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売上のわりには電子メディアに積極的な印刷業


社団法人日本印刷技術協会(JAGAT:東京都杉並区)の通信&メディア研究会は2002年6月,JAGATの会員を中心とした日本の印刷会社1000社の経営者を対象にデジタルコンテンツビジネス動向アンケートを実施した。FAXで1000社にアンケート用紙を配布したところ,90社からFAXで回答が寄せられた。大都市を抱える都府県からの回答数が半数で,それ以外は,北から南まで比較的分散して回答が得られた。 →デジタルコンテンツビジネス動向アンケート集計結果

●企業規模

10名から500名未満の印刷会社から回答がよせられた。10名未満と500名以上の社員数を抱える企業の回答は無い。家族で運営している極端に小規模な印刷会社や,逆に多分野のビジネスを展開する大規模な印刷会社などが無いという点で,平均的な印刷会社のデータを入手することができたといえるだろう。

●DTP・プリプレス制作スタッフの人数(社内/社外)

ほとんどの印刷会社がプリプレスやDTPの制作に関わるスタッフを抱えていることがわかる。社外スタッフへDTPなどの制作を発注している企業は約5割に経る。SOHOのスタッフに依頼するよりは,社内でDTP関連の制作を行うほうが多いと考えられる。
 一方で,顧客側が組版まで行うケースも増えているので,印刷会社のDTP制作の仕事自体が減っている。印刷会社内でDTP制作をするとコストがかかりすぎるのだろう。
 また,社外のスタッフに対しては,社内にスキルのない業務,例えばデザインや映像や音楽の処理の外注など,スキルを必要とする業務を発注しているのではないか。

●Web,電子メディアの制作スタッフの人数(社内/社外)

社内におけるWebや電子メディアの制作スタッフは1-4名と応えた企業が56%あり,少人数で仕事をこなしているケースが多い。DTP制作と兼任しているスタッフもこの中に含めて回答しているケースや,派遣社員に業務を任せているケースもあると考えられる。
 後半に質問した「デジタルメディアビジネスの売上シェア」に対して,64社が数%と応えているのと照らし合わせると,スタッフの人数は妥当であろう。その一方で,売上の割には意外と多く社外のスタッフを活用している。

●システム管理者の人数(社内/社外)

従業員数の規模から考えると,意外とシステム管理者がいる。人数の多い所は各部署に担当を割り振っている可能性もある。設備計画やOS/ソフトのインストールやバージョンアップは別の業務のある人が兼任で行うことは難しい。
 社外スタッフ1-4名が25件というのは結構多い。システム管理のアウトソーシングも数に入っているのだろう。印刷業はマシンのメンテナンスはベンダーに依存するケースが多いため,ネットワークやデータベースシステムについても任せているのだろう。プロバイダの提供するサービスも,一部はアウトソーシング業務を担っている部分がある。
インターネットで商取引を行う場合,Webサイトは24時間365日止めることはできない。そこで,外部のデータセンターを利用しているケースもあるだろう。

●現在多いデジタルメディアビジネス

第1位はCD-ROM,DVDパッケージ制作,第2位はホームページデザイン,第3位は企業のWebサイト構築となっている。CD-ROMやホームページといった制作の仕事が上位にあり,システム的なサービスは下位にきている。

●2年後に目標とするデジタルメディアビジネスの売上順位

 データベース構築の順位が5位から1位へと急上昇する。データベース構築の仕事には,入力作業のほかに,納品後の更新など継続した仕事が期待できる。パッケージソフトのように作って終りというより,後々まで管理が必要なほうがビジネスになる。カタログ,電子マニュアル制作の順位が上位にきている理由も,内容更新のビジネス,付随ビジネスとして期待しているのだろう。

ホームページのポイントが下がっていることからも,ホームページ立ち上げ時の仕事を受注するよりも,内容更新の仕事へシフトしていきたいという意向の現れだろう。例え,ホームページの見直しや改定が発生した場合は,ユーザビリティ(使いやすさ)を科学的に分析しなければいけないので,印刷の範疇から離れてしまう可能性はある。印刷会社が新規開拓をして,Web制作の仕事を受注するのは難しいので,既存顧客に対してWebの提案をするといった顧客密着型提案などが求められてくるだろう。

 一方で,音楽や映像などの電子メディアにあまり重点を入れているところはない。敷居が違うと考えていることが伺える。電子カタログと電子マニュアルは印刷から全く離れてしまうものではないので,その当たりに生きる道があると考えている印刷会社は多いだろう。

 電子マニュアル・電子カタログの順位が4位から3位に上がる一方で,電子書籍は8位のままと順位に変動がない。前者はBtoB,後者はBtoCという性質があり,BtoBのほうが確実に売上が期待できると考えている。また,電子書籍はフォーマットが標準化されていない,出版社がまだ本気で取り組んでいないなど,普及の兆しがまだみえていないというのが原因だろう。

 「コンテンツ配信のASP」というのは,凸版印刷のBitwayのビジネスモデルを想定した。ECより順位は上にあるものの,全体的には下位に位置している。これは,コンテンツを作って終わりという企業が多く,凸版印刷のようにコミュニケーション,つまりビジネスができるほどまで発展してかないということだろうか。

 社内文書のデジタル化に取り組むことに関するポイント数が下がっている理由は,将来の社内文書は既にデジタルになっているということを前提としているからだろう。ただし,2年後ならばまだ,官庁が情報公開にむけてドキュメントを電子化していくというビジネスは存在するだろう。


●資格取得

約7割の企業が何らかの形で社員の資格取得を推進している。資格取得に意欲的な印刷会社は比較的多い。ただし,今後,どのような資格を社員に取得させれば良いかという問題はある。最も簡単な方法は,既に必要な資格を取得している人,即戦力を雇うことで,それはかなりあるとみられる。
 いずれにしても,新しい業務がおこったら,新しい勉強をさせるという流れになっていくだろう。

●事業におけるデジタルメディアの売上比率

 デジタルメディアのビジネスが売上の数%を占めると応えた企業は,実際には2〜3%だろう。小規模な会社の場合は,顧客のニーズが変われば,すぐに売上比率は変わる可能性がある。実際に印刷会社でも,すでに売上の70%以上がデジタルメディアビジネスであると応えている企業があるのは驚きだ。

●人材面で困っている分野

 全体をみると,第1に営業,第2に技術の方向性を判断する人,第3に現場のリーダが不足しているということがわかる。つまり,どう売るか,何をつくるか,どうつくるか,ということが課題となっている。営業が困っているというのは,マーケティングがうまくいっていない,社内に何が必要かを伝える人がいない,ということを意味する。得意先自身が変わろうとしている状況に,うまく対応できているところが少ないし,どこでどのような市場がでてくるかがみえていない。印刷会社はデジタルの分野において,得意先も自分も双方儲かるという提案ができる営業が必要である。データベース構築に関してもコストダウンにつながるようなシステムを目指すところが増えている。

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電子メディアといっても,あくまで従来のマニュアルやカタログのコンテンツをメインにして,制作中心からシステム運用も含めたビジネスへ,というのが当面の流れのようだ。(通信&メディア研究会

■2002年7月7日付けコラム
デジタルコンテンツビジネス動向アンケート集計結果

2002/07/23 00:00:00


公益社団法人日本印刷技術協会