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表外漢字字体表はどこへいく(2)

国語審議会は,表外漢字に関する印刷標準字体を示した表外漢字字体表を含めた審議会報告を,平成12年12月に文部大臣に答申した。この答申について,国語審議会が答申した背景,表外漢字字体表作成の基本的な考え方,作成目的や適用範囲,表外漢字の選定などこの答申の概要については,既に「表外漢字字体表はどこへいく(1)」で紹介した。
国語審議会の答申では,「今後,情報機器の一層の普及が予想される中で,その情報機器に搭載される表外漢字については,表外漢字字体表の趣旨が生かされることが望ましい。このことは,国内の文字コードや国際的な文字コードの問題と直接かかわっており,将来的に文字コードの見直しがある場合,表外漢字字体表の趣旨が生かせる形での改訂が望まれる。」としていたことなどから,「表外漢字字体表はどこへいく(1)」で紹介したように,JIS文字コード規格を所管する経済産業省産業技術環境局標準課では,平成13年度から新JCS委員会を設置し,文字コード規格の見直しに着手した。

今回は,この新JCS委員会の「平成13年度経済産業省委託 文字・画像・データ構造等の標準化に関する調査研究(符号化文字集合(JCS)調査研究委員会)成果報告書」(以降,成果報告書という)から,JIS文字コード改正の方針や具体的な変更箇所などの概要を紹介する。

JIS見直しのポイント

通常,JISの見直し(見直しは必ずしも改正ではなく,規格の改正,確認,廃止の3種類がある)は5年ごとであり,JIS X 0208の次の見直し時期は2002年,JIS X 0213は2005年までである。そこで,今回は,国語審議会の表外漢字字体表の答申を踏まえて,対象をその答申に絞って見直しが行われ,答申以外の部分の見直しはそれぞれの見直し時期に行われることになった。
成果報告書では,JIS見直しのポイントとして次の3点をあげている。

(1)本調査研究委員会は,国語審議会表外漢字字体表の趣旨を踏まえ,文字コード規格の見直しに関する検討を行う。
(2)表外漢字字体表1022字とJIS規格等の面区点位置との対応の確認。
(3)表外漢字字体表1022字をJIS規格にどのように反映させるかの検討。

新JCS委員会組織と活動の概要

財団法人日本規格協会情報技術標準化研究センターでは,上記のようなJIS見直しのポイントに基づく経済産業省産業技術環境局標準課の委託を受け,大阪府立大学名誉教授の樺島忠夫氏を委員長とした新JCS委員会を設置し,審議を行った。委員長の樺島氏は,表外漢字字体表を担当した国語審議会の第2委員会主査であった。副委員長は(財)国際情報化協力センターの佐藤敬幸氏である。幹事は,国語審議会第2委員会の委員を務めた京都大学教授阿辻哲次氏,(株)ジャストシステム小林龍生氏,東京外国語大学教授芝野耕司氏の3人である。芝野氏は,ISO/IEC 10646の翻訳JISであるJIS X 0221:1995,JIS X 0208:1997,JIS X 0213:2000などの原案作成委員会(JCS委員会)委員長を務めてきた。また,ISO/IEC 10646を管轄するISO/IEC JTC1/SC2の議長も務めており,現在2期目である。佐藤氏と小林氏は,ISO/IEC JTC1/SC2に対応した国内委員会SC2専門委員会の委員である。

新JCS委員会では,JIS見直しのポイントに基づいた検討結果を,「JIS文字コード改正の方針と具体的な変更箇所」としてまとめ,平成14年1月15日から2月15日まで公開レビューを行った。この公開レビューに寄せられたコメントを踏まえて成果報告書がまとめられたが,JIS規格原案の作成は平成14年度以降のJIS原案作成委員会に委ねられた。このJIS規格原案作成について,成果報告書では次のように記している。

当初の方針では,平成13年度中にJIS規格原案作成まで行う予定であったが,審議の時間的制約およびISO/IEC JTC1/SC2/WG2におけるISO/IEC 10646(UCS)規格化進行状況を反映したJIS文字コード規格改正の必要性を勘案し,規格原案の作成は平成14年度以降の活動に委ねることとした。

新JCS委員会の平成13年度の活動概要を,成果報告書から抜粋して以下に紹介する。

JIS文字コード改正の方針の範囲
表外漢字字体表には,1022字の印刷標準字体と22字の簡易慣用字体が示されている。本報告書において示すのは,表外漢字字体表に示されている各漢字の字形をどのように齟齬なくJIS文字コードに例示されている字形に反映するかである。
JIS文字コードとしてそれ以外に必要な作業,例えば例示する字形の変更を行った場合,変更前の字形に関しての附属書を追加するとか,追加文字が承認された場合に,現行規格の改版とするのか,新規格とするのかなどについては触れていない。これらについては,平成14年度以降のJIS原案作成委員会での議論の対象とする。

表外漢字字体表反映の範囲
表外漢字字体表には,(1)表外漢字の字体全般にかかわる基本的な考え方,(2)1022字の印刷標準字体,及び(3)22字の簡易慣用字体が示されている。以下においては,このうち,(2)印刷標準字体,(3)簡易慣用字体のJIS文字コードへの反映方法を示した。すなわち,(1)に基づいてJIS文字コードのすべての漢字を見直すことは行わない。(中略)

