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印刷産業はUDにどう取組むべきか

ユニバーサルデザイン(UD)のコンセプトである「障害の有無に関わらず,できる限りすべての人が使用可能な設計・デザインをすること」は、もちろん誰でもよいことであるとするだろうが、印刷産業のように直接消費者と対面しない業界にとっては具体的な対応が考え難いようだ。しかしUDが「ユニバーサル」であるためには、どこで誰が何を作ろうとも、その考えが具現化するような構造が必要である。それがなければ意識のある人だけがやる自己満足になりかねない。

実現に向けての大きな構造が必要なことは、近年大きくクローズアップされた環境管理や品質管理という先例から考えられることである。環境管理は地球規模の目標があり、そこからトップダウンで個別の日常の目標にまで管理が一続きでつながっていて、別々の企業活動を行いつつも全体として効果を現すとか、効果を高めることができる。品質管理も背景にPL法とかグローバルな分業の促進というものがあり、個別の企業が少ない自己負担で活動しつつも、全体の効果がでるような枠組みとして取組まれている。果たしてUDもこのようになるのであろうか?

UD自身は印刷の立場からは漠然とわかるテーマである。印刷物の制作をする人は、元々見やすさとか認知のしやすさを目指していたはずである。「これが見やすい」というのは通念としてある程度出来上がっている。文字の大きさや書体の使い分け、組版、配色、色の再現性、正確な印刷、などは業界内の教育指針もすでにある。
さらに近年は上記の個々の要素はデジタル化して管理が行い易くなった。しかし出来上がった印刷物がトータルで目的にかなっているかどうかの評価は科学的にやっていない。UDという点ではそこが今後の取組み目標であるが、いくつかの疑問がある。

印刷物の静的な評価は印刷業の内部でできるが、トータルに見る人を巻き込んだ評価の軸は新たに作ることになる。これをするにはどこか別分野と連携をしなければならない。以前から眼科の先生による文字の見やすさの研究論文があったが、似たものに交通標識など目の特性のデータに裏打ちされて決まった表現がある。遠くから見つけるためには、青地に白文字がよいとか、線の太さはどれくらいがいいなどである。これから高齢化などをもっと考慮して、しかも各利用分野のデータの蓄積に基づいて研究していかなければならない。

環境管理では昨年に日本印刷産業連合会が印刷業のグリーン購入のガイドラインを作ったのが記憶に新しいが、UDも個々の利用分野での研究と合わせて、印刷産業全体で何をしていけばいいのか、どの程度の努力が必要なのか、などを明らかにしていくことが、UDの具現化にも必要であろう。

UDをあいまいにしておいて、各社がそれぞれ勝手に工夫しているだけでいいのでないとすると、UD全体の枠組みや進み方について、UDに先進的に取組んでおられる方々のご意見を伺いたいものである。一部JIS化は既に知られているが、業界側の足並みとしては、各業界でどんな取り決めが考えられているのか、業界間の連携の話はどのようなものがあるのか、今後法的な整備が必要な分野は何か、これらの進展の速度はどのくらいなものと考えたらよいのか、などの情報交換を行って、印刷産業として、また個々の印刷会社として取組むべき課題の明確化を図りたい。

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2002/08/19 00:00:00


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