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メディアのデジタル化効果は、これから出る

縮小均衡と業態変化

近未来の大きな課題に地球規模の人口増大があるが、先進国は少子高齢化になっているので、人口増大は発展途上国で起こる。これは資源環境問題などの不安のタネではあるが、こと印刷に関してはこれから大変な需要増大が見込まれることでもある。ちょうど日本の第二次大戦後の経済成長のようなことが桁違いの規模で起こる一方で、日本は人口が減少して国内市場が縮んでいくような2極分化がますます明らかになっていく。

日本でも十数年前までは、GDPに対する印刷の弾性値はずっと1以上であったが、それは印刷が経済の先行指標になるような性質があり、教育でも販売促進であっても、印刷物は成果が出る前に投資しなければならないからであった。これは発展途上国にもあてはまり、成長を夢見るところは印刷が先行して伸びていくだろう。

このような日本および日本の周囲の変化により、日本の印刷業もビジネスの性質を変えざるを得なくなってくる。国内市場に固執すれば縮小均衡しかないので、成長する経営をするには、発展途上国の内需をターゲットにした現地での印刷ビジネスとか、印刷出版を輸出型産業として捉えることが起こるだろう。これはイギリス・アメリカが英語の出版物を世界的に売っているように、日本が世界にコンテンツを発信するという可能性も、ポップカルチャー的なものでは切り開かれてきた。ともあれ、今までとは異なる印刷の業態が模索されていくだろう。

縮小する国内印刷市場では、一般的には高能率で低コストを実現するところが競争に勝つことになるので、ニッチ型のビジネスとしては印刷そのものよりも印刷に関連した顧客業務の支援やソリューション提供に付加価値をみいだそうという動きが一層盛んになるだろう。その理由はデジタル化がまだ端緒についただけで初期投資の軽減くらいしか効果はないが、プロセスのデジタル化の効果を発揮して本格的に進むのはこれからからだからである。

印刷の制作工程はデジタルカメラからCTP・DI印刷機までデジタルで貫通してしまったが、実際にはデジタルで最短最適のワークフローはまだ運用されておらず、従来の原稿受取り・校正という随所に営業や工務などの人を介したワークフローで仕事をしている。これは次第にeビジネスモデルに置き換えられていって、そこで省略された工数だけコストは下がっていくので、eビジネスモデルに置き換えられないところは競争力を失うだろう。

いずれにせよ、より少数の会社が、より高効率で需要をカバーすることになる。ここでの高効率とは単に印刷側のシステムの問題ではなく、発注者側の準備段階の作業も含めた最適化が必要なので、高効率の実現は顧客とのパートナーシップで成り立つものである。

従来から中小印刷業は印刷物企画に関してはニッチ型の展開をしてきたが、これからは制作システムを共有するようなシステム構築のニッチ展開に業態を変えるところが増えるだろう。国内の印刷産業の発展のためには、以上の海外進出、文化輸出とかeビジネス=システム共有以外にも、新たな業態を模索することが印刷業の最大の課題になるだろう。

クロスメディア

2001年度は「2050年の印刷を考える会」の活動において、先進国と発展途上国における紙の必要量は今後とも確保されそうなことや、紙の情報媒体が作り上げた文化的な慣習は、そのまま電子メディアに移行できるものではないので、情報伝播効率とは別の理由で印刷物は残るだろうことが検討された。

PAGE2002では「印刷への挑戦」と題して、電子ペーパーやモバイル、バーチャルリアリティーなど、これからの電子メディア環境がどのような展開をして、印刷とはどのような関係になるのかを考えた。15年前は不特定多数に向けた情報発信手段は印刷とラジオ・テレビにほぼ限られていて、しかもラジオ・テレビは小さいビジネスには向かず、小回りが利くものは印刷しかなかった。

ところが、電話での情報サービス、パソコン通信、eメール、WEB、iモードなど、次々と新たな情報手段が登場し、それらは個々に離れて存在するのではなく、一つのコンテンツが変幻自在に姿を変えて身の回りに現れるようになったのである。 印刷メディアしかなかった時代から、多メディア複合利用の時代に入ったので、印刷かデジタルかという2項対立的な捉え方ではなく、メディアニュートラルなビジネスの視点に変える必要がある。

かつてワンソースマルチユースが叫ばれた時は、印刷のソースを前提にして、印刷のオプション的な位置付けに電子メディアを置いていた。しかし今日の電子メディアは、一方では情報インフラとして印刷ソース以前のところに潜り込み、もう一方で販促などではどんなメディアを使おうとも販促予算は一定という前提があるので、マルチメディアは印刷のオプションには成りえず、印刷と電子メディアの両方を行って1+1=1という支払いになろうとしている。

従って今日のクロスメディア戦略は、顧客の求める出力形態は何でも応じられるような、メディアニュートラルなシステムを構築することであり、主たる収益が印刷から出るのであっても土台はクロスメディア対応に作り変えなければならなくなっている。でもこれは顧客の情報インフラの作り変えと同期するものであるので、印刷業にすぐに直接的に利益をもたらさないかもしれないが、取組まざるを得ない。

長期的には印刷とITとか電子メディアは正面からはぶつかりあわず、一部で紙から電子媒体への静かなシフトがありえるものの、電子メディアは主として「書き文字や写真以前」のメディアになる。印刷は原稿や写真などの素材を揃えてから制作のプロセスが始まったが、原稿や写真の生成のところ自体がデジタル化され、また伝送可能になると、制作プロセスを省略して、インターネットのオークションのように欲しい情報を欲しい人にリアルタイムで届けることができるようになる。こういったシステムでは途中であまり人が関与しないので、情報に「意図」が入り難い。

一方印刷は、それら動的な情報チャンネルから静的に情報を切り出して、ある視点で整理された意図的なメディアという点が特徴になり、動的なシステムとは補完的な役割を持つことで将来とも残ると考えられる。ここでは印刷物という静的で受動的な媒体が意味を持つと言う点と、意図的に編集するという点が重要である。

以下、省略

(出典 JAGAT 発行「2002-2003 機材インデックス」工程別・印刷関連優秀機材総覧 テクノプロフィール)

2002/08/08 00:00:00


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