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印刷産業は部分最適から全体最適へ

2002年4月9日から17日にかけてイギリス・バーミンガムにて4大国際印刷総合展の一つ「IPEX2002」が開催された。5月21日のテキスト&グラフィックス研究会のミーティングでは,印刷業界向け情報提供ポータルサイト「ジーエーシティ」を主催されている堀本邦芳氏よりIPEXのトピックについてお話いただいた。堀本氏には各分野において非常に詳細にご報告いただいたが,全体の傾向とCTP関連動向にテーマを絞って取り上げる。

全体最適に向かう印刷業

IPEXに見た全体の傾向として,印刷産業は部分最適から全体最適への時代に入ったといえる。CTPやデジタルワークフローは当たり前となり,今後はさらなるフルデジタル統合とIT化への対応が求められている。展示の内容も大型ハードウエアの製品発表というよりは,業務の効率化やコスト削減のソリューションの提案が目立った。印刷の全体的なシステム統合の流れとしては,オンプレスイメージング,すなわち印刷機上にCTPのイメージングユニットを設置したマシンが数多く見られた。また,ハイデルベルグやマンローランドなど印刷機メーカーによるトナーデジタル印刷機への展開も見られた。それから,工程短縮をするために,印刷と後加工を1パスで同時に済ませる傾向も目立った。
全体最適化に向けて生産管理などのマネジメントシステムが大きくクローズアップされていた。CIP4が出てきて,プリプレス,プレス,ポストプレス間のプロセス制御を行うための仕組みができてきた。ハイデルベルグのブースでは,Prinectというコンセプトで,入稿から製版・印刷・後加工をMISで一元管理するという展示を行っていた。PrintCityは,異業種間でオープンなシステム構築を行うというコンセプトでマンローランドとアグフアが中心メンバーとなり組織化されたもので,フロントエンドから後加工機までを接続し,それらを工程管理システムと連動させるという展示を行っていた。

CTPのトレンド

CTPのトレンドとして次の4点が挙げられる。第1に超大型機と小型機のラインナップの充実,第2にサーマルvsバイオレットのせめぎ合い,第3にCTCP(Computer to Conventional Plate),いわゆる通常のPS版を使ったCTP,第4に次世代のプロセスレスの技術である。
クレオはSQUAREspotというレーザ技術の優位性を強調した販売戦略を一貫して取っている。SQUAREspotの技術をLotemラインにも搭載した。また,SQUAREspotの高品質網点を用いたFMスクリーニング「staccato」を積極的にアピールしていた。モアレが発生しないというメリットのほか,刷版品質が安定しているので,印刷品質も安定し欧米のユーザはインキの使用量が減っているという。
富士フイルムは,CoResScreening(日本ではCo-Re SCREENING)を発表していた。これはAMスクリーニングであるが,人間の目の視覚特性を利用して,出力解像度2400dpi程度で300lpi相当の画像品質が得られ,高精細化が図れる。また,出力解像度1200dpi程度で175lpi相当の画像品質が得られるので,従来品質のままで生産性向上(出力スピード向上,データサイズ縮小)が図れるという。
CTCPにも活発な動きがある。EskoGraphics社はNew Diconを発表した。drupa2000で最初に発表されたものだが,だいぶ完成度が上がっているようで,2002年秋のアメリカでの展示会,グラフエキスポあたりで正式発売になるかもしれないという話であった。新聞向けのシステムで1時間に100枚出力するということである。
Basys社のCTCPは日本では東洋インキが扱っている。欧米では新聞用途に多く使われているようだ。UV-Setter710-f/f2という新製品を出していた。解像度が最大3000dpi/250線に向上し,露光スピードも従来タイプの2倍,精度は±2μmとなっている。露光ヘッドにTexas Instruments社のDLP(Digital Light Processing)という技術を採用している。これは,デジタル・マイクロミラー素子(DMD;Digital Micromirror Device)を制御する光処理技術で,デジタルシネマなど次世代のデジタルディスプレイ向けの技術といわれているものである。
この新しい露光ヘッドで作成した網点は非常にエッジがシャープなハードドットとなるので,印刷時に点減りもドットゲインも少なく,非常に品質が安定する。クレオのSQUAREspotも同様のメリットをアピールしているが,従来のPS版でもこうした特性を出せるということである。UV-Setter710-f2は,露光ヘッドを2つにすることでさらに高速化したタイプであり,菊全版を1時間に25枚(1500dpi,画像面積率50%)露光する。

次世代のCTPプレート

KPG社は,DITP GoldプレートとSwordサーマルプリンティングプレートを発表した。前者は高感度,高解像度化が図られたサーマルプレートで,後者はプレヒート,バーニング不要で40万枚の耐刷力をもつポジタイプのサーマルプレートである。また,3種類のプロセスレスのサーマルプレートの技術展示をしていた。1つはアブレーションタイプ,2番目は,アブレーションの一種だが,膜を完全に焼き飛ばすのではなく浮かして湿し水でふやかした後,インキで取ってしまうという湿し水現像タイプ。もう1つが相変換のスイッチャブルポリマーで,これは日本では旭化成が研究している。この3種類は市場に投入するのはまだ先のようである。DI機がもっと普及しないと生産ラインに乗せるメリットがないという考え方のようだ。
富士フイルムでは,参考出品も含めて5種類のCTPプレートが展示されていた。(1)商業印刷用バイオレットCTPプレート「LP-NV」(参考出品),(2)商業印刷用フォトポリマー「LP-N3」,(3)プロセスレスサーマル「LD-NS」(参考出品),(4)商業印刷用サーマル「LH-PSE」,(5)新聞用フォトポリマー「LP-NN2」の5種類である。また,小森コーポレーションのブースでは,DI機のデモに富士フイルムのプロセスレスのサーマルプレートを使っていた。
アグフアは,ThermolitePlusを発表した。これは現像処理を必要としないDI印刷機向けのネガタイプのサーマルプレートで,drupa2000で発表されたThermoliteの改良タイプ。耐刷力が3万枚から10万枚まで向上している。
PRESSTEK社はCTPやDI印刷機用のサーマルイメージングヘッド「ProFire」をさまざまなメーカーにOEM提供している。リョービや桜井,ゼロックスなどである。またIPEXでは「Applause」というサーマルプレートを展示していた。これはアブレーションタイプのプロセスレスプレートである。通常はアブレーションを行うと,焼き飛ばされたゴミ(デブリ)が発生する。初期のQuickMasterDIでは,露光後デブリを手で拭き取っていた。「Applause」は,デブリが全く出ないという。ただし発売はもう少し後ということである。
またCTPプレートは,さまざまな国のメーカーから出展されていた。スペインやイタリア,あるいはブラジルのメーカーの物もあった。まだ中国製のプレートはなかったが将来的には分からない。

テキスト&グラフィックス研究会
JAGATinfo2002年7月号より

2002/07/09 00:00:00


公益社団法人日本印刷技術協会