顧客の電子化が印刷ビジネスの仕組みを変える
プリンターズサークル誌では,年間テーマとして「デジタル化による印刷ビジネス環境の変化」を追求してきた。11月号特集では,印刷発注の電子化に取り組んでいる最先端のモデルを具体的に紹介すると同時に,2000年以降の得意先と印刷業の関係,印刷ビジネスの全体展望も示している。
現状の多くの一般印刷ビジネスはまだこの段階ではない,あるいは内容,得意先の特性により今後もこうした展開はしないとも考えられるが,デジタル化がもたらす社会環境や,仕事の仕組みの変革と意味を考える事例として,ぜひ全社的な検討資料に活用していただきたい。(プリンターズサークル11月号 特集記事より)
見積もりオープンエントリー制で競争原理導入
松下電工株式会社 住建分社 住建営業企画部
マーケティング企画グループ 次長 酒巻芳正
印刷関連業務をガラス張りにしてデジタル化へ
最初に取り組んだのが,印刷関連業務をガラス張りにすることである。どのような工程で,価格で,何を行っているのかがみえるようにした。
各事業部で印刷発注業務が教育されていないため,印刷物の品質,コストの管理が均一になっていない。そのため,デジタル化への取り組みを標準化した。
これらが達成された後は,印刷業務における品質コストの最適化を図り,全社印刷見積もりオープンエントリー制を導入した。
これは,印刷会社に対して,A社は良い,B社は駄目と選別するのではなく,適正な品質で適正な価格であれば,どの印刷会社にも機会を与えて,印刷会社同士で競争を行える仕組みである。
工程の完全分離,競争原理の導入
フルデジタル方式では,企画,デザイン・DTPが当社の管理である。版下・製版はなくて,DTP工程でフィルム出力する。従来方式でいえば,製版まで含めて当社の管理になり,印刷,加工を印刷会社に依頼する。つまり工程を5つに分けて,3つをクライアント側で管理にすることにより,効率化を図る。
この理由は,工程分業を完全に行うためである。印刷,加工以外をクライアントのコントロール下に置くことで,どこに費用をかけて,どのように効率化をしたら品質が上がり,コストが下がるかを,クライアント側でコントロールできるようになる。
企画・制作工程と印刷・加工工程,デリバリ工程を完全に分離し,競争の原理を徹底的に持ち込むことで,さらなる効率化を図ろうと考えている。
データベース構築はクローズドからオープン化へ
データベースに関しては,クローズドからオープンへという考え方である。基本は,同じテーブルの上での競争見積もりなので,クローズドな運用はしない。また,これからビジネスを展開する上で,画像データなども,さまざまなチャネルで顧客に提供される。あるいは顧客に提案を行う工務店のコンピュータのなかに,どれだけ有用なデータが入っているかにより,売り上げが変わってくる。こうしたことから,オープンな環境を作ることが基本である。
オープンエントリー制で見積もりに競争原理を徹底
……基本的に印刷物はネットワーク入札を行い,一番安い会社に決めていく。用紙も同様に,紙の代理店などで競争の見積もりを行う。
ネットワークでの応札はオープンエントリーで,となっているが,実際にはセミオープンエントリーである。
まず,基本契約を結んだ印刷会社にパスワードを渡して,このエントリーに入ってもらう。その上で,当社にこのような仕事があるから,応札に参加してもらいたい旨を配信する。これまでは,ファクスで応札への参加を募っていたのを,ネットワークにした。ネットワークにしたことで2つの利点がある。
ひとつは,ファクスの場合には,こちらからの見積もりのアプローチになる。その場合は,印刷会社サイドでは,見積もりを提出せざるを得ない。また,受注できそうにない場合に,極端な見積もりを出してくることもある。ところが,ネットワークでは,自らの意思で見積もりに参加する立場になるので,それなりの責任が伴い,市場の混乱を狙ったような極端な見積もりはなくなる。
もうひとつは,市況がどれくらいのものなのかが分かってくる。われわれは印刷の専門家ではないので,こちらで値段を設定し,発注したところで,その根拠はあいまいである。
(詳しい内容はプリンターズサークル11月号の記事をご覧ください)
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1999/10/28 00:00:00