検討対象文字コード
検討対象文字コードは,次の4規格とした。
   JIS X 0208:1997
   JIS X 0212:1990
   JIS X 0213:2000
   JIS X 0221-1:2001
印刷標準字体1022字及び簡易慣用字体22字の上記JIS文字コードへの対応は次のとおりとする。
(1)JIS X 0213又はJIS X 0221を用いた場合,表外漢字字体表に示されたすべての印刷標準字体が扱えるようにする。
(2)JIS間の相互運用性を維持するために,次の対応を行う。
    JIS X 0213に,JIS X 0221互換文字を10字追加する。
    JIS X 0208には,文字を追加しない。
(3)JIS X 0212には追加・変更は行わない。
(4)JIS X 0221には追加・変更は行わない。
(5)JIS X 0208及びJIS X 0213の包摂の範囲は変更しない。

各文字への対応詳細
表外漢字字体表にある文字が,JIS文字コードにあるどの文字と同じであるかを決定(同定)し,その上で,生じ得るであろう問題点を分類し,その分類ごとに次のような対応策を示す。

(1)表外漢字字体表の字体表を印刷するに当たって,既存の平成明朝体のフォントをそのまま使用し,JIS X 0208およびX 0213の間で検討すべき問題を持たない815字については,JIS文字コードの例示字形を変更しない。(中略)

(2)上記(1)の815字のうち,次の4字については,同定された文字のほかに,対応が紛らわしい文字がJIS文字コードに存在する。同定された文字そのものには字体の相違がないのでJIS文字コードの例示字形を変更しないが,JIS文字コードに解説を追加するなどして混乱を防止する。(中略)

(3)次の39字[著者注:例えば「廻」「咬」など]については,表外漢字字体表の字体と同じであるが,同一字体での微細なデザイン差[著者注:例えば,筆押さえの有無など]が存在する。これらについては,JIS文字コードの例示字形を表外漢字字体表にある字形に変更し,デザイン差の誤解や誤認による混乱を防止する。(中略)

(4)次の7字[著者注:例えば「稽」など](15字形)については,デザイン差として表外漢字字体表に明記された字形がJIS X 0221に別字として存在するが,JIS文字コードの現例示字形は変更しない。デザイン差として明記された字形のJIS文字コードへの追加も行わない。(中略)

(5)次の100文字[著者注:例えば「溢」「葛」など]については,JIS文字コードに例示されている字形が表外漢字字体表に掲示されている字形と異なるが,JIS文字コードの包摂の範囲内であるので,JIS文字コードとしては同字と認め,今後の字体の混乱を防止する目的でJIS文字コードの例示字形を表外漢字字体表にある字体に変更する。(中略)

(6)次の28字[著者注:例えば「飴」「迦」「祇」など]は,表外漢字字体表でいう三部首許容にかかわるものである。これらの文字については,表外漢字字体表の例示字形に変更するとともに,規格票の解説等で,国語審議会答申の三部首許容の趣旨および現行の規格票に例示されている字形を明記する。(中略)

(7)次の10字[著者注:例えば「嘘」「倶」など]は,JIS X 0213(及びJIS X 0208)の例示字形を変更することが望ましい。しかし,変更すると,JIS X 0221(ISO/IEC 10646)との相互運用に不都合が生じるので,JIS文字コードの例示字形を変更しない。
ただし,これらの字体がJIS X 0213にあることが望ましいので,JIS X 0213に,表外漢字字体表の字体をJIS X 0221互換文字(注)として追加し,表外漢字字体表の字体が使用できるようにする。JIS X 0208には上記互換漢字は追加しない。(中略)
注:互換漢字の定義は別途定める必要がある。(中略)

(8)次の28字[著者注:「鴎」の偏が區の文字など]は表外漢字字体表に対応してJIS X 0208の例示字形を変更すると,JIS X 0213との不整合が生じるので,JIS X 0208の例示字形を変更しない。これらの文字はJIS X 0213で対応が可能である。(中略)

(9)次の2字はJIS X 0208には存在しない。しかし,それらをJIS X 0208に追加すると,No.0740[著者注:「ケ]についてはJIS X 0212及びJIS X 0213と,No.0094k[著者注:「濾」の旁が「戸」の文字]についてはJIS X 0213との相互運用に問題が起こるので,対応するJIS文字コードの変更は行わない。(中略)

成果報告書に記載された「各文字への対応詳細」に沿ってJIS文字コードが改正されるかどうかは,平成14年度以降のJIS原案作成委員会で検討されるが,実際に改正された場合にはどうだろうか。(5)で「例示字形を表外漢字字体表の字体に変更する」とした100文字には,例えば,「溢」の旁が「隘」の旁と同じ字体に変更されるような,違いが大きく感じられる文字もある。また,(6)の三部首許容の漢字は,JIS X 0208の1987年改正で字体が変更されてものをまた元に戻すものである。更に(7)の互換漢字の追加は,似た文字が更に増えることにつながるのではないか。表外漢字字体表の答申に伴いどのようにJIS文字コードが改正されるか,今後の検討結果を注意深く見守る必要がある。

なお,成果報告書は,「文字・画像・データ構造等の標準化に関する調査研究(符号化文字集合(JCS)調査研究委員会)成果報告書」の本文(PDF形式)で入手することができる。
(テキスト&グラフィックス研究会)

2002/11/10 00:00:00


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