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モバイルとeBook:安全圏での静かな船出

eBookの概念はもう随分前からあるが、ビジネスのモデルはなかなか出来上がらない。デジタルデータを処理する技術は殆ど問題ではないだろう。一般に言われているのは、文字を読むに耐えられるデバイスとか、著作権管理などである。前者は時間の問題で、今でもOKな分野はあるし、欲を言いだせばなかなか出てこない。後者はいつまでたっても解決しないで、モラルとかリテラシーが徐々に出来上がるのを待つしかない。

アメリカではeBookをNapsterのようにするな、という運動が激しかった。P2P(ピアツーピア)のMP3音楽ファイル交換をするNapsterは数百万人ユーザの登録をセンター管理していたので、RIAA(全米レコード協会)がつぶしにかかり、猛烈な訴訟攻勢を受けた。 その成果はあって、ユーザ間のコピー交換は沈静化したかのように見えるが、もともとCDやレコードのない時代から音楽はあったわけで、いかにRIAAがP2P技術に横槍を入れようとも、技術革新に裏打ちされた新しい土壌は今後伸びる。

Napsterのような中央のサーバはなく、どこで誰がファイルを共有しているか監視できないグヌーテラなど、アクセス禁止や訴訟を起こすのは困難な技術の発展を促すだけである。新方式はユーザのパソコンがクライアントとサーバの両方の役割を持ち、検索の仲介をしあうもので、ネットワークの帯域は消費してしまうが、それもブロードバンドになれば平気だろう。

このようなことが可能なのは、まさにインターネットの本質であり、技術革新の真理を敵に回しながら有料コンテンツ配信のビジネスを確立するのは容易ではない。この今日の膨張しつづける新旧秩序の葛藤を避けてビジネスをする方法はあるのだろうか。日本にはあるといえる。iモードのような、中心にNTTがいて全体を取り仕切っているものは専用サービスであり、技術的にはインターネットとは別の世界の安全圏である。

FOMAなど広帯域次世代携帯を普及させたいNTTと、頭打ちのパソコンの次にPDAクラスのモバイルデバイスの爆発を期待するメーカーと、小額課金をしてもらいたいコンテンツホルダーの利害はうまく一致するようにみえる。この携帯網という安全圏で着メロその他のコンテンツビジネスが育ったように、eBookの新たな秩序もここで育つことになるのかもしれない。

■出典:通信&メディア研究会 会報「VEHICLE」161号(巻頭言)

2002/08/18 00:00:00


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