP作業や情報発信には,必要に応じ目的に合わせて,従来どおりWYSIWYGのレイアウトソフトや自動組版システム,PostScriptやPDF,HTMLを使えばよい。そしてXMLをこれらの工程間や部門間の情報のやりとりのツールとして使うのである。

そのように考えれば,いきなり大掛かりなシステム構築に取り組むよりも,とりあえずはデータの出し入れ部分さえフォローしておけばよい。XMLを制作作業におけるいわばプラグインと捉えればよいのだ。印刷物制作の基本的な方法を変えるわけではないから必ずしも効率は向上しないが,このような対応によって次のステップへの準備を整えることができる。それがデータベースとワークフローでのXMLの利用である。

ワークフローとXML

ワークフローにおけるXMLの役割は,典型的には制作側と情報発信側や管理部門をデータベースやネットワークを通じて結びつけるツールとしての機能だと考えられる。ここでいうワークフローは,(1)特定の業種に限定されない汎用性と拡張性を持ち,(2)外部から管理するのではなく,最初からワークフロー自体に管理と自動化の仕組みが備わっていることを想定している。このようなワークフローにおいては,管理や自動化のための情報を処理対象のデータと同様に扱うことが求められる。

XMLがワークフローにおいて有効なのは,このようなワークフローにおいてであって,現状の多くの制作フローのようにデータの流れとそれをコントロールする部分が分かれていたり,人手による作業が少なくない場合は,「XMLによって万事解決」というような飛躍的な効果を期待するわけにはいかない。

XMLは,その長所ばかり喧伝(けんでん)される傾向があるが,実際の導入を進めるにはいくつか注意しておかねばならない点がある。第1に,XMLが基盤技術として将来にわたってずっと使われ続けるかどうかは分からないということである。これはXMLに限らずおよそすべての技術というものの性質だから,あまり疑い深くなるのも考えものだ。固定した技術がそのまま永久に使われることなどあり得ないのだから,常に期限をくぎった計画的なシステム構築を考える必要があるし,コンピュータ,ネットワーク,データベースなどほかの基盤技術の動向にも気をつけていなければならない。

第2に,XMLは基盤技術になる過渡期にあるということである。今のXMLの姿や利用法がそのままずっと有効だとは限らない。これは特にXMLを扱う製品の導入において注意が必要である。メーカーはそのときその場で製品を売らなければならないから,どうしても目先の需要に目を向けがちだし,そのときに必要とされる機能を優先しがちである。データベースを組み込んだ大掛かりなシステムはもちろんだが,XMLエディタやフォーマッタのようなツール類であっても,導入には的確なリサーチが必要である。そのためには,たとえ現在必要な作業がXMLデータの入出力だけだとしても,XMLの技術とその動向の全体を常に把握している必要がある。

第3に,XML自体の仕様は定まっているが,関連技術の標準化に不安定要素がある。例えばスキーマ言語におけるXML SchemaとRELAX NGの並存やAPIにおけるDOMとSAXの並存の問題,あるいはXSL-FOがどうなるか,また,リンク機能のためのXLinkやXPointerも本格的に利用できるまでには時間がかかるだろう。「データをXMLデータにするだけでよいのに,なぜスキーマ言語や専用APIやリンク機能などが別に必要になるのか? なぜ全部一つにしないのか?」という疑問を持つ人もいるだろうが,実はそれこそがXMLの最大の特長なのである。XMLデータそのものはテキストにタグづけしただけのものだから,きわめて扱いやすく汎用性もあり可搬性もある。そしてXMLデータを扱い,コントロールする機能を外に持たせることで,柔軟性と拡張性を確保できるのである。標準化の遅れは逆に将来性の証ともいえるのだ。

注意点の第4は,XMLをワークフローに導入するにはワークフローそのもののあり方を根本から考えなければならないということである。もちろん,XMLに合わせてワークフローを変えるというのでは本末顛倒だが,例えばXMLの機能によって現状のワークフローのどの部分をどのように改善できるかシミュレーションしてみるのは意義があるだろう。

