本記事は、アーカイブに保存されている過去の記事です。最新の情報は、公益社団法人日本印刷技術協会(JAGAT)サイトをご確認ください。

セグウェイ(exジンジャー)の乗り心地

アメリカのフロリダ州オーランドで6月22日〜25日に行われた新聞制作展 nexpo2002 報告2。報告1はここ
この展示会は前評判から盛り下がっていて、主催者は開場のテープカット場に人を集めようと、その時にダイヤモンドのネックレスを抽選であげるという企画をしていた。一応その様子を眺めて、会場内で主催者コーナーを探した。びっくしたことに小走りくらいのスピードでセグウェイに乗って誰かがやってきて、キュッと止まった。こ、こ、これは昨年発明家ディーン・カーメンの謎の大発明といわれたジンジャーを商用化したセグウェイではないか! よく見ると、主催者がセグウェイ試乗コーナーを作っているのだった。

セグウェイは写真のようにネコ車を両輪にしたようなもので、前に子供のオモチャのスクーター(近年はキックボードか)のようなハンドルが直立している。バッテリーがエネルギー源でモーターで2輪を別々に駆動している。左右別々に回転するので、その場でぐるッと方向を変えることができる。機種は3つあり、最下位でも一回の充電で20kmほど走れる。速度は時速16kmほど出る。積載重量は113kgなので、普通の人間なら、かなりの荷物を背負っていてもよい。

どうしてこれがnexpoにあるのか。実は6月4日にU.S.Postal Officeが試しにセグウェイ40台を購入したことがある。これを郵便配達につかう最初の試験はうまくいき、全米数箇所にわけて続けて配達の試験をしている。このほか、お巡りさんも含めて監視・巡回などの業務を行うところが、数台単位で試験的に使い始めている。それで、「新聞配達にいかがですか」という意味でnexpoに登場したのだろう。セグウェイには小さな荷物籠のついた機種もあるが、基本的には大きな荷物を運ぶものではなく、コンセプトは Human Transporter である。

最初にセグウェイに乗って現れた人物はインストラクターで、書類を小脇に抱えながら片手でハンドルを持って運転していた。彼が降りると、ハンドルは直立したままセグウェイは止まっている。つまりセグウェイはジャイロをもって姿勢を保つことができるもので、それによって倒れないし、少々の道のでこぼこは乗り越えられる安定性がある。面白そうなので、試乗の場所に行くと、私の前には女性がいて、私は2番目だった。ロープで区切った簡単な迷路の中を走ってみるのである。

まずインストラクターから各部位と操作の説明を数秒聞いた後、片足づつセグウェイに乗せてみたがマシンはぐらぐらせず、階段を一段上がった程度のものだった。前進後退は、ハンドルを持って体の重心を前か後ろに傾けることで操作する。前進姿勢から体を後ろに反らすとブレーキがかかったように止まる。急に重心を動かすと急に止まり、ゆっくりならゆっくり止まる。さらに重心を後ろにすると後退する。ハンドルの左のグリップ(右グリップのものもあるようだ)を向う側にねじると右旋回、手前にねじると左旋回になる。

この重心移動と左手のひねりで、向きや速度の調整ができるわけで、それが非常に巧妙に設計されているので、非常に自然に操作できる。実際に、乗った途端から操作できるといっても過言ではない。倒れる危険性は、普通の運動神経の人なら、まずないだろう。立っているだけで体がほぼ「思い通り」にスーと移動していく様は不思議なものがある。また車輪にモーターが直結しているので、他の駆動系がなく、従って殆ど音がしない。無音で人がスーと横に移動することも不思議さに輪をかけている。

セグウェイは両輪別駆動のおかげで、非常に狭いところでも向きが変えられるので、自転車よりももっと込み入った通路を通ることができる。バッテリ駆動なので、屋内の長距離(どこ?)には向いているだろう。バッテリーはニッカドというし、どうも動力系は特別のことはないみたいで、ジャイロによる安定性とヒューマンインタフェースの勝利である。

しかし現実問題として新聞社のセグウェイへの反応はあまりない。それは現状はセグウェイよりもずっと安いスクーターで事が足りているからである。このような、今までと全く違ったもので、すぐに役にたたない点で、いかにも大発明らしいものである。こういうことをするアメリカという風土が、今後10〜20年先に実る何かのタネを蒔き続けているように思える。それは随所にみられる。このようなタネを個別に見ていてもどのように役立つのかわからないが、それがそのうち複数結びついて大変革になるのかもしれない。CGが映画に使われたり、さらにデジタル映画ができつつあるのも似たようなものである。

今新聞の配達はあて先をPDAに入れて、それをみながらほり込むことがされはじめているが、GPS付き無線インターネットのセグウェイができたら、配達先を道案内するインテリジェントな道具となるだろう。これはユビキタス・コンピューティングの時代のことになろう。(それまで新聞がもつか、の議論は別にして)
新聞のシステムに話を移すと、制作システムや会計システムなどを個別に稼動させている時代は終わり、それらのシステムが連携して最も効率的な組織管理ができるような方向にある。組織全体の効率化によって、例えば広告がタイムリーに容易に安価にうてる媒体になるのだ、という意思がある。そのために今日開発された役に立つITは何でも使おうという姿勢になる。

このようにアメリカは新技術の組み合わせで新たなビジネスを模索し、DTPの開発は止まったかのようになった一方で、従来型の紙メディアのシステムを発展させようとする意欲はヨーロッパで相対的に強くなっているように思える。その両者が出ていたnexpoで、では日本人はどんなスタンスでいるべきなのだろうかと考えてしまった。

関連情報 : 7月16日NEXPO2002報告 AdobeもQuarkも勝てない新聞システム

2002/07/10 00:00:00


公益社団法人日本印刷技術協会