印刷のワークフローとXMLといえば,CIP4/JDFに触れないわけにはいかない。2002年5月に発表されたJDF1.1の仕様書は500ページを超えるな大部なもので翻訳も出ていないから簡単に目を通すというわけにはいかない。だいいちそんな必要もないだろうが,CIP4/JDFは,PostScriptベースだったCIP3/PPFに比べ,XMLをベースにしたことで処理についての格段の柔軟性と拡張性を獲得し,JMF(Job Messaging Format)の導入によってジョブコントロールから生産管理全体への展望が開けたのが大きな特徴である。

CIP4には主要メーカーの多くが参加しているために,かえって将来性を危ぶむ声があるし,具体的な形が見えないので,なにがどうなるのか分かりにくい状況でもある。この段階で一つだけ確認しておきたいのは,プリプレスからポストプレスまでというCIP4のスローガンは,あくまでもXMLを基盤技術として利用して各工程を結び付けようということであって,なにもすべてXMLデータで最初から最後まで統一するという意味ではないということだ。CIP4/JDFにおいては,XMLがどうこうというより,データベースによるパブリッシングの工程管理というコンセプトが重要である。今後CIP4/JDF対応製品が登場してくるだろうが,データフォーマットの標準化とか完全自動処理というような謳い文句に惑わされず,データベースとワークフローの汎用性と拡張性をどれほど確保しているかに注目したい。

パブリッシングとXML

以上述べてきたことから分かるように,XML導入を検討する場合は,最初からパブリッシングに絞ったシステム構築を考えるより,汎用性のあるデータベース運用や工程管理の仕組みに目を向けたほうが将来性も確保できるし,結果的には近道である。

日立ソフトウェアエンジニアリングのEnterprise Publisherは「XMLデータベースパブリッシングシステム」というキャッチフレーズの通り,Oracleなどのデータベースを核としたドキュメント制作・管理システムで,テキストをマルチリンガル化し,複数言語の翻訳支援を特徴とする。しかし文書制作工程における最大の特徴は,レイアウトに関して3B2などによる自動組版をサポートしてはいるが,基本はPDFで出力するという点である。「データベース〜XML〜PDF」というかたちは,ドキュメント制作・管理システムで主流になりつつある。XMLはこの流れの中でデータ受け渡しのインタフェイスになっているわけだが,データベース自体はなんでもよいわけだし,DTP側のソフトもなんでもよい。つまり,XMLだけがほかには代えがたいインタフェイスとしてコアの役割を担っているわけである。

メディアフュージョンのYggdrasillは,XMLをツリー構造のまま扱えるデータベースエンジンである。現在広く普及しているリレーショナルデータベースは,データをテーブルに格納するため,不定形なデータが扱いにくい。XMLデータベースであれば,ファイル単位・ドキュメント単位でデータ管理できるので自由度も高く,データをテーブルに格納するためのスキーマ定義が不要なのでコストや時間も抑えられる。さらにデータベースと連携したWebシステムの構築も容易だ。Yggdrasillはシンプルプロダクツと廣済堂が共同開発した自動組版システムXML Automagicのデータベースエンジンとして採用されてもいる。

現場ではどうしてもエディタやフォーマッタなど具体的なツールに目が行ってしまうが,以上の2製品の例でも分かるように,XMLを有効に活用するにはデータベース構築が不可欠である。少なくともデータベースを前提としたワークフロー構築について,検討を始めるべきではないだろうか。

■出典:プリンターズサークル 2002年7月号

■XML活用のベストソリューション 高機能XMLデータベースエンジン 「Yggdrasill 1.5」
 株式会社メディアフュージョン http://www.mediafusion.co.jp

■専門知識がなくてもダイジョウブ XMLドキュメント製作システム 「Enterprise Publisher」
 日立ソフトウェアエンジニアリング(株) http://www.hitachi-sk.co.jp/Products/XmlEP/

■関連セミナー:8月30日(金)開催!!  XMLとパブリッシング

2002/07/11 00:00:00


公益社団法人日本印刷技術